76・わたしも行きます
「夜須美さん、どうしたの?」
翔子が訊ねると、夜須美は頭を掻きながら答える。
「……いや、なかなか翔子が戻ってこないからどうしたんだろうと思ってさ。あたしも由那の様子を見に来たんだよ。心配だったし」
夜須美は翔子の側まで歩いて来ると、ベッドの上の由那に心配げな表情で語りかけた。
「由那、もう大丈夫?」
「はい。大丈夫です、夜須美さん」
「そっか。よかった……」
由那の返答に、夜須美は安堵した表情を浮かべながら呟く。
翔子は暫くの間、由那と夜須美のやり取りを黙って見守っていた。
すこしの時間が経過し、ふと夜須美が時計を見る。
すると、何かを思い出したように口を開いた。
「……あ、そうだった。ここにあたしが来たの、由那の様子を見に来たのもそうなんだけど、翔子、あんたを呼びに来たんだった。すっかり忘れてたよ」
「……わたしを呼びに?」
翔子は首を傾げる。
夜須美は頷くと言葉を続けた。
「刑事さんが今度はあたしたちから話を聞きたいんだってさ」
「……わたしたちから?」
「うん。村長さんと、役場で用事があったらしくて村に来てた蒼弥さんと道枝さんも、婆さんが撃たれたって話を聞いてさっき屋敷に来たんだよ。それで、刑事さんも一度関係者全員からもう少し詳しい話を聞きたいって」
事件についての詳しい話を聞きたい。
夜須美の言葉に、あの和室で血を流し横たわる梓が、羽賀が銃で自らの頭を撃ち抜く光景が、そして狂気に満ちた瞳で佇立するさはなの姿が翔子の脳裏をよぎっていく。
……そう、あれはついさっき起きた出来事なのだと、翔子は改めて実感した。
(でも、さはなの、怨霊の存在を把握していない警察に、事件の事がどこまで分かるんだろう……?)
そんな不安を覚えながら翔子が考え込んでいると、直ぐ側で夜須美との話を聞いていた梓が苦虫を噛み潰したような顔を浮かべながらぽつりと呟いた。
「道枝と、あの男が……」
その言葉に、昨日梓が強い怒りの感情を道枝の結婚相手である蒼弥と呼ばれる人物に対して向けていた事を、翔子は思い出した。
(確か道枝さんの結婚相手である蒼弥って人と梓さんの間には、土地に関するトラブルがあるって話だったけど……)
梓の顔色を伺いながら、翔子は思案する。
「……どうしたの、翔子?」
じっと梓のほうを見ていた翔子の事を怪訝に思ったのか、夜須美が訊ねてきた。
翔子はあわてて夜須美の方を向くと、首を横に振る。
「……ううん、なんでもない。そうだね、じゃあ夜須美さん、そろそろ戻ろっか」
「うん。……あ、由那は別にここで休んでてもいいよ。刑事さんも体調が悪いなら今無理に話を聞こうとはしないだろうからさ」
そう夜須美が言うが、由那はベッドから足を下ろすと立ち上がり、口を開いた。
「……いいえ、わたしも行きます、夜須美さん。お婆ちゃんがどうしてあんなひどい目に合うことになったのか、わたしとしても何か分かるのならそれをやっぱり知りたいです」
「由那、ホントに大丈夫なのか?」
「はい。わたし、もう大丈夫です。さあ、夜須美さん、翔子さん、行きましょう」
由那は強い表情で頷くと、部屋の入り口へといそいそと歩を進める。
夜須美も由那に続くように廊下へと出た。
翔子も続いて部屋を出ようとして、その場にいる梓の幽霊の存在が気になってそちらを見る。
すると、梓は翔子に向かってこくりと頷くと、言った。
「翔子さん、わたしもついて行きます。なぜ自分が命を落とすことになったのか……。あなたが話したさはなという怨霊や犯人の男についても、やはり気になりますので」
梓の言葉に翔子は頷き返す。
由那と夜須美に続いて部屋を出た翔子と梓は、後に続いてゆっくりと廊下を事件のあった和室の方へと歩いて行く。
いったいこれからどんな話をすることになるのか……。
不安を覚えつつも、翔子は足を前へと進める。




