ささやかな反抗3
サンドール王国 ツェザール領
ザッザッザッと音を立て軍団は進む。しかし元は大した訓練も受けていない農民が殆んどであり、足音は全く揃っていない。
「これで大丈夫でしょうか?」家臣のアウグストは自軍のあまりにもひどい練度に不安になる。おまけに弓や槍といったまともな装備をしている者は十分の一程度で、残りは家庭用包丁や鍬を携えている。
「この数だ。いくら帝国とはいえ辺境の部隊相手だ。心配要らんよ。」ツェザール公爵は臣下の心配を鼻で笑う。
「しかし、応援を要請されればひと溜まりもありません!」
「今の帝国にそんな余裕はない。これであの忌々しい女豚を王座から引きずり下ろし、私が代わりに王に君臨できる!」公爵は快活に笑う。
「…公爵?民を救うために帝国を追い出すと言っておいでだったのでは?」
「ん?そうだったか?最近年のせいか記憶力が悪くてな。」
家族を殺され、もしくは搾取により家族を飢え死にさせられ帝国を本気で憎む者。農閑期で食うに困り金銭目的で行軍に参加する者。手柄を立て一攫千金を狙う者。色々な人を交えた烏合の軍勢15000はゆっくりと街道を進む。
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ミュルンヘルハン街道
ザッザッザッと規則正しい音を立て帝国軍は進む。各人の手には不思議な紋様が浮かんだ杖が握られている。
「本当に農民でなく貴族が反乱したのでしょうか。」マレノール中尉が疑問を漏らす。
「ああ、事実らしい。日本にもできるから、自分たちにもできると思ったのだろう。全くもって忌々しい。」今回の責任者に任命されたアイオス大佐が答える。
「こんな経験初めてです。どれくらいの数でしょうか?」
「不明だ。竜が使えんから偵察もできん。まぁ、所詮は野蛮人だ。大したことはない。」話していると伝令兵が息も絶え絶えに走ってくる。
「前方に敵を確認!数…1万以上!」
「1万以上だと!二重横陣を展開!敵を近づけるな!」
「あれでは?敵、接近してきます!」マレノール指をさす。
しかし接近というより突進というべきだろう。陣形など無視して全力で走ってくる。一見みっともなく思えるが、遮蔽物のないこの辺りで相手だけ遠距離攻撃が可能という状況においては案外悪くはないのかもしれない。
「陣形の展開完了しました。」
「敵陣地より煙があがってます!」
「煙だと!」白い煙が敵陣をすっぽり覆うように発生している。
「煙幕です!敵が煙幕を使用しています!ファイヤーボールの狙いがつきません!」
「後退だ!一度距離を取る。あれほど煙幕を乱用すればそれほど数は残ってないはずだ。」
「逆では?数に余裕があるから乱用できるのでは?」
「いいから後退だ!撃ちながら全力で下がるぞ!」
「了解!」幾つもの炎の玉が煙の中へ放たれる。見えないとはいえこれだけ撃てば、幾つかは当たっているだろう。
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火の玉を放ちながら、全速力で後退を続けること20分ついに限界がくる。
「ゼェ、ゼェ、ゼェ。」アイオスは息を切らして地面に倒れこむ。見れば他の兵達も苦しそうに呻いている。
「大丈夫ですか大佐?」
「ああ、それより敵は?」
「まだ煙幕の中ですが確実に近づいてきております。」
「くそ、体力は野蛮人の方があるか。しかし一体どれ程の量があるんだ煙幕は!」一朝一夕では用意できない圧倒的な量に愕然とする。
「煙幕の中から敵が出現!距離800m!」
「もう間に合いません!」
「だな、撃って撃って撃ちまくれ!帝国の恐ろしさを見せてやれ。」 放たれた火の玉が人を燃え上がらせるが、濁流となって押し寄せてくる兵の流れを遮るには至らない。
「敵、止まりません!」
「大佐!ブルノーが魔力切れで気を失いました!」
「構うな!撃ち続けろ!」
「大佐!危ない!」マレノールが大佐を庇い槍を受ける。
「この野蛮人が!」アイオスはすかさず相手に火の玉を放つ。
「ギャァァァーー!」男は火だるまになり悲鳴を上げる。
「ざまぁ見やがれ!」しかしアイオスは気が付く。自分が敵に囲まれていることと、自分の周りには既に味方は亡いことに。




