16日目<未明その2>
眩く光る太陽が二つ。一瞬感じたのはそんな存在感のあるものが盛大な音を立てて迫ってくる。
それを頭が理解をする前に誰かの叫んだ声に反応した。
「よけろぉぉぉぉぉ!!」
その叫びに呼応するようにただただ端によけるしかできなかった一同だが、なんとその二つの光は
ジョニーたちの前でふっとその姿を消す。
「……………?」
頭を抱えて少しでも体を小さく丸まってた一同はいつまでたってもこない衝撃に気づき、ゆっくりその顔を上げた。
そこにあったのは、二台のバイク…正確には二台のモトクロスとそれに乗ったヘルメットを被った男女だった。
「あんたら生存者か?!ゾンビの群れがいたはずなんだが…見たとこかすり傷すらないのか?すごいな…」
そう声をかけてきたのは男の方。
ヘルメットを外して声をかけてきた。
金髪のショートカット…というかスポーツ刈りといった方が正しいか。男らしい髪形の精悍な中年男性だ。
その後、自分の事はチェックという名前だと名乗った。
生存者がいたこと…それも中年男性4名がろくな武器もなく生きている事がよっぽど衝撃的だったらしい。
警戒らしい警戒もなく、だが元々おしゃべりな性格ではないのだろう。
あまりしゃべり慣れていないどもるような喋り方ではあるが、色々教えてくれた。
自分たちがロスから来た事。
ゾンビをモトクロスでひき殺す試合に出場していた事。
その試合の最中、急速にゾンビが会場から減っていったため不審に思って調査に来た事。
気づいたらこの洞窟に来た事…などなど。
「ロスじゃもうゾンビ相手にそんなショーを開催するぐらいゾンビに慣れちまったってのか?
しかもバイク…モトクロスだっけ?それでひき殺したりする?ずいぶん世紀末な世界になっちまってんだな」
エフィーが信じられないなという口調でまくしたてるが、悪気がないのが自然と伝わるのかチェックは
あまり気にした様子はなかった。
逆にブルーズとチャッキーは押し黙ったような状態で無反応だ。
突如として語られた内容に頭がついていかない…というか
真偽を図りかねてる…そんな顔をしていた。
そしてそれはジョニーも同じだった。
右手を顎にかけ、ついつい地面を見入ってしまう。ブルーズやチャッキーと同じような状態だ。
嘘をついているようには…見えねえしな…
声を出さずに目線だけをチェックに移す。
どうみても人のよさそうなただのおっさんだ。
むしろゾンビをひき殺すなんて試合に出るような人間には到底見えないぐらい真面目で潔癖そうな男に見えた。
相方の女性と思われる方も、チェックが話している間じっと無言で距離をとって警戒している様が見て取れる。
だがこのゾンビハザードな情勢だとむしろそっちの方が正常とすら言える。まっとうな反応だった。
「チェック…あんたがまあ…調査しに来た…って言ってたがあんたらぁはゾンビの大群相手にどうしてたんだぁ?」
ブルーズがひとまずの疑問を投げかける。
チェックたちが乗ってきたモトクロス…というのは見た目普通のバイクに刃物やらなんやらついただけのむき出しの乗り物だった。
武装バンならまだともかく、こんな裸同然の乗り物では囲まれれば即座にゾンビの餌食になってしまうだろう。
それに対し、チェックは「ゾンビの大群に囲まれると思った矢先、水が降ってきた」と語った。
滑って転倒したらそれこそ目も当てられない。高台のような岩場に避難してどうすべきか悩んでるところを
ゾンビの大群が徐々に水の流れる方に移動していったという。
その水というのはジョニーたちが流したものであるのだが、その辺は説明しなくてもいいだろう。
それよりも確認したいことは一つだけだ。
「チェック…俺たちはロスに戻りたくてここをさ迷ってたんだ。よければ一度道案内をお願いしたいんだが…頼めないか?」
そういうジョニーに対して、なんの出し渋りもなく快諾してくれたが今度はチェックがうなりだした。
「でもあんたら…徒歩か?こういっちゃなんだが数十キロぐらいは走らないと戻れないんだが…」
「まっっっっっっっじかよ!大陸横断レースじゃねえんだぜ!そんな距離歩いていけるかよ!」
とまあ、そうそうにエフィーがさじを投げてしまった。
とはいえまあ、ジョニーたちも同意見ではある。
ゾンビが出る暗闇を休みなく数十キロ歩くのは自殺行為だと言える。
「まあ…そりゃそうだよな。…………!そうだ、あれが使えないか?」
チェックが相方の女に同意を求めるように振り返ると女はモトクロスをUターンさせて、自分の背中を顎でさす。どうやら乗れといってるらしい。
「わかった。俺が行くよ」
自ら声を上げたジョニーを止めかけたブルーズだったが、ジョニーは大丈夫だと頷いて見せた。
罠だという可能性は捨てきれないが、ある種確信があった。
モトクロスの二人が何を見せたいのか。
無言で相方の女の腰に手をまわして乗ろうとしたらちょっと睨まれた(ヘルメット越しで目線は分からなかったが)
が、なんとかモトクロスの後ろに乗せてもらったジョニーは、自分たちが来た方向とは反対の闇に走り出した。
「…なるほどね」
数分ほど走り出したその先には…なんと乗り捨てたのだろう数々の車が水浸しのままで道すがらに放置されていた。
女は適当なところで、モトクロスを止めジョニーを乗せた時のように顎で降りろと指示する。
「好きなのを選べってか…はいはい降りますよっと」
かわいげのない女のしぐさに大人げなく反応したジョニーだったが、目線はもう車にくぎ付けだった。
無骨な鉄板やとげが後付けでつけられたバランスの悪いその車にジョニーはまっすぐ向かっていく。
「やっぱこいつがねえとな…ゾンビ退治は締まらねえと思ってたんだ」
そうにやりと笑うジョニーの歯が、どこかの誰かがつくったであろう武装バンのサイドミラーに映り込み光を放って見えた。
まるでお前の出番を待ってたんだよ、とお互い返事をするように。




