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強奪勇者物語  作者: ルスト
ヒローズ
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怪物投手を打ち崩しましょう

「さて、今度こそ打ち返してみせます!」

「な、何度やろうと無駄だ! この全力投球、打ち返せる者などほとんどいないのだぞ……」

「その「ほとんどいない」の中の一人になってみせますよ……」


 マディスの薬で強化されたジルと怪物ピッチャーの巨大鉄球、どっちが勝つんだろ……。


「まあ、ジルが打ち返すと思うよ。あの薬の効果があれば、絶対打ち返せるから」

「というか、ただの練習試合でどうして薬まで使うの……」


 薬を使って戦っている時点で色々おかしいと思うんだけど……。


「別におかしくないよ。だって、打ち返せなかったらゲームにならないしね」

「それはそうなんだけど……」


 自分たちだけ薬で強化するなんて明らかに不公平だよ……。


「まあ、こうでもしないと太刀打ちできないから、苦肉の策だよ。それに、実戦で出し惜しみは出来ないでしょ? 命がかかってるんだし」

「実戦では出し惜しみは出来ないけど、でもこれは……」


 一応クエストだけど、これはただの練習試合だよ……。


「練習試合だからって手を抜くわけにもいかないよ?」

「……それもそうだけど、さ……」


 でも、やっぱり不公平だ、とか卑怯だ、って思っちゃうよ……。


「全力、頭球!」


 ピッチャーの叫び声が聞こえたので試合の方を見ると、ピッチャーが卍のようなポーズをとり、そのまま横に回転している光景が見えた。


「……いつ投げてくるのか全く見分けが……!」


 ピッチャーは妙なポーズを保ったままものすごい速度で回っており、いつ投げてくるのか全く分からない。こんなのあり!?


「何なのアレ!?」

「……ものすごく打ちにくいよね……」


 そもそも投げるタイミングすら掴めないよ! というか、どうやって固まった体勢からボールを投げるの!?


「……そこっ!」

「ストライク!」


 それでもボールを捉えようとしたジル。しかし、ラケットがボールに当たることは無かった。


「ど、どのタイミングで飛んでくるのか全く分かりません……!」

「これがヒュマン・ヤメタの全力頭球だ! どれほどの腕を持つ冒険者であろうと、更にパワーアップした怪物投法には手が出せまい!」


 体が自在に回転したり、首が反転したり、同じポーズのまま横回転して惑わせたり……もうこれは本来のゲームとはかけ離れてるよね!?


「これがベースボールの真の姿らしいよ。ちなみに、ヒュマン・ヤメタは他の球団と勝負をしても絶対に負けず、今までのトータル成績は5475戦5475勝だって」

「そりゃこんなチームに勝てるチーム存在しないよ! これに勝てるチームなんてもっと人間離れしたチームしか思いつかないし!」


 それに、これより凄いチームなんてもう魔物でも呼んでこないと作れないだろうし!


「魔物に勝てる人間の球団ってある意味凄いよね~」

「そもそもあの人たち自体が人間を止めてるよね!?」


 ピッチャー以外も手を切り離してホームランまでキャッチしてくる反則選手や突然消えたりするステルス選手なんて居るんだし!


「……ですが、私は諦めません。必ず、打ち返します!」

「打ち返すなどもう不可能!」


 ピッチャーの首から上が突然消失し、ピッチャーの首があった場所に白い光が集まってくる。……って、首が消えるとか流石に想定外だよ!?


「レーザービームですか!?」

「如何にも!」


 ジルは本当にあんなのを打ち崩せるのかな……。というか、ピッチャーはどこから喋ってるの!?


「全力、頭球!」

「ですが、今度は!」


 目にも止まらぬ速さで飛んできた白い光線をジルが打ち返した。打球は結構な速さでセンター上空に飛んでいく。……だけど、外野にも超絶な守備を誇る怪物選手が……!


「ホームラン? いい当たり? そんなの関係ねえ! 我々外野のロケットキャッチの餌食だ!」


 普通の野球なら二塁打になりそうな球だけど、当然外野手が手を切り離して飛ばしてくる超人技「ロケットキャッチ」で取られ……。


「あががががががががが!? 右手が痺れれれれれれれれ……!」

「引っかかりましたね? ただの打球じゃありません。このラケットにサンダーを流し、スペシャルショットにして打ち返してやりました! 触れたら痺れて動けなくなりますよ!」

「何その反則技!?」


 というか、攻撃魔法使ってまで勝ちたいの!?


「あがが……し、しまった! 弾いてしまって更に遠くに……!」

「よし! 捕球ミスで弾いてくれたのでフェンスを越えましたね! ホームランです!」

「わ、私の……(自分の首が)消える魔球が……!」


 消える魔球の意味が間違ってないかな!? 自分の首から上が消えてもボールが見えてるから本末転倒だよ!


「くっ……このままでは……」

「後は任せますよ、グリーダーさん」

「よし、とどめを刺すか」

「や、やらせはせんぞ!」


 相手ピッチャーはすでに疲れ切ってる気がするけど……まだ大丈夫なのかな?


「まだ足りないね。後1回点を入れないとだめなんじゃないかな? ……その前に投球モーションで疲労して倒れそうだけどね」

「普通に投げればいいのに!」


 あんな妙な投球ばっかりするから疲れるんだと思うよ……。


「あれがあのピッチャーにとっての普通の投球だからあれで疲れることはないんじゃないかな? でも、さすがにボーリングの球を投げつけたりしてると疲れて投げられなくなるよね。普通の球の数百倍の重さはあるだろうし」

「そんな物投げてる時点で十分反則だよ!」


 普通の球の数百倍の重さって時点で明らかに異常だよ!


「そもそも、あの球は転がして使う物で投げる物じゃないから、あんなことしてたら腕が折れたり肩が外れてもおかしくないんだけどね」

「そんなに危険なの!? 今すぐ止めさせようよ!」


 腕が折れるくらいに重い球を投げようなんて無茶だよ!


「まあ、向こうはそれだけ真剣なんだよ。だからこっちも真剣に迎え撃つんだよ?」

「真剣なのは分かるけど、方向が間違ってるよ……」


 普通の人には絶対できない妙な投球や別のゲームで使う道具を使う、薬やルール無視の戦法で対抗する……ってどっちも努力の方向がおかしいもん……。


「これが普通だよ?」

「こんな普通は嫌だよ!」


 滅茶苦茶な事ばっかりやってるし!


「ま、その話はまた今度すればいいよね。グリーダーが打つよ」

「……本当に打ち返せるのかな?」


 グリーダーが打席に立ち、ピッチャーが再び巨大な球を構える。……薬を使わずにあの鉄の塊を打ち返せるのかな?


「ぜ、全力、頭球……! 打たせは……しない……!」


 首を回転させ、腕をものすごい勢いで前後に振り回しながらピッチャーが気合を入れなおす。……やっぱりもうあの人限界だよね!? すでに顔色が悪くなりかかってるし、これ以上やったら大変なことになるんじゃないかな!?


「グリーダーさん、もう一息です」

「分かっている。決めてやりたいところだ」

「ま、まさか……ヒュマン・ヤメタが負けるのか……?」


 というか、打たれるだけであそこまで顔色が悪くなるってそもそも変だよ! まだそんなにたくさん投げてないだろうし!


「知らないのルーチェ? 1点失点すると30球分の疲労が溜まるんだよ」

「1点取られただけで何で30球分の疲れが溜まるの!?」


 1点くらい、簡単に取り返せるじゃない!


「うん。何か、これ以上の失点を避けなければならないと言う謎のプレッシャーに見舞われるんだって。それに、ずっとあんな頭球を続けてるんだし、スタミナがあっという間に無くなってもおかしくないよ。あれの30球分は相当辛いと思うし」

「それは……」


 首を筆頭にあちこち回転したり、ボーリングの球を無理やり投げたりしてれば当然ものすごい疲れが溜まるだろうけど……。


「それに、ヒュマン・ヤメタは普段から2回裏10点コールドの完封勝ちで勝ってるから、30回分……3イニング分スタミナが減るだけでもかなり辛いと思うよ?」

「まともに9回分試合してないの!?」

「らしいよ。ヒュマン・ヤメタを相手したチームは軒並み2回0点、全部三振、失点10以上で負けてるからね。もし9回分投げたら、100点以上の点差がつくだろうね~」

「100点って……」


 そんなに打ちまくってたら確かに相手は降参しちゃうだろうし、ヒュマン・ヤメタの方もとっとと終わらせて他の試合に備えたいだろうけど……。


「さて、今度は飛ばしてやるか」

「う、打たせん! ……生首頭球!」


 グラウンドの方に目を向けると、今度はピッチャーが持っていたボーリングの球が突然変形し、生首に変わった。それと同時にピッチャーの顔がボーリングの球になって……って、今度は何を投げるつもりなの!? というか、ピッチャーの首が大変なことになってるよ!


「最新のベースボールでは生首を投げるんだね~。これは参考に……」

「ならないよ! こんなのが参考になったらおかしいよ!」


 最初から色々おかしかったけど、今度は自分の顔をボールと入れ替えて投げつけるなんて!


「それが貴様の本気か?」

「そうだ! これが、本当の、全力、頭球だ!」


 ボールが喋ってる時点ですでにおかしいよ! というか、これはもうベースボールじゃないよ! ベースボールという名前の別の何かだよ!


「せりゃああああああ!」

「終わりだあああああ!」


 今までとは段違いの速さで投げつけられた生首をグリーダーのバットが捉え、そのまま打ち返す。……って、こんなの打ち返したら不味いんじゃないの!? 投げられる少し前には口が動いて普通に喋ってたし、明らかにあれはピッチャーの首だよね!?


「ま、不味い! 内野!」

「ワープしてでも捕球する!」


 打球が大きく上に飛んだため、内野では捕球できないだろうと思ったら突然内野手が空中にワープしてダイレクトキャッチを試みてきた。


「ちょっと! 今度は内野手がワープしてるよ!?」

「あれも一種の個性だよね。ワープしてでも捕球するっていう根性が凄いよ」

「だからって、空中に浮くのはどうなの!?」


 こんなのもう普通の試合じゃないよ!


「ワープキャッチ成こ……何!? 消えた!?」

「……無駄だ! そう来ると思って手は打ってある!」

「だ、打球がワープしている……いや、自走しているだと!?」


 よく見ると打球の下側から黒い影のような物が生え、それが羽ばたいて空中を自在に飛んでいる。いつからこの練習試合は人外スポーツに変わっちゃったの!? 打球が自由自在に動き回るなんて、想定外にもほどがあるよ!


「グリーダーも考えたね~。空を自由自在に飛び回る打球を放って相手を文字通り惑わせるなんて。いくら相手がワープできてもあれじゃ簡単には捕まえられないよ」

「アレはもう反則だよね!? 空飛ぶ打球なんてありえないよ!」


 あんなの捕球しようとしたら、それこそ空飛ぶ箒にでも乗らないと不可能だよ!


「よし、今だ! 急降下してからもう一度跳ねろ! 一度でも地面に着けばもうアウトにはなるまい!」

「グリーダーも普通に指示してるし! 一体どうなってるのあの打球!」

「うーん……多分魔術で操ってるんじゃないかな? それか、グリーダーに何か特殊能力があるか……」

「まさか……影を纏わりつかせたの!?」


 遺跡の中で壁を垂直に歩いて宝箱を開ける妙な物体を作ってたけど……まさかアレ!?


「へえ~……グリーダーってそんなこともできるんだね」

「まあ……まだ一度しか見たことないけど……」


 あの打球……生首に纏わりついていた黒い物はやっぱりグリーダーが作り出した人形と同じ物だと思う。あの人形もグリーダーが指示した通りに動いてたし。


「さて、俺も帰塁した以上打球を止めて良いだろう」

「よ、ようやく捕えた……くそ! 完全に奴にやられた! これで失点3だ!」

「まさか守備陣全員総出でかかって捉えきれなかったとは……」

「やりますねグリーダーさん。相手も打球が自由自在に飛び回るとは思わなかったでしょう」

「お前が電流を流したボールを打ち返したのを見て思いついた。連中もあれなら捕球できまい」


 捕球どころじゃないよあんなの! ……そう言えば、ピッチャーはどうなったんだろ? 自分の首をすり替えて投げつけてたけど……。


「わ、私の球が打たれた挙句、失点が3も……! も、もう無理だ……。今の私では、こんなの相手に、抑え込むなど……不可能だ……」

「くっ、唯一のピッチャーが! ……何と言う事だ!」


 地面に座り込んで完全に戦意を喪失した相手ピッチャー。というか、こんなの相手によく3点も取れたと思うよ! 普通なら絶対打てないもん! 仮に打ち返せてもワープキャッチとかロケットキャッチとかいうわけの分からない反則技でことごとく完封されると思うし!


「さて、どうします? 新しいピッチャーを用意して続けますか?」

「……悔しいが、彼以外にピッチャーが居ない関係上、私の負けだ。見事、と言わざるを得ないな」

「依頼完了、ですね。打ち崩しましたよ」

「二人ともやるね~。練習試合だったけどヒュマン・ヤメタのピッチャーを打ち崩せるなんてすごい快挙だよ?」

「当たり前だ。ここで躓くわけにもいかん」


 まあ、最終目標はもっと高い位置にあるけど。私達の旅の目的は魔王討伐だから……。


「さて、依頼完了ですね。報告に行きましょうか」

「うん」


 凄い内容だったけど……無事に終わった、のかな? 依頼完了の報告をして、次の予定を考えよう。


ーーーー


「どうじゃ! これでわしらが難易度5のクエストでも軽々攻略できる凄腕だと証明できたであろう!」

「はい、そうですね。それでは、依頼人からの報酬をお渡しいたします」


 ヒローズのギルドに戻って来たけど、どこかで聞いたような声が……。


「我々にかかれば、難易度5のクエストなど余裕なのですよ。分かっていただけましたか?」

「そうですね。クエスト達成おめでとうございます」

「ねえ、ジル。あれってまさか……」

「ヒローズの勇者一行ですね。忘れるはずもありません」


 ここが地元だから居るとは思ってたけど……まさかいきなり出くわすなんて思わなかったよ。


「……」

「どうしました? 勇者様?」

「……ベルナルド、あれは本当に難易度5の相手なのか? 野盗を討伐せよと言う内容だったから受けたものの、難易度5にしては明らかに……」


 勇者は依頼内容が不自然だと思ってるみたいだけど……。


「何を言われるのです勇者様! 教会が送り込んだ騎士団すら歯が立たない相手なのですぞ!」

「確かに話の上ではそうだけど……」


 野盗? 教会の騎士団は野盗に負けるほどに弱いの?


「まさか、そんなはずないでしょ? ……大きな声では言えないけど、自作自演だと思うよ」

「自作自演って……どうしてそこまでして難易度5に拘るんだろ……」

「あの様子じゃ、再教育はしていないようですね」


 一週間じゃ人は変わらないって事なのか、それとも名目上だけで実際は何もしていないのか……。


「他の方々が待っているので、雑談はよそでお願いします」

「……ほら行くぞ、スロウリー、ベルナルド」


 勇者一行はそのまま出て行った。……再教育って何をしたんだろ?


「さあ……直接話を聞かないと何とも言えないでしょうね。それはともかく、依頼達成の報告をしましょうか」

「本当にあのヒュマン・ヤメタを打ち崩してきたんですか!? ……この人たちが選手だったら……ああ、駄目ね。それじゃますます他のチームが優勝から遠くなってしまうわ」


 確かにジルやグリーダーが打席に立ったらその瞬間に走者一掃のランニングホームランが出るよ……。守備妨害とか飛び回る打球とか反則技ばっかり使うだろうし……。


「すいません。急いでいるので独り言は後でお願いします」

「ああ、ごめんなさい。今回の報酬はこちらです」


 報酬も受け取ったし、次はどうしよう?


「食事ですね。食事しながら明日の予定でも立てましょう」

「え? まあ、良いけど……。じゃあ、マディス、案内してくれる?」

「うん。それじゃ、行こうか」

あんな妙な頭球を90回投げるくらいの疲労……想像もしたくないですね。ちなみに、ゲームによっては本当に失点でスタミナが減ります。ここまで極端ではないですが。

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