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強奪勇者物語  作者: ルスト
ヒローズ
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練習試合しましょう

「さて、それじゃあ、ルールを説明しよう。君たちは、わが最強の投手を打ち崩せばいい。ランナーは君たちがやるのも良いし、我々の方で貸し出しても良い」

「そちらから借りて、手抜きは無いですよね?」

「ちょっとジル!? いきなり失礼過ぎないかな!?」


 手抜きなんてしないと思うけど……。


「まあ、その点については問題ない。これは単なる練習試合。公式戦ではないし、他の球団と選手を交換したわけでもないしな。それに、そもそも君たちが打てるはずないだろう。我々ですら彼の球を打つのは至難の業だ」

「確かに、アレは厄介ですよねえ……」


 いろんな意味で規格外だし……。


「さあ、どちらから挑戦するのだ?」

「では、私からいきます」


 ジルからあの怪物投手に挑戦することになったみたい。……どうなるのかな……。


「あんまり詳しくはないけど、一応知っている範囲で解説するから」

「え? うん。じゃあお願い、マディス」


 私にはこの「ベースボール」のルールや仕様なんて分からないし。


「うん。あの球を投げる人――――ピッチャーが投げる球を棒を持った人――――バッターが打ち返す。それが基本なんだよ。……ここでどこまで通用するのか怪しいけどね」


 つまり、今棒を持って立っているジルはバッター? ……そんなことを考えていたらプレイが始まった。ピッチャーの首が突如反対を向き、ついでに腕も反対側にねじれた。


「いきなり怪物投法ですか……!」

「ふっ、我がヒュマン・ヤメタの最強投手の実力、体感してみるがいい! 圧倒的な無力感と共にな!」

「俺は最初から、全力頭球だ!」


 ピッチャーがあさっての方向に向かって叫ぶ。どうでもいいけど、何かあのピッチャーの言葉がおかしいような気がするよ……。


「うん。あれは「投球」じゃなくて「頭球」だね」

「そんな言葉ないよ!? というか、何で「頭球」!?」


 もしかして首が反対を向いているから……?


「そうなんじゃないかな?」


 そんな馬鹿な……そう思っていたら、ミットを持った人……キャッチャーだっけ? が動く。突然ピッチャーに背中を向けてしまった。


「よし、私も全力で捕球するか」

「背中を向けて捕球する……斬新なキャッチャーですね……」

「キャッチャーだけではない。公式戦では審判も背中を向けるのだ!」

「審判が背中向けちゃったら公正な審判できないよね!? というか、キャッチャーが背中向けたらどうやって投げられた球をキャッチするの!?」


 背中を向けて捕球するなんて絶対無理でしょ!


「俺の全力頭球、受けてみろ!」


 そしてピッチャーの身体が半透明になり、残像を残しながらものすごい速度の球をキャッチャーの背中目がけて投げつけた。……待って! 何か色々おかしいよ!


「そこっ!」

「なっ!?」


 ジルが振ったバットはボールに当たりこそしなかったけど、タイミングは合っていた。……あれに一発でタイミング合わせるってありえないよね!? ……というか、キャッチャー!


「ストライーク!」

「って、ええ!? キャッチャーの身体をすり抜けた!?」


 背中に直撃すると思われた球はキャッチャーの背中をすり抜け、そのままキャッチャーの持っていたミットに収まる。……どうなってるの!?


「馬鹿な!? いきなりタイミングを合わせてくるだと!?」

「甘いですよ。そんな速度では、ルーチェさんの頭を毟る事すらできません!」

「いきなり何言い出すの!? というか、毟らないでよ!」


 私の頭を毟るって……!


「だ、だが、そんなのまぐれだ! ストレートを叩き込んで絶望させてやるわ!」

「……次は当てます」


 言うなり、背中を向けるジル。……って、ジルまで何やってるの!?


「背面打法……いえ、宇宙打法、でしたっけ。私だって、使いこなせます!」

「使いこなす必要ないよねそんな打法!」


 というか、絶対そんな振り方しても当たらないよ! バットがボールが投げられる場所と反対の方向に向けられてるもん!


「ふん……無駄だ! 宇宙打法を使いこなせるのは、このヒュマン・ヤメタの選手だけだ!」

「キャッチャーの背中に……全力、頭球だ!」


 そしてピッチャーの下半身が反対側を向き、胴体だけがねじまがった妙な姿になったピッチャーが2つの球を投げた。……って、2つも投げちゃ駄目でしょ!?


「あれは分身魔球だね。本物はどちらか一つだけだよ」

「そんな魔球まで投げるの!? 打てないよ!」


 二つのうちのどっちかが本物なんて言われても見分けがつかないよ!


「見分ける必要などありません。両方打てばいいんですから」

「ジルも何言ってるの!? そんなの不可能だよ!?」


 バットは1つしか無いのに、どうやって打つの!?


「宇宙打法を極めれば、一度に二つの球を打ち返すことだって不可能ではありません!」


 そう言ってあさっての方向にバットを振るジル。でも、そんな方法で当たるわけが「カンッ」当たったの!? そのまま軽く上がった打球はサードとホームの中間に落ちて跳ねた。


「しまった! 打ち上げて……急いで塁へ……!」

「不味い! いきなり撃たれるなど想定外だ! 急いで取らなければ!」


 ジルがファースト目がけて走りだし、同時にキャッチャーが打球を拾いに走りだした。


「このレーザービームで止めてやるわ! ぬんっ!」

「そうはさせません! その球を打ち返してやります!」


 キャッチャーがファーストにレーザービームを放ってきたけど、それをジルがどこからか取り出した先端が丸い枠と網で構成された物体(テニスラケット)で弾き返す。……それはさすがに不味くないかな!? 相手選手唖然としてるよ!


「ふう。無事に出塁できましたよ」

「なんだと……まさか俺のレーザービームを止めるとは……」

「まさに想定外だ! だが、悪くないな。次からそのプレイを採用しよう」

「こういうおかしなものは採用するの!? 駄目な方向に進むよ!」


 というか、ルールとしてすでにおかしいよね!?


「まあ、送球妨害はさすがに想定外だからね~。テニス用のラケットまで使って止めたしね」

「これはベースボールだよね!? テニス関係ないよ!?」


 まったく違うゲームの道具を出すのは駄目でしょ!?


「勝てば何でも許されるんだよ? 知らなかったの?」

「……限度があるよね!?」


 そもそも、進塁中に相手の送球を打ち返すなんて普通やらないよ!


「やるな……いきなり打ち返すのみならず、我々の守備すらも妨害するとは!」

「正規のルールが通用するとは思わないでくださいね? 守る気はありませんから」

「守ろうよ!?」


 正規のルールくらいは……って、これ自体がすでにルール無視も良いところだよね……。


「だ、だが、もう通さん! 次からは何があっても打たせぬぞ!」

「グリーダーさん、任せますよ」


 相手ピッチャーが胴体だけを器用に回して気合を入れなおしてる。……その妙な投球ポーズどうにかしようよ!


「分かっている。任せろ」

「お、おのれ! そんな余裕も今だけだ! ボーリング投法!」


 今度は頭から地面に突き刺さり、そのまま首から下を回転させてものすごく大きな球(ボーリングの球)を投げつけるピッチャー。もう突っ込みきれないよこんなの!


「そんな大きな的、見逃すと思うか? ……お、重いだと!?」

「これなら打ち返せまい!」


 グリーダーが打ち返そうとしてるけど、バットがびくともしていない。打てないボールを投げる時点でおかしいよね!?


「貴様! 奥義をこんなところで使うとは何事だ!」

「し、しかし、奴を打ち取るにはこれくらいしか……」


 監督とピッチャーが何か話してるけど、奥義とかそういう事以前に打ち返せない球を投げちゃ駄目だよ!


「何言ってるの、ルーチェ? 打ち返せないんじゃないよ。打ち返さないんだよ? あんな球薬を使えばどうにでもなるしね」

「薬を使うって要するにドーピングじゃない! ドーピングは反則だよ!」


 やっている人とやっていない人で露骨に差が出る時点で駄目だよ! 全然公平じゃないもん!


「いい、ルーチェ。試合って言うのはね、死亜異って言うんだ。要するに、死ぬまで亜空間の中で訓練するような地獄を積み重ねて、更に異空間の技術を使ってでも相手に勝ちましょうって言う……」

「そんな言葉ないよね!? 勝手に変な言葉作らないでよ!」


 そんな言葉聞いたことないし!


「だから、ルーチェの物差しで見ちゃ駄目だよ。世界は広いんだし、こんな言葉がまかり通る世界もあるかもしれないよ?」

「無いよそんな世界は……」


 無いよね? 無いはず、だよね……。


「ぬんっ!」

「打ち返しただと!? だが、そんな当たりなら取れる!」


 グリーダーが根性で打ち返したけど、巨大な球はそもそもほとんど飛ばず、ピッチャーがあっさりと捕球する体勢に。


「これぞ奥義、ジャイロキャッチ!」


 グリーダーが無理やり打ち返した打球は難なく捕られ、取った勢いそのままにピッチャーが宙返りを決めると何故かダブルプレーに。……って、何なのアレ!?


「知らないの? 捕球モーションが素晴らしいと芸術点が入って一度に2アウト取れるんだよ?」

「もう完全にルール無視だよねそれ!?」

「その間にホームまで……!」

「いや、ちょっと待って! ジルも一回ファーストに戻らないと進んじゃ駄目でしょ!? なんで一度もファーストに戻らず無理やり進塁してるの!?」

「ああ……練習だからなんでもありなんだよ? 一度帰塁する義務も無いしね」

「ルールくらいちゃんと守ろうよ!」


 もう基本ルールすら守れてないよ!


「ホーム、いただきます!」

「させるかあああああ!」


 そしてホームベースでジルとキャッチャーのクロスプレイが起きる……と思ったら、ジルがキャッチャーの頭を足場にして大ジャンプし、無理やりキャッチャーを飛び越えた。


「先制しました!」

「まさかの踏み台!? なにやってるの!?」

「ええい! キャッチャー何やってるんだ! しっかり守らんか!」


 ジルが無理やりホームに入って先制点を入れた。普通ならこんなの認められないよ! それに、これはどう考えてもキャッチャーの責任じゃないから!


「さて、もう一度私が打ちますよ」

「も、もう打たせぬ! 絶対に打たせぬぞ!」


 まさか先制点を入れられるとは思ってなかったらしい相手のピッチャー。私もこんな方法で無理やり先制するなんて思わなかったよ!


「……全身頭球を許可する」

「監督!? 本気ですか!?」

「今のプレイを見ただろう。奴らは、全力で仕留めに行かなければこちらがやられる」

「……分かりました」


 一見本気を出してきたように聞こえるけど、全身頭球って何!?


「さて、もう一度行きますよ」

「監督の許可も出た。見せてやろう。これが、真の、全力頭球だ!」


 ピッチャーがそう叫ぶや否や胸から下が突然半透明と化して上半身にくっつき、肩から謎の足が生えたような姿に。……なんなのこれ!? というか、足が地面から離れてるのにどうやって浮いてるの!?


「……」

「これが俺の、全力投球だ! うおりゃああああ!」


 そして、胸から下が上半身にくっつき、肩から足が生え、首が反対を向いた文字通りの怪物ピッチャーがさっきグリーダーに投げたのと同じ大きな球が三つくっついた物を投げた。……こんなの絶対打てないじゃない! 仮に打てても絶対飛ばないよね!?


「このラケットなら……!?」


 ジルがラケットで打ち返そうとするけど、あんなの打ち返すなんて無理だよ! 案の定ジルが逆に押し返されたし!


「ストライク!」

「お、重すぎます……!」


 あんな大きな球打ち返そうとするからだよ! 一つだけの時にグリーダーがやっと打ち返せた物が三つくっついてるんだし!


「ど、どうだ! これなら貴様らでも打てまい! 可哀想だが、この球で完封してやるわ!」


 でも、相手も相手でかなり疲れてる気がするんだけど……。くっついてるとはいえ、あんな大きな球を三つ同時に投げてるんだしね……。


「いいか! 必ず三振で仕留めろ! お前が崩されると、こちらには投げられる投手が居ないのだ!」

「分かっています監督! 必ず、ヒュマン・ヤメタに勝利を!」


 相手の監督とピッチャーが話している隙にジルがこっちに戻ってきた。


「……マディスさん、お願いします」

「まあ、アレを打ち返そうとするならしょうがないよね……」

「って、さっそくドーピング!?」


 そりゃ、あんな大きな球を三つ同時に打ち返すには力が足りないけど……。


「……いいですか、ルーチェさん。……私達はいずれ、あのような怪物投手よりもさらに凄い相手を倒すことになるんですよ? もしここで詰むようでしたら、明日はありません」

「真面目に訓練した方が良いよね!?」


 いくらなんでもすぐに薬に頼るってどうなの!


「まあ、勝てないとだめだからね~……パワーブースト」


 マディスが肝と何かの骨を取り出し、ジルに薬を投与した。


「……これで大丈夫だと思うけど、駄目だったら責任は取らないからね?」

「分かっています。必ず、打ち返してやります」

「ついでにグリーダーにも使っておこうか?」

「……気持ちはありがたいが、必要ない。俺は根性で挑んでやろう」

「その心意気はいいけど、アレは根性でどうにかなる物じゃないよね!?」


 あの大きな球と似たような物が一つ落ちてたから持ってみたけど、凄く重いよ! これを投げるってだけでも凄いのに、それが三つくっついてるんだもん!


「勇者の辞書に、不可能はない! 気合とバグとチートで何でもできる!」

「マディスさんに薬も貰いました。今度は、打ち返してやります!」


 妙な気合が入ってる……。というか、いくらマディスに薬を使ってもらってもあの大きな球三つには勝てないんじゃ……。


「大丈夫だよ。……元の力さえ高ければ」

「……どうなるのかな……」


 でも、薬の力で勝っても自分の実力にはならないよね?


「薬も自分の力、と考えればいいんだよ」

「それはさすがにおかしいよ!?」

「もうすでに野球じゃないよね!? 守備妨害とかキャッチャーを踏み台にするとか別のゲームのボールを投げるとか滅茶苦茶だよ!?」


これが本物のベースボールだ。……元ネタより更に(ダメな方に)パワーアップしたのは否めないけど。


「パワーアップの方向性がおかしいよ!?」

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