ヒローズのクエストを受けましょう
後半は色々突っ込みどころ満載です。だってカオスだし。
ようやくヒローズに到着しました。テラントを放り出された時はどうなるかと思ったけど、なんだかんだ言ってちゃんとここまで旅ができたことはある意味凄いかも?
「ほら、現実逃避していないで素材をその入れ物に入れろルーチェ」
「分かってるよ! というか、マディス! 素材多すぎないかな!?」
「あはは……置き場所が無かったから地下や二階、三階、倉庫に全部放り込むしかなかったんだけどね……こんなに多いとは想定外だったな……」
家主のマディスが若干引いてる時点でおかしいよ! マディスの家はそもそも豪邸並みの大きさなのに、その地下倉庫4部屋(宿の部屋よりずっと大きい)や二階、三階のすべての部屋、そして家の外の普通の一軒家みたいな倉庫に山のように素材が置いてあるんだもん! グリーダーから渡された収納用アイテムに全部入れていってるけど、全然なくならないよ!
「ですが、離れられないという理由にはなりますね。こんなにあるんです。捨てるのは躊躇います」
「うん。さすがにこれを捨てて家を出るのは勿体ないからね……」
何かの骨まで山積みされてるし……。骨なんか何に使うの!?
「骨と鉱石で昼間ルーチェに使った物と同じ物が使えるよ? それ以外にも、骨と魔物の肝で一時的に力を強くしたり……」
「補助魔術の代わりに使えるのはありがたいですね」
「でも……こんなに素材があってそれを管理しないといけないっていろいろ問題だよ!」
持ち運ぶのものすごく大変だもん! というか、こんなの収納アイテム無しに運べないよ!
「うん……それが本当に問題なんだよね……。袋に大量に詰めて引きずっても良いけど、袋が破れたら大変だし、保管してあったらそこから離れられないし……」
「そのせいでヒローズに定住してたんですしね」
「そういう事だよ」
こんなにあったら確かに捨てるの躊躇うよ……。
「まあ、開いた部屋は好きに使って良いからね? とりあえず食事を取り寄せてくるよ」
「お願いします。……さすがに大掃除は疲れますしね」
「全くだ。座って物を入れるだけのルーチェの気楽さが羨ましい」
「別に座りっぱなしじゃないから! というか、勝手に動くなって言ったのはグリーダーだよ!?」
そりゃ入れ物は1つしか無いけど……。
「そうではない。逃げ出して勝手に息抜きする予感がするのでな」
「しないよ!?」
「勝手にうろついて敵に情報を売られたら話になりません」
「もっとありえないってば!」
何で私がそんなことする必要があるの!?
「姑代表のルーチェさんですしね」
「だから何で姑にされる必要があるの!?」
「小言と絶叫ばっかりうるさいからですよ」
「誰がさせてるの!?」
「次からは絶叫マシンとでも呼ぼうか? いや、絶叫製造機の方が良いか?」
「何そのわけの分からない名称!? というか、絶叫製造機なんて意味不明だから!」
絶叫の製造なんかしてないよ!
「無自覚と言うのも怖いですよね」
「全くだ」
「そもそも、意図的に叫んでなんかいないから!」
二人が滅茶苦茶な事を言うから……!
「その流れはもういいですルーチェさん。何度もやって飽きましたから」
「そう言う問題じゃないよね!?」
「そう言う問題なんじゃないかな? それはともかく、食事持ってきてくれたから降りてきて」
「分かった。行くか」
一旦休憩することに。……この分だと片付けに一日かかるよね……。まあ、しょうがないか……。
「ルーチェさんが働かないからですよ?」
「働いてるから! ちゃんと部屋の片付けはしてるよ!?」
私もちゃんと部屋の中の物を入れ物に直してたから!
ーーーー
「起きてくださいルーチェさん。いつまで寝てるんですか?」
「上に乗られてたらそもそも起きられないから!」
そもそも私の上にジルが乗ってたら起きられないってば! というか、わざとやってない!?
「今更何を言ってるんですか? これを自然にするなんて頭の一部が老人になっていないと不可能ですよ?」
「だからってわざとやらないでよ!?」
朝目が覚めたらジルに馬乗りになられているとか想定外だよ……。
「当たり前です。常日頃からどんなドッキリをルーチェさんに敢行するかいつも考えていますし」
「そんなどうでもいい事よりまともなこと考えてよ!?」
「何言うんですか!? ルーチェさんが玩具でなくなったら私はこれから何で遊べばいいんですか!?」
「そもそも遊ぶことから離れてよ!?」
というか、私=玩具ってあんまりだよ!
「何言ってるんですか? 手ごろな玩具でしょう? その辺の雑貨屋で売ってますよ?」
「売ってないから! というかもし売ってたら怖いよ!」
私と全く同じ顔の人がその辺の道具屋で商品棚に陳列されてる光景なんて想像したくないし!
「まあ、それは良いです。さっさと起きて、準備してください。クエストを受けに行きますよ」
「あ、うん……」
そう言えば昨日はクエストの確認もしてないもんね。確認しに行かないと。
「起きた? じゃあ、ヒローズのギルドに出発するよ?」
「ええ、道案内お願いします。マディスさん」
ヒローズのギルド、どんなところなのかな?
ーーーー
「おい! またやられたらしい! 完封負けだ!」
「マジかよ! ……だが、アレが相手では仕方ないな」
「ああ。まさに「お前ら人間じゃねえ!」という言葉がぴったりの奴らだ」
ヒローズギルドに入った途端、聞こえてきたのは完封負けなどのよく分からない言葉。一体何なんだろ?
「難易度5の「練習試合」で負けたんだよ。というか、あれとまともに練習試合をやっても誰も勝てないしね」
「それはまた手ごたえがありそうですね」
「同感だ」
「そんなにすごいのかな……?」
それはともかく、ヒローズのギルドって意外と冒険者が多いね。難易度5の依頼に挑むパーティも居るみたいだし。
「まあ、平民の味方は勇者じゃなくて冒険者だしね。それはともかく、ここが受付だよ」
「ヒローズ・冒険者ギルドへようこそ。本日はどのようなご用件でしょうか?」
「難易度5のクエストを見せてください」
「分かりました。こちらが現在の難易度5クエスト一覧です」
渡された資料を確認する。えっと……。
難易度5のクエスト↓
ヒローズ最強の球団と練習試合
演劇参加者募集
魔物討伐(現在三つとも勇者様受注済み)
あれ? 受けられるものが少なくない? というか、三つも同時に受注できるの!?
「はい。それは、勇者様が……というより、ヒローズ教会が勇者様に受注させるために依頼した物ですから。なんでも「勇者たる者、難易度5のクエストをクリアしたという実績が必要だ!」との事です。あまり大きな声では言えないですけど、多分難易度1相当の内容だと思われます」
「まあ、あんな集団じゃね……」
見た目は難易度5でも、これは絶対難易度が低いよね……。だってこの国の勇者って……。
「なので、現在危険なクエストは難易度4に名目上移してあります。難易度5の魔物討伐はこの国では勇者様しか受ける権利がありませんので」
「しかし、これを請け負って攻略した際にクエスト攻略の評価が下がるのは困りますよね」
「その点は問題ありません。何せ、本来の難易度4クエストは現在ありませんから」
「ヒローズのギルドのクエストってややこしいことになってるでしょ? それはともかく、今日の所は普通に難易度5を受ける?」
「はい。この「ヒローズ最強の球団との練習試合」を是非。良いですよね、ルーチェさん?」
「まあ、ジルやグリーダーがやりたいなら……」
遊んでる場合じゃないと思うんだけど……。
「分かりました。では、ヒローズ球場に向かってください。そこで依頼の相手が待っています」
「分かりました。行きましょう、グリーダーさん」
「ああ」
「随分二人は張り切ってるよね~」
「そんなに楽しみなのかな……」
私にはよく分からないけど……。とりあえずヒローズ球場に向かおう。
ーーーー
「ここがヒローズ球場ですね?」
「そうだよ。ここがヒローズ最強の球団「ヒュマン・ヤメタ」のホームグラウンド。今回の依頼の場所」
私たちの前には巨大な丸い形状の建物が。中から何かを打つような音がするけど何だろう?
「うん。実は僕もあまり知らないけど、ベースボールとか言う物をやってるみたい」
「行ってみましょうか」
「そうだね」
ベースボール……どんなものなんだろ?
「おお。君たちが今回の参加者か?」
建物の中に入ると、入口に立っていた変わった服装の男の人に話しかけられました。背中に数字が書いてある服……初めて見るよ。
「はい。是非とも挑戦してみたくて」
「右に同じだ」
「ほう。このチーム「ヒュマン・ヤメタ」の異名を知らずに来たな? 今までの参加者は全員、このチームの圧倒的な実力にノックアウトされているのだ。それでも挑むかね?」
参加者全員ノックアウト……。それだけを聞くと凄く強そうだけど……。
「当たり前です。敵前逃亡はしませんよ」
「はっはっはっ! 面白い! ならばついてくるがいい。まずは練習風景を見せてやろうじゃないか!」
そう言って奥に進んでいく男の人について行く私達。扉の奥にあったのは……。
「心! 技! 身体! すべてを使ったこの一球! 打てるものなら打ってみろ!」
その声がした方向を見ると、首や横に伸ばした腕が360度自在に回転するとんでもない人が首と腕を文字通り回転させ、自由自在に回転する首からものすごい速さで球を発射する瞬間が見えた。……えええええ!? どうなってるのその人の身体!?
「捉えた!」
そうやって放たれた球を、発射した人に背中を向けて木の棒を振ると言うこれまたありえない動きで打ち返す人。なんなのこのありえない世界は!
「おおっと! これはホームランが来たか? いい打球じゃないか! ……いや」
「ホームラン? この私が居る限り、そんな物は打たせぬぞ! どんな打球も捕えてくれる! 右手、発射!」
今度は遠目だからよく分からないけど、玉を発射した人の左後方(注:レフト)に立っていた人が右手を上に上げた瞬間、右手から火花が噴き出して切り離され、そのまま上空に飛んで行って飛んでいた球をキャッチした。いやいや、絶対おかしいよこれ! もう人間技じゃないよね!?
「おっと、ヒュマン・ヤメタの鉄壁外野陣名物、ロケットキャッチだ! 良い当たりだったが捕られてしまえば当然アウト!」
「鉄壁とか言う以前の問題だよね!? あれもう人間技じゃないよね!?」
右手を切り離して上空に飛ばすって反則じゃない! というか、右手切り離すって時点でおかしいよ!
「へえ~! こんな感じのゲームをやってたんだ!」
「きょ、強敵ですよ、これは……」
「だが、内側に飛ばせばどうだ? あの投げる人間以外に人間が見当たらない」
言われてみると、球を発射する人の周囲は誰も立っていない。じゃあ、あの辺りに撃てれば大丈夫なの?
「見せてやるよ! これが俺の、全力頭球だ!」
先ほどものすごい動きで投げた人は今度は首を反転させたまま普通に投げる。……首を反転させたまま投げないでよ! というか投げる人の方が気になってもはや試合どころじゃないよねコレ!?
「甘い! 内野ががら空きだぜ!」
そして内野に飛んでそのまま素通り……しなかった。
「我ら内野手のステルステクニックに引っかかりおったな? 馬鹿め! 内野も鉄壁なのだ!」
「突如現れる鉄壁の内野! 彼らの守備をくぐるのも簡単な事ではない! アウト!」
突然球が空中で止まった……と思ったら、四人の選手がいきなり現れた。まさかあの人たち、ここの風景と同化してたの!?
「まさに忍者ですね……」
「ああ……恐るべき強敵だ」
「というかいろんな意味で人外その物じゃない!」
首や腕が自由自在に回転する人、背中を向けて当てても居ないはずの球を打ち返す人、手を切り離して空中に飛ばしてくる人、突然出てきたり消えたりできる人……むしろまともな人間居ないよね!?
「ふっ、この最強チーム「ヒュマン・ヤメタ」にその辺の凡人など要らぬ! 我々の同志となりえるのは彼らと張り合える力を持つ者のみだ!」
「こんな人たちと張り合える人材どこ探しても居ないから!」
この男の人がまとめ役なのかもしれないけど、こんなおかしな人材どこから持ってきたの!?
「異世界から召喚した勇者の余り者に決まっているだろうが! このような素晴らしき人材、ヒローズの軟弱者に埋まっているはずなかろう!」
「埋まって無くて当たり前だと思うよ!? というか、埋まってる方がおかしいからね!?」
というか、本当にこんなのと練習試合するの!?
「当たり前です。燃えてきましたよ」
「同感だ」
「あの二人ってこういうの好きだったんだね~」
「そもそもまともな勝負自体出来ないと思うけど……」
だって相手が相手だもん……。他にもまだ妙な能力がありそうだし……。
「当然だ。私が育てたこのチーム、その辺の弱小球団とはわけが違う。まあ、残りは試合の際にでもお披露目するとしよう。どうする? これでも我々に挑むか?」
……うん。普通の人はもう勝負にならないよね。というか、戦う前からいろんな意味で勝負にならないよ……。
「二言はありません」
「同じく」
「よかろう! では、練習試合に付き合ってもらおうか!」
そして挑むジルとグリーダー。……どうなっちゃうのこの勝負……。
え? これは野球じゃない? 何言ってるんですか。四次元世界の野球ゲームですよ?
「もうすでにおかしいよね!? 相手選手絶対人間やめてるよね!? 首が回転したり右手を発射したり背中を向けて打つなんて明らかにおかしいよ! それにステルス選手なんて出したらいけないでしょ!」
大丈夫だ。おかしな点は次話の試合で更に登場するから。この話に普通の野球を期待する方が間違っている。
「余計駄目だから!」
こんな素晴らしい野球が現実になれば、きっと現実のプロ野球=最強のコメディーになるんだ。そうに違いない。無駄に長い野球中継なんかやめて、こういうカオスな野球を放送すればいいんだよ。
「むしろ駄目な方向に進むよ! というか、それもう白熱した試合とか絶対不可能だよね!?」
首が反転したり自在に回転するピッチャーの魔球を背面打法で迎え撃つバッター……なんて白熱した試合だ。そう思わないか?
「思わないよ!」
まさかこれが正規の仕様の野球ゲームなんて無いだろう。そんなもの売ってみろ。即座に飛びついて買ってやる。
「無いから! そんな商品失格物誰も作らないよ!」