うつろいゆくせかいで
一番最初に動いたのはマジキムくんだった、
彼の隠し持っていた刃が本体に襲いかかる。
が、それは本体の前にまるで見えない壁に阻まれた様に止められてしまった。
「何⁈」
毛を逆立て驚ろくマジキムくん、
本体の能力は彼らではわからないか…
「あ、タンマ!君たち、上見てご覧よ、おれからの楽しい、楽しいプレゼントだ」
ニヤリと嗤う本体、
上…?
⁈
そこには…おびただしい程の剣が浮いて居た、
こんなの…さっきまで無かったのに…⁈
「『ダモクレスの剣』…と言う話を知って居るかな? 今はまさに君たちがその状態にあるんだよ…」
ダモクレスの剣…王が決して良い物では無いって話だったかな?
メメント・モリ…まさに死と隣り合わせって事か…
本体らしい暇潰しだね…!
「そう…お前達はその顔が一番良く似合う…理解出来ただろう?おれと君達との圧倒的格差が…そうやって地を這い蹲る君達は驚愕と恐怖にうなだれていれば…」
本体もわかって居るはずだ…
彼ら…運命の申し子がそんな事でへばる筈なんてないって事を…
「それが…どぉしたぁぉ⁈」
バルベリトくんが拳で殴り掛かった、
勿論再びバリアの様な物で止められる、
それでもバルベリトくんが諦める事は無かった。
「やれ!王子!」
その瞬間に、
鋭い矢が閃光の様に本体へと走った、
これなら…いける⁈
かと、思ったが…
突如、天井に浮いて居た剣の一房がその矢をへし折る様に降って来たのだ、
たった一本の剣が、本体のお遊びによって生み出されただけの剣が…
彼らの連携の矢を折ったのだった。
「ふーん、流石にこれにはびっくりしたな、幾らなんでもおれでも対応しきれなかっただろうしね」
その賞賛は、嘲りだった、
「だが…皇帝たるおれに刃向かうこと…その大罪…どの様にして悔い改めさせようか?…ナ!」
瞬間…
僕に矢が放たれた、
本体の笑みを浮かべるその中央から…
その矢は…真っ直ぐに僕の心臓を狙って居た…
シぬ…
恐怖で身体が動かず、半ば諦めの覚悟が頭をよぎった瞬間、僕の身体は押し倒され、
顔に、熱い、真っ赤な液体が降り注いだ。
「ぇ…」
僕の目が映したのは相変わらずいつ落ちるとも知れぬ刃と、
顔に、苦痛を浮かべつつも僕に笑いかけるオセくんだった。
「だい…じょうぶ、か?」
わかん…ない…
なにが起こったの?
何でオセくんから血が出て居るの?
何で僕じゃ無くてオセくんが苦しんで居るの?
「ッシ…何処にも、怪我してねーな…?」
そういいながらゆっくりと立ち上がるオセくんの肩からは本体の放った矢が深く突き刺さって居た。
「オセ様!何で!」
肩から矢を引き抜くオセくん、
矢は即死させる事が前提だった為思ったよりもスルリと抜けた。
それでも…
「何で…って…んなもん当たり前だろうが!目の前でヒトが…自分の好きな女が殺されそうに成ってて指くわえてるだけの男が居るかよ!」
肩を押さえながら叫ぶオセくん、
額には脂汗が浮かんでおり、その苦痛を表して居る。
「そ…そんな…」
「うん、バカじゃないの?そいつ何回も言ってるけどヒトじゃないよ?オセ君、そもそも生命が無いし」
そう、そうだよ…
何度も…言われて居るじゃ無いか…
なのに、
何で僕なんかを…!
「うるせぇ!」
そう言って血に塗れた手で、僕の腕を掴むオセくん、
その手はオセくんの胸に寄せられ押し付けられた、
オセくんの確かな鼓動が指の下に踊る。
「デカラビアも…自分の胸、触ってみろよ…」
言われるがままに自分の胸にもう一つの手を乗せた、
すると、オセくんももう一つの手で僕の手を覆う様におく。
「…動いてんじゃん…」
オセ…くん?
「心臓!動きんだろ!命が無いなんて関係無いだろ!『生きて』んだ!死んでる奴は心臓、動いて無いだろ!でも、お前は違うじゃん、動いてんだろ!だから…生きてるんだ!」
オセくん…
もう目から涙がぶありと溢れ出て居た、
ずっと、自分がカケラである事に…生命を持たぬことにコンプレックスを味わって居た。
大好きなヒトが居るのに、
そのヒトと結ばれない…自由で在るが故の束縛にもがいて居た。
僕は、自分よりも背の高い少年を見る、
オセくんは肩の痛みに顔を顰めながらも決して弱まらない光を灯した夕陽の目で僕を見つめて居た。
☆☆☆
「ゴシュジンサマ…」
一方の皇帝達、
彼は今や自分の使い魔と成った黒き聖霊から話しかけられて居た。
「私も…私も『生きて』居るんでしょうか…?私にも価値が…愛してくれるヒトが居るでしょうか?」
皇帝には彼女の言いたい事が理解で来た、
彼女の今は無き母親を彼は知っていたからだ。
「向こうに行きたく成ったか?」
「い、いいえ、そんな事は有りません…ただ、羨ましく成ったのです…」
そうか…と皇帝は呟く、
彼女の未来が定められた瞬間だった。
「行って来れば良い、そうして知りたい事を知れば良い、それでお前が幸せになれると思うなら」
カラスは一瞬迷ったが、答えは既に出ていたようだ、
皇帝に頭を下げ、泣いた様な顔で挨拶を告げる。
「今まで、ありがとうございました…さよう…なら」
そう言ってバルベリト達の元に飛び去るカラスを眺める皇帝、
彼は邪悪に微笑み言った、
「あぁ…『サヨナラ』だ…」
☆☆☆
信じられない…
血に塗れたのは翼…今まで僕が良く見て来た黒色の翼…
軽く開くのはくちばし…僕と共に馬鹿話をしたり、悪巧みをしたり、時に嘲笑した嘴…
濁った光は瞳…今までは黒々とし、生気を湛えて居たその瞳は白く濁る…
それは…『リゼ』の変わり果てた姿だった、
明るく戯けるカラスはもうおらず、後に残った抜け殻は彼女の鼓動が止まった事を示して居た。
暫くは誰もが言葉を失って居た、
それが『リゼ』への手向けかはわからないけれど本体も口を閉ざして居た。
最初に口を開いたのは、
『リゼ』の小さな身体を引き裂いた剣を引き抜いたバルベリトくんだった。
僅かに唇を震わせる事から怒りや悲しみを持っている事が分かる。
「おまえ…何で『リゼ』を殺したんだ…」
これまで見た事も無い程の鋭い眼光で本体をにらめつけるバルベリトくん、
生まれて初めてバルベリトくんの事を怖いのだと思った。
しかし、本体はそんな事は知らぬと言わぬばかりに口元を歪めながら言った。
「別に、特にはな、強いて言うならばおれから離れんとする事を拒んだだけだな、戯れだ」
本当に何事でも無い様な感じだ、
彼は…本体は恐ろしい、生命を真に理解する故、その価値を失った…悲しき悲しきバケモノ。
「…ッおまえ!『リゼ』の事!仲間じゃねーのかよ!何でそんなに簡単に殺せるんだよ!デカラビアの時だって…!」
バルベリトくんは『リゼ』の亡骸を抱きかかえて涙を流して居た、
バルベリトくんのこの世界での6年余りの人生では『リゼ』は家族同然の存在だった…
今は僕のオリジナル…現在のイシュタルの意識の基礎と成ったデカラビアと共に…それは、僕自身にも言えること…
「死は終りてわは無い…そんな事お前も知って居るだろう?新しい生命が廻るだけだ、身を持って知って居るのだろう?ハルキ」
生命…僕にはわからない…
それは決して一定の物では無くて常に揺れ動く儚き物、
永遠を手にする事は神々ですらなし得られず、まさに砂上の楼閣の如くだった…
でも、それを、
生命を捨てる事により永遠を手に入れた運命を狂わせし魂。
我らが創造主が手に入れた。
「でも…でもそれってやっぱちげーよ!繰り返されるから殺して良いとかじゃねーだろ!誰にもヒトを殺す権利なんかねーだろ!」
バルベリトくんの真摯の叫び、
運命の申し子らしい言葉か…
しかし、
本体はその答えも聞かない。
「何で?じゃあお前等も家畜とかを殺す権利無く無いか?でもあいつ等って喰われる為に生きて居るんだぜ?」
「家畜と人間を一緒にするのですか?」
「王子君、言うねー、でもな?『リゼ』と言う烏をこの人間として扱ったのはハルキ何だぜ?」
確かな正論…
でも…感情を考慮していない、
もしかしたら本体には既に心と言う物が存在していないのかもしれない。
「…俺はさ、別にムヅカシイ話はわかんねぇよ?でもよ…分かる事が今ひとつある…てめぇは…ムカツクんだよ!」
再びマジキムくんが叫び飛んだ、
その手には剣が握られている、
ダメだよ、それじゃあさっきの二の舞じゃ無いか!
だけど…
今度こそは彼らが運命の申し子である事を思い知らされた。
何と、バルベリトくんも同じく本体へと殴りかかったのだ、
松ぼっくりくんの矢と共に。
「うっそぉ…」
全ての攻撃が不可視の壁の一点に集中した瞬間、
その壁はまるでガラスの様な音をたてて割れた。
「まさか割られるとはね…ちょっと驚いたや…流石は運命の申し子か…例え運命を超越したとしてもこの様か…やはり異分子は消えるべきかな?」
そう言ってさも嬉しそうに喉を震わせる本体、
まるで自分が負けたとは思ってはいない様だ。
事実…負けていない。
異分子…その言葉に胸が締め付けられる、
その言葉は言外にも僕らは消えるべきなのだと言って居た。
「なにが面白い!」
「あぁ、面白いとも…漸く自分自身の存在が楽しくあるのだからね、血が流れるよりも、肉に包まれるよりも、何よりも…災いだ…!美しいとは思わないか?二度と回る事が無い筈の運命の輪が、おれを殺した男の弟がまたおれを殺す、因縁だよ、美しさすら感じるな…これぞ真の神、神を生む神の采配か…運命とはかくも恐ろしいな…」
気がついたら頭上の剣が消えて居た、
何を思ったのだろうか?あれがあれば僕らを…違う…?小細工を辞めた………
つまり、全力を持って在るべき姿、運命を破壊しに掛かっている…
本体の持って居た槍は消え、ただ、強く輝くだけの『焔』があった、
バルベリトくんの持つ『火』と根本を同じくさせる物だけれども文字通り火力が違った。
もはやその『焔』はただ一点の光に成り、
強烈な閃光を放つ太陽の凝縮体へと成って居た。
誰もがその『焔』に心を奪われていた時、
本体が笑みを浮かべながら言った。
「美しいだろう?炎としての揺らめきを忘れてしまい、もはや熱ある光と成ったおれの魔力だよ…来い、ハルキお前が勝ったら…この女の子…開放やるよ」
自らの胸を押さえながらバルベリトくんを誘う本体、
まさか…ポティスちゃんの身体を…?
「勝敗はたったの一回、お前の持ったる最強の魔法を打ち込め…」
その時、本体の目が僕を見、
微笑むのを見た、
つまり…報復から救うには…こうするしか無い…本当に…酷いヒトだ…
☆
結論は出たのだ、
世界は焼けるのだ、
瞳に映るのは海なのだ、
本体…世界と世界を繋ぐのは『愛』で在るが、その父と子を繋ぐのは必ずしも『愛』では無い、
溢れる涙が止まらない、僕はこの人を恨むと同時に愛して居たらしい、
怒りも妬みもこの人に抱いて居たけれど、やはり僕はこの人を…
「父さん…貴方を…愛して居ました…」
僕は全力で『夢』の魔法を叩き込んだ、
ポティスちゃんの中に巣食う魂と精神を子が追い出す為に…
再び本体は三位一体へのアンチテーゼを彩った、
彼は…あの人は…本体は…ハルキを、バルベリトくんを愛して居た、
兄として、そしてまた、異性として、
だから、報復なんかきっとできなかったんだね…
ヒトの『愛』はパンドラの箱、
誰もがもつ、最後の希望。
「良くやった…デカラビア、それで良い、ヒトは物事を選択すれば必ず後悔する様に出来ている、成功だよ…」
そのまま言葉が吸い込まれる様にポティスちゃんは…開放された。
夜明けが生まれるその時に。
つしろ謎が深まるふかまる!(◎_◎;)
次回が最終回を予定して居ます、
なんだか早かったなぁ…




