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ふらりと愛媛編 2月24日 ①


午前6時



 スマホで設定したアラームが幾度となく鳴り響く。

 

 うめき声をあげながら、何とか止めようと、目も空けずに音のなるほうへと腕だけを振り回す。

 

 ガツン、ゴトン


「ひぃいんい!」


 振り下ろした指の関節がベッドのフレームに直撃。そして激痛が走り、思わず飛び起きる。


 泣く寸前のように息がヒッヒッヒと跳ねるが、私はもういい年した人間である。


 「お~、よちよち……。痛かったねぇ~」


 自身の指へチュチュチュと、実家のペットをかわいがるが如くヨチヨチする。

(ペットは目をガンギマリにして嫌がるので、ペット本人ではなく、ペットの目の前でぬいぐるみにやっている)


 それはそうと、せっかくの自由な旅行なのに何故私がこんなに早くに起きたのか疑問に思う人もいるだろう。

 いない?私は思うから、いるで間違いない。


 健康的で文化的な生活に目覚めた?

 んなわけない。死が近づかない限りは怠惰の極みを目指したい。


 道後温泉本館に入るための早起き?

 それも違う。それに関しては別次元の私にやってもらおうとおもう。


 ホテルの朝食?

 ……exactly!(その通り!)


 そもそもここのホテルを選んだ理由は飯だ。そうじゃなかったらケチりにケチって、居心地もケチった宿を選んでいた。


 鼻歌を歌いながら身支度を整えて。部屋の外へ出る。


 目指すは一階。朝食会場だ。



 

 ――朝食会場



 

「あ、ひ、ひひ一人です、一人です!」


 ホテルの従業員に何とか伝えようとするが、対人関係がカスな私は自身の現状を伝えるべく、勢いをつけて何名かを伝える。

 

「あの、お部屋の番号を……」


 少し勢いが空回りしてしまったみたいだ。出鼻をくじかれながらも席に案内される。

 案内の途中、私は視線をもちろん料理のラインナップへと巡らせていた。


 なんかおいしそうな手作り郷土料理……。

 なんかいっぱい種類があるサラダ……。

 あ、卵が山盛り。スーパーでは見ない形と色の卵だなあ。

 ん?あれは……。


 見間違いかと思い、席に荷物を置いた後にすぐさま≪それ≫に向かう。


 そこには、様々な種類のミカンがあった。さながら『みかんバー』


「おおおおお!」


 視界でのアピールに弱い私はその誘惑に即座に降参し、皿にドカドカとミカンを盛に盛り付ける。


 他のお汁や食事を乗せるスペースがなくなり、仕方が無く。そう、仕方が無く席に戻る。


「むほほ。私の舌を唸らせることができますかしらね」



 5分後



「みかんおかわり!」


 お皿を持ってミカンバーでウロウロする人間が発生していた。それを見ていたのだろう、従業員が私に声をかける。


 一体全体何なのか。ミカンばかり食うなという事か?ええい。他の物も食すに決まっておろう。だが世の中には順序というものがあり、ベジファーストに則って、ミカンは植物だから実質ベジタブルで……。


「ドリンクコーナーはご覧になられましたか?」


 ……こ奴、飲み物で腹を膨らませろと言うのか?なんと失礼な奴だ。此処は客としてビシッと言ってやらねばなるまい。


「ぁ、まだ、です。どこ、ですか……?」


 まあ、人間。こんな時もあるさ。


 ――ドリンクコーナーにて――


 もう呆然としてしまった。なぜならそこにはミカンジュースがあったからだ。


 ホテルの玄関のウェルカム蛇口ではない。

 フルーツ絞り機の横に、ミカンが山盛りに積んである。

 

 無言でごとごとミカンを投入する。そしてマシンを動かすと。ミカンが機械の中で運ばれて行き、目の前で絞られていった。

 まさしく生絞りのミカンジュース。


 こんなの、何杯でも飲みたいに決まっているじゃないか。

 その場で飲み干したい気持ちを抑えつつ、もう一杯作る。


 そして歩きながらでも飲みたい気持ちを抑え、席に着くと同時にごくりと一気に飲み干す。


「!?、これは!」


 オレンジジュースとは違う、酸味控えめの甘さが主体となったミカンジュース!

 しかも、このみかん、コクがあってうまい!


「……おかわり、だな」


 先ほどの生絞りマシンのところに目を向ける。目を話したのはたった一瞬だった。そのはずだ。

 だが、すでにそこには、長蛇の列が生まれていた。



 午前9時



 人ごみを避ける影の生き物の私は部屋で一人くつろいでいた。

 チェックアウトの準備も既に終えており、あとは受付に行くだけだ。だが、まだ何か物足りない。


「あ、道後温泉本館、ちゃんと入ってない」


 思い出した。昨日は時間の都合であきらめたが、どうせならと本当はもうちょっと堪能したかったのだ。


 基本となる広くて大きい『神の湯』。そして、追加料金を払えば、さらに別の霊の湯、その2階席にて休憩をすることが出来る。


 博物館や趣のある建築物が好きな私にとっては、まさに道後に来たからには絶対に行かねばならない場所。知的レベル向上のためにも、やはり行かねばなるまい。


「よし、決めた!」


 意気揚々と出て、目指す先は道後温泉、その本館である。と、その前に。


「すいません、チェックアウトお願いします」

「かしこまりました」


 神よ、去る時だけ真人間っぽくなるこのコミュ障を、どうにかしてください。


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