ふらり旅前日話
奈良。鹿みて神宮を見ると、ふと頭をよぎった。いや、よぎったどころかそのまま脳内にしがみつきだしたぞコイツ。
まあ、仕方があるまい。このような始まりもあるだろう。
明日はミカン県に行こうと思い立った。
―夜九時―
「ご飯いらない! 旅に出る! ミカン!」
『はあ? ご飯も何も、あんた今何時だと……』
ブツンッ――
そう電話越しに叫ぶと母が何か言っていた気もするが、頭の中ではミカンが腰蓑を装備し気分はカーニバルである。
父もこうやって帰ってこないことがあるので、これは遺伝だ。私は悪くない。
今カバンに入っているのは10万円。小学生のころからお年玉を必死になってためたものだ。どこまで行けるのだろうか。全く分からない。
まあ、金銭感覚に乏しいのは自覚している。切り詰めるので許してほしい。
勢いを殺さぬよう、すぐに奈良→新大宮駅に乗って、すぐに大阪難波駅バスターミナル。
そして夜11時発の夜行バスに乗った。……はずだった。
思い付きで動く人間の行動だ。そんな上手く行くはずもない。
上手く行く行動なんて人の指示通りに動いたときだけ。
こうやって自我を出すとすぐ失敗する。ああ、嫌だ嫌だ。
大阪の誘惑に負けた私はバスに乗り損ねてしまった。そもそもチケットも買っていない。
泊まれる宿を探すため、宿から宿への冒険を重ね、その日は何とか取れた大阪の宿で一夜を明かしたのだった。




