オレは刀を拾うつもりじゃなかった
とある店先の軒下に無造作に置かれた木箱があり、その中には刀が一振りポツンと打ち捨てられていた。
刀には木札が1枚添えてあり、雑な字でこんな文言が書かれていた。
【可愛い捨て刀です。貰ってください】
原文のまま掲載。
「って、なんやねん! 捨て刀って!」
「捨てた刀。不要となった刀剣のこと。無償で譲渡する目的で放置」
意味不明な出来事につっこむユウリに、ヒルデがサルでも分かるような解説を淡々と答える。
「いやいやいや。それって、捨てイヌや捨てネコとかの定義だろう?」
「刀だって同じこと」
「断じて違う!」
ヒルデの答えを、ユウリは力いっぱいに全否定。
当然だ。
そもそも殺傷道具である刀に〝可愛い〟なんて概念があるのか? たとえ鞘に納められていようが凶器は凶器、物騒極まりない存在なのは消しようがない。
だが刀よりも物騒なのは、そんな凶器を目の当たりにしても一切驚かない侯爵令嬢とその使用人。
「軒下に捨てられていて……寒くないのかしら?」
「風邪をひかないか、心配」
「どっちもふつうにあり得ねえだろ!」
なんで刀が寒がったり風邪をひいたりすると思うんだ?
オレは、寒さを感じない。ダッダッダー! だろ。刀なんだから、武器なんだから、ダッダッダー!
しかしユウリの意に反して、レオノーラの心配と同情が止まらない。
いったいなにが気になるのか「夜露に濡れたら錆びちゃうかも?」と未だまともな心配事から「可哀そうだし、拾ってさし上げたら?」という同情へ。さらには「ユウリが拾わないと、野良刀になるかもよ」という、半ば恫喝めいたところまでヒートアップ。
「いや、いや、いや。胡散臭さしか感じられないだろうに!」
ユウリがそう言えば「胡散臭いだなんて……アナタには情というものが足りませんわ」と非難までする始末。
「よしよし、もう大丈夫ですわよ。わたくしが来ましたからね」
「完全に捨てイヌの扱いやんけ!」
そのまま頬ずりしそうな勢いのレオノーラにツッコミを入れると、ユウリは「捨てて置けよ」とキッパリ。
「これ見よがしに【貰ってください】だなんて、ゼッタイにロクでもない品物に決まっている。駆除……討伐に使うにはゼッタイに不適切だ」
クルリと回れ右をして帰ろうとしたら、どこからともなく耳元に『そんな。見かけだけで判断するやなんて、殺生とちゃいますか?』と恨みがましい声が聞こえてきた。
「……は?」
ユウリは思わず振り返るが、当然ながらそこにはレオノーラとヒルデしかいない。
「いま、なにか言った?」
「わたくしはなにも。ヒルデは?」
「…………」
ヒルデも無言で首を左右に振る。
じゃあ、誰だ。
ユウリの視線が、ゆっくりと木箱の中の刀へと向かう。
『妾が、そないに怪しおますか?』
そう言いながら箱の中の刀がスッと起き上がり、ユウリのほうに向き直ったではないか。
………………
…………
……
「しゃべったぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
『ちょ、ちょっと。唾、飛ばさんといてくださいな。飛沫がかかりまっしゃろ』
当たり前のようにパニックを起こしたユウリに、元凶たる刀が〝飛沫が飛んで来てばっちい〟と文句をたれるが、いやいやいやいやちょっと待て。
「オマエ、鞘に収まってるだろ。どう考えても飛沫なんて届くはずないだろうが!」
刀が喋る異常さをものともせず、ユウリは唾なんか被らないと全力で反論するが『そういう問題やありゃしません!』と一蹴。
『たとえ鞘に守られてても、気分の問題ちゅうもんがありますやろ。 他人様に向かって大声で唾飛ばすのは、礼節に欠ける行為やおまへんのか? 妾は刀である前に、一振りの〝人格〟なんどす。粗雑に扱われたら傷つきますえ』
「人格? 刀に?」
『あったら、おかしいとでも?』
ずいっと凄む刀の迫力にユウリはたじろぐ。
『そもそも、人格がどうのこうの言う以前に他人様に唾飛ばすなんて失礼極まりない行為。手入れもされず放置されて、夜露に濡れて、挙げ句の果てに唾まで浴びせられるやなんて……悲しゅうて涙も出ませんわ』
「刀が涙ってどういう理屈だよ!」
『理屈やあらしまへん、心の問題どす、心の。そもそも妾は、ただ〝拾ってください〟とお願いしてるだけやのに、なんでそんな邪険にされなあきませんの? 見た目だけで判断して、話も聞かずに〝胡散臭い〟やなんて……そら傷つきますえ』
「いや、刀が傷つくって……」
『傷つきますえ(即答)』
傍から見たら超が付くくらいシュールな光景。にもかかわらず「不快な思いをさせたわね」とレオノーラが刀に向かって謝意を示し、ヒルデに至っては「失礼いたします」と懐からハンカチを取り出してユウリの唾を拭き取るほど。
「オマエら、順応が早すぎだろう」
ユウリが呆れるのも当然と言えば当然か。
傍から見たら骨董品のような刀を囲んで美少女3人が話しかけている絵面は、シュールを通り越してちょっとしたホラーだ。
「とにかく。そんな得体の知れない刀なんて拾わないからな!」
ユウリはキッパリそう言うと、回れ右して踵を返す。背後から『そんな~ぁ』という恨みがましい声が聞こえてくるが、気持ち悪いし胡散臭いので当然ながらガン無視。
そんなユウリに「拾ってあげれば良いのに」とレオノーラが冷たいジト目。
「刀が喋るのには少しビックリしたけれど、刃渡り・重さ・刃の造りともに申し分のない名刀よ。侯爵位を拝命するヴァルフェリア家であっても、これだけの業物はそう簡単には手に入らないわ」
『そうでっしゃろ。そうでっしゃろ』
「なんでオマエが自慢げなんだよ」
『そやかて、妾は史上最強の一振りやさかい』
どやーと言わんばかりに刀が仰け反る。
調子に乗るあまり仰け反りすぎて木箱から落っこちる軽薄さに、ユウリは「やっぱり、コイツはダメだ」と烙印。
「とにかく。そんな胡散臭いものは拾わないからな」
『そんなぁー!』
けんもほろろなユウリの対応に刀が打ちひしがれる。
が、気落ちしたのはホンの一瞬。
『それやったら、妾にも考えがおます』
そう言うや否や刀が木箱からすっくと起き上がり、ユウリの頭を飛び越えると予想だにしない行動に出たのであった。
『ヤダー! ヤダー! 拾ってくれなきゃ、恨んでやるー!』
地べたでのたうち回り、聞かん坊さながらに駄々をこねる。
「おい、止めろ! 外聞が悪いだろう!」
止めれば止めるほど刀のヒスはヒートアップ。ますます大きな声で『人でなしー! ろくでなしー!』とごねる始末。
道行く人々が視線をそらし、隣店の店主が顔をしかめる。
当然レオノーラの機嫌も悪く「外聞が悪いからなんとかしなさい」とユウリをしかりつけ、ヒルデも能面のような表情で「なんとかしろ」と言外に迫ってくる。
「おい、静かにしろ!」
『イヤや! 拾ってくれるまで止めへん!』
「いや、止めろって! マジで外聞が悪いんだってば!」
ユウリが慌てて声を潜めるが、刀は聞く耳を持たない。むしろその場に転がりながら、さらに声量を上げてくる。
『うわああああん! 見捨てられたぁぁぁぁ! 妾はここで朽ち果てるんやぁぁぁ!』
あまりのシュールな光景に「すわ、なにごとか?」と周囲に人垣ができ始め、比例するように見世物感がますます増していく。軌を合わすようにレオノーラとヒルデの視線も冷たく、ユウリの残された選択は一つしかなかった。
「ああっ、もうっ! 分かったよ! 拾ってやる!」
やけくそで叫ぶユウリに、件の刀が顔もないにもかかわらず、してやったりとばかりに〝ニタリ〟とほくそ笑むのであった。
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