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だから私は!!  作者: 海蛇
第二章.ビャクレンの園編
34/62

#34.それはそんざいしてはいけないじんぎ

 ようやくにして、目的の人物と巡り会えた。

ずっと探し続けていた、その人物が、眼の前に居た。

セシリアPTの誰もがそう思いかけ……しかし、当人は既に、息絶えているのが解ってしまった。

同じ顔をした人物が、牢獄の中で、モノ言わぬ姿になっていたのだから。


「セシリア。油断するなよ。こいつも偽物だ」

「解っている。だが、彼に敵意は感じられない。戦うつもりなら、不意打ちだって仕掛けられたはずだ。父上の、仲間だった人ならな」


 シェルビーの忠告に頷きこそするが、セシリアはそれでも武器を手に取ることはしなかった。

父と共に冒険をした仲間だったというなら、恐らくその実力も、一級品と言って遜色ないはず。

そんな男が、敵視している相手に不意打ちするチャンスがあって、無視するとは思えなかった。

そう思うからこそ、セシリアは今攻撃を仕掛けてこない彼を、『本物』と認識した。

少なくとも、今はそう扱う事にしたのだ。


『そう扱ってくれるならこちらとしても都合がいい。私も、君達にはまだ、殺意は湧いていないからね』


 戦う気が無いのは同じさ、と、年配ながら気楽さを感じさせてくれる口調で語り掛けてくるこのボルトアッシュの偽物に、その場の誰もが妙な違和感を覚えそうになっていたが。

その口の軽さも何かの計略などという事はないらしく、かつかつとセシリアの傍まで歩いてきて……そして、死体となった本物の前に立つ。


『ただ、偽物という呼び方はやめてほしい所だな。我々は、自分たちの事を鏡人(ミラーマン)と呼んでいるからね』

「ミラーマン……」

「ん? どうしたテレサ……ああ、なるほどな」


 クローヴェルの傍に立つテレサが何事か彼に耳打ちしていたが、それが終わるや、彼は自分の仲間達に「外で見張っててくれ」と、通路側の警戒を頼んでいた。

仲間達も不思議がっていたが、自分たちより遥かに強いセシリアが傍にいたので、抵抗なく素直に従った。


 そうしてほどなく、セシリアPTとクローヴェル、そしてテレサだけになったところで、テレサは「こほん」と小さく咳をし、鏡の前に立った。


「おい、テレサ……」


 クローヴェルが止めようとするのも聞かず、鏡面に手を触れ……そして、その装飾を指先でこするように触れてゆく。

鮮やかな瞳が、一瞬、鏡に反射してきらめいた。


「この鏡は、相当古い物ね。ここまでの通路で見かけたものはそうでもなかったけれど、これだけが異様に古い……」

『神代の技術だ。恐らく、人間の手によって作られたものではないだろう、な』

「これが、ミルヒリーフの住民たちの『儀式』に使われていたもの、という事かしら?」

「カレンの話を聞くに、そんな感じらしいな。儀式に使う為の『大切な宝物』があると言っていた。鏡だったとはな」


 それが何であるのかまでは解らなかったセシリアは、改めてテレサの前にある鏡を見つめるが。

それ自体は、古びた鏡、以上の感想を抱くようなものは感じさせなかった。

他の面々も鏡を見るが、やはり感じ入るものはない様子で。


「――ミラーマンとは、何なのだ?」


 再び偽ボルトアッシュの方を向くと、彼はじ、とセシリアを見つめ、小さく笑みを見せながら口を開いた。


『ミラーマンは、この鏡より生まれ出でし、生命だ』

「俺たちは偽物と思ってたけど、つまり、俺たちとはまったく別個の生き物って事か?」

『そう受け取ってもらって構わない。少なくとも私は、君達が私と同じ人間だとは思っていないからね』


 彼らだってそうだろうさ、と、自嘲気味に天井に視線を向け。

そしてまた、セシリアを見た。


『我々視点では、君達こそが我々の偽物であり、我々は元々こういう形をしていた、という認識な訳だ。だから、君達の事を不気味に感じるし、敵対したり、大切な場を踏み荒らすならば、戦う事も辞さない者も出てくるのさ』

「あんた視点では、そこに転がってる自分と同じ姿の死体は、気に食わない邪魔者だった、って事か」

『……いや? 私は彼から目的を聞かされていたし、その目的は私的にとても共感ができるものだった。このように、個々によって自分の偽物に対しての反応も異なるものでね。必ずしも一致するとは限らない』


 あくまでそうなる傾向が強いだけさ、と、手をフリフリ。

それに対し、クローヴェルは怪訝そうに彼を睨みつけた。


「ならば、なぜそこにボルトアッシュ氏の死体が転がっているのだ?」

『ボルトアッシュは私さ。だが、彼もまた同じ名前の、同じ顔をした男だった。というより、彼がここに来たから、私が生まれた、という方が正しいのかもしれんが』

迂遠(うえん)な言い回しはやめてもらおう。質問に答えるんだ」

『君は私を疑心に満ちた目で見ているね。だが、まあ、君にとっては大事な女性が傍にいるのだから仕方ないか。その態度も大目に見てやろう』

「なっ!?」


 確かに今のクローヴェルは若干攻撃的に見えなくもない視線を彼に向けていたが、彼の言葉には大仰に狼狽してしまっていた。


「……大事な?」

「いやっ、テレサっ、こんな奴の言う事は――」

「答えなさい?」

「だから、その……」


 そして自身の主人に詰められてその攻撃性も鳴りを潜めてしまっていた。

わざわざ自分の元まで戻ってきて、顔を突き付けてくるのだ。

クローヴェルもたじたじであった。

それを見たシャーリンドンが「微笑ましいですわ」とちょっとだけ癒されたりもしたが。


「……大事な、主人ですので」


 執事としての彼は、主人に色目を向ける気など微塵もない。

そういう姿勢で、そういう態度で、そういう覚悟だった。

これにはテレサも「はぁ」と、深い息をつきながら「もういいわ」とそっぽを向いて壁際へと歩いて行ってしまう。

それを見たシャーリンドンは「とんだ意気地なしですわ」と大層がっかりしていた。

名無しも「クローヴェル情けない」と心底見損なったような顔をしていた。

シェルビーだけが「可哀想な奴」と同情していたが、空気を読んで黙っていた。


『はっはっはっ! すまない、少し意地悪な物言いをしたね。彼の死体がそこに転がっているのは……まあ、お察しのように、ここで行われた儀式が原因さ』

「『蘇りの儀』と呼ばれている儀式ですか」

『その通りだ。私がミルヒリーフに訪れた最大の理由……ロスベル殿の後継者たる君に、少しでも有益な情報を残したくて、この儀式を調べようとしたんだが……』

「……失敗したのですか?」

『いいや。潜入そのものは成功したさ。幸い、余所者でも仲間になろうとするものを受け入れよう、という人達が増え始めた時期だったのでね。そして私は、彼らの仲間になった』


 結構簡単に行ったんだよ、と、口元を緩め、気のよさそうな顔を見せながらまたかつ、かつ、と鏡の前に立つ。


『ある日、彼らは「儀式をやるから参加してほしい」と誘ってきてね。私も都合が良かったので、二つ返事で参加する事になった』

「……上手くいきすぎてるように思えちまうなあ」

『私とて最初は警戒したさ。だが、彼らはことのほか善良だった。他者から虐げられ、疎外され続けたからか、仲間になろうという者には親切だったんだ』


 まあ、それはいい事なんだけどね、と言いながら。

しかし、離れた位置からまた、本物の死体へと視線を向ける。


『――儀式とは、この聖域で、鏡に身を映す事。そうする事で、本来あるべき自分が解放される、という趣旨らしいが……まあ、この鏡に姿を映す事で、こうして私のような鏡人が生まれる訳だ』


 小さく息をつき、また鏡面を見つめ……そして手を這わせる。

ぬる、と、鏡の中へと手が埋まっていくのを見て、その場の全員が驚き眼を見開いた。


『私達鏡人は、そうしてしか新たな仲間を増やすことができない。だから、この儀式は本来、私のような余所者よりは、自分たちの間に生まれた子供達に行う儀式らしいね』

「子供達に……? どういう事ですの?」

『鏡人は、自分たちで子供を作っていても、何故かその間に生まれる子供は普通の人間の子供になってしまうらしいんだ。だから、そのままでは置いておけない……』

「おいおい、まさかそれって……」

『勘がいい者もいるようだな。いい事だ。つまりは――生まれた子供を仲間として受け入れるために、ここで子供を鏡に映し……鏡人と入れ替えていた、と』


 そして、牢屋へと彼の視線が向いて……その場にいた全員が、何が起きたのかを悟った。


「何の罪もない子供たちを……殺したのか」

『何の罪もない外部の者も、ね。そこで転がっている彼もまた、私が生まれたと同時に牢獄に放り込まれ……しかし、少し前までは頑張って生きていた』


 我ながらよく頑張ったものだよ、と、これに関してはバカにした様子もなく、どちらかというと友人を失ったかのような、嫌そうな顔をしているように、セシリアには感じられた。

どうにもこの男は、人の良さだけは間違いがないらしい、と、そんな風に思えたのだ。


『私は投獄された彼と、彼が死ぬまでの間、いくつも話し合っていた。彼自身の持つ記憶は、私の持つそれと何ら遜色がない。そして彼の目的もやはり、私自身と同じものだった』


 当たり前と言えば当たり前なのだが、と、口元を歪め。

そして、またセシリアを見た。


『尊重したい、という気が湧いてね。だから、君達に協力してやる気になったのさ。私から見たら、君達は偽物だろうけど、ね』

「それは有難い事です。そうですか……死んだ彼が、結果的に生きている貴方を、動かしたと」

『ふふっ、そうなるね。だから、できれば君達とは敵対したくはない。勿論、君達がこの鏡を破壊したり、持ち去ろうなどと思わなければだが』


 あくまでここは聖域だからね、と、警告するように見渡す。

恐らく彼の警戒の対象は、この鏡に対し何をしてくるかわからないクローヴェルとテレサだろう、と、セシリアは考えたが。

幸いにして、二人は鏡に対し、何かしら良からぬことを企む、という風ではなかった。


「私はここで行われた儀式が私の探求しているものに繋がりがあるかもしれないからここに居るだけよ。鏡そのものに興味がないと言えば嘘になるけれど……奪ったり破壊したりする気は起きないわね」


 視線を感じてか、テレサは壁際に立ったまま手をひらひらと揺らし、悪意を否定する。

クローヴェルもそれに従う意思を見せ、小さく頷いていた。


「しかし、ここで子供殺しが行われていたってのは、無視しがたいというか……しなきゃいけないんだろうけどなあ」

「私達の常識で判断していい事ではないだろうから、そこは飲み込むしかないね」

「そうですわね……困ったものですわ」


 彼の協力はありがたいとはいえ、やはり問題として、この聖域で行われている儀式によって子殺しが行われているという事実は、仲間達には受け入れがたいものがあるようだった。

だからと、ここで彼と敵対しても何もいい事はないのは、その場の全員が理解してはいるのだが。

だが、生けるボルトアッシュは言うのだ。『元々授かるべき形になっただけだから』と。


『死んだ彼との会話の中で、特に白熱したのは、この鏡についての正体だ』


 嫌な流れになりそうだった雰囲気が、彼の言葉と共にまた入れ替わり、全員の視線が鏡へと向いていた。

確かに、気になるのだ。

この鏡の正体が。何故そんなことになってしまうのかが。


『先ほども言ったように、これは神々がまだ、表立って人類の在り方や世界そのものに姿を見せ、影響を及ぼしていた時代のもの。そしてその性質から――神々が何らか関与したアーティファクトの類なのではないかと考えている』

「……神々が、関与した」

「ポーターちゃん? どうかしましたか?」


 それまであまり口を出さなかった名無しが、ぽつり、呟き。

そうして、傍に立っていたシャーリンドンから離れ、鏡の方へとふらふらと歩いてゆく。

突然の事だったので、全員の視線がそちらに向いた。


「神々の時代、ある神が世界を水に流してしまおうとした。人間が、あんまりにも争いばかりしているから」

「なんだそりゃ? 神話か何かか?」

『創世の歴史。300年ごろに起きたとされる、神々の会話だな』

「私も聞いたことがあるわね。人類が、まだ布一つ纏わず、他の動物と同じように生きていた時代。そんな時代でも、人間は争ってばかりいた」


 愚かなものね、と、一歩引いたところから語るテレサに、多くの者がごくり、息を呑んだ。


「嫌気がさした神々は、『もう少し人間を平和的にできないものか』と考えた。そうして、『水に流して一から作り直した方が早い』という話が出た」


 間に挟まれた言葉など気にもしないとばかりに、名無しは普段よりも流暢な口調で語る。

まるで何かに憑りつかれたかのような……それでいて、その場においてはとても意義のある、そんな事を話しているように、セシリアたちには思えた。


「洒落にならねえ……てか他の動物だって必要なら争うくらいするだろ? その神様が人間が嫌いなだけなんじゃねえの?」

「たぶんそう」


 はっきり断言される所為でシェルビーもついつい「やっぱそうかあ」と名無しの言葉に素直に乗ってしまうが、乗ってから「いやいやそこで納得するのはダメだろ」と思い返し、自身も名無しの傍に寄って行く。


「運命の女神様が言った。『それで今いる生き物はどうするのですか』と。その神は、『何か便利な道具に移し替えて、全て流した後に再び放てばいい』と答えた」

「……移し替えて、って。なんか、引っかかるな」

『そんなところまで神話は続いていなかったはずだが。君の創作か何かかね?』

「う……? ただの、思い付き」


 ボルトアッシュからの指摘が入るのと、シェルビーから「そこまでだ」と猫耳帽子にぽん、と、手を置かれるのはほぼ同時で。

それを以て、謎めいた雰囲気を纏っていた名無しが、いつもの状態に戻っていた。


「思い付きかー。まあ、案外当たってるかもしれないけど、な」


 神話なんてそんなもんだろ、と、苦笑いしながら頭をぽんぽんすると、名無しはその度に「あうあう」とこそばゆそうに目を細め小さな声をあげる。

だが、セシリアはそんな二人を微笑ましそうに見やりながら「まあまあ」とその手を止めさせた。


「だが、今の話には興味深いものがある。名無しの思い付きでは、その話はどうなったんだ?」

「う……? 手先の器用なドワーフ達に『魂を複写する鏡』を作らせたけど、その製造工程で羽虫が一匹、入り込んだ。その羽虫が死ぬまでに感じた苦痛や怒りが、複写した魂に付与されてしまうようになって攻撃性が増し、『こんなものは使えない』ってなって、計画は頓挫(とんざ)した」

「羽虫で失敗って」


 また笑いながらぽんぽんするシェルビーに名無しはあうあうするが、じ、と顎に手を当て考え込んでいたテレサが「でも」と、小さく呟く。


「小さな虫や鳥が入り込んで神器の製造に失敗って、よくある神話の失敗話よね。よく勉強してるじゃないその子。セシリアが教育させたの?」

「いや、私はそんな事はしてないが……この子は時々こうやって、意味深な事を言う事があるからな。私はもう慣れたっていうだけさ」

「ふぅん、そうなの……変わった子ね」


 どこで覚えたのかしら、と、名無しに興味を向けるテレサだったが。

当の名無しは鏡を見やりながら「これはあっちゃダメなやつ」と小さく呟いた。

怒りや憎しみこそは見せていないが、目に見えて不安そうに。


「――ま、ポーターちゃんの思い付きはいいとして、だ!」


 それが深刻なものに感じたから、というのもあって、シェルビーはわざと大きな、明るい声で注目を集めようとする。

狙い通り、全員が彼を見た。


「俺たちの目的ってのはさ、セシリアの一族の、呪いとか、そういうのを調べるための調査だろ? ボルトアッシュさんよ、その辺り、どうなんだよ?」


 変にシリアスになってしまっていたが、本当の目的は達成できていない、とはっきり指摘し、今度はボルトアッシュに寄って行く。

ボルトアッシュはといえば、真剣な表情になって「勿論」と頷き、セシリアを見た。


『このビャクレンの園は、ミルヒリーフの民が使うより遥か昔、癒しの為の園として作られた施設だったらしい』

「癒しの園……」

『セシリア、君の家系は代々、古い呪いを受け継ぐようになっているのだと、ロスベル殿から聞いている。このビャクレンの園は、本来のところは、そういった古く性質の悪い呪いに掛かった者にひと時の癒しを与えるために……当時のこの辺りを治めていた貴族の女性が作ったものだったのだとか』


 宗教的なものではなく、と、断りを入れながら。

しかし、その表情は若干、アンニュイなものだった。


『だが、それだけだ。癒しの為の施設などというが、実際に呪いを解く為の何がしかがある訳でもない。あくまでただの――言ってしまえば、保養の為の別荘地か何かだったのだろうな』

「つまり、呪いを解くためのカギにはならない、と」

『そういう事だな。父上を失い、少なからぬ苦労をしここまで来た君にこれを伝えるのは心苦しいが……ここは、君の求める場ではなかった、という事だ』


 せめてこれがもっと前に君に伝えられれば、と、悔しそうではあったが。

だが、ダンジョンを居場所と定めてしまった彼には、どうする事もできない、という事らしかった。

ただの徒労。

そう思いながらも、セシリアは「だが無駄ではなかった」と笑う。


「父上に、会う事が出来たんです。戦う事が出来た。そして倒し……父上は、私を認めてくださったように思えました。褒めてくださいましたから」

『ロスベル殿が……くくっ、あの親バカめ。ようやく素直になったか』


 セシリアの言葉に、ボルトアッシュは「くくく」と笑い腕を組んだ。

不思議そうに自身を見てくるセシリアに、彼は「いや、な」と、笑いをこらえながら続けた。


『彼は生前、よく私達に君や妹君の事をよく聞かせてくれたからね。特に君の事は、事あるごとに自慢していたよ』

「ち、父上が、私を……?」

『そうだとも! 彼はアレで家族愛が深い男でね。若い頃から家族の自慢ばかり聞かされていたよ。クルシコフなどは「独身の俺への当てつけか」と何度も皮肉っていた』


 意外過ぎる父親の姿に、セシリアは困惑を隠せなかったが。

だが、顔が綻んでしまうのを、隠すことはできなかった。


「そう、か……父上は、私の……私達の事を」

『ただ、嫁の貰い手が付かないのだけは気にしていた様子だった』

「はぐっ」


 クリティカルヒット、再び。

セシリアはその場に崩れ落ちそうになった。なんとかこらえられた。


『そして恐らく、それは呪いの所為だろうとも考えていたようだ』

「マジかよ、本当に呪いの所為でそうなるのか」


 ピンポイント過ぎる嫌な呪いだった。


「……やはり、やはり、呪いの所為か。全部、呪いが悪かったんだ」

『とはいえ、君の母上も結婚し子を作ることはできたのだから、乗り越えられぬ呪いではないのかもしれんな』

「つまり……私に女性としての魅力がない、と……?」


 呪いを乗り越えた母がいる以上、その呪いの所為で結婚できないのはセシリアの甘えなのでは、という厳しすぎる現実が突きつけられ、セシリアは虚ろな目になっていた。


「そ、そんなことありませんわ! 私、セシリアさんの事美人だと思っていますし!」

「そうね、セシリアは間違いなく美形よ。そこは自信を持っていいと思うわ」

「せしりあさまはうつくしい、よ?」

『せしりあさまはじゅうぶんきれい』


 女性陣総出で、しかもさっきまで会話にすら混ざっていなかった鏡人の方の名無しまで加わってセシリアを慰めていた。

あまりにいたたまれなかったらしい。

その甲斐もあってか「皆ありがとう」と、なんとか立ち直る。

若干涙目だった。


「シェルビーも、そう思うでしょう?」


 そして今度はシェルビーにまで飛び火する。

シャーリンドンの一言に「うわやっぱこっちにきた」と、内心スルーしたかったシェルビーだったが。

女性陣の視線が集まり「そりゃもちろん」と、彼女たちの意見には全肯定の姿勢を見せる。


「俺だってその……セシリアは十分美人だと思うさ。うん、案外ファンが多いんじゃねえの?」

「君がそんな事を言うなんて、なんだか不思議な感じだな……だが、そうか。君がそう言ってくれるなら、少しは自信が持てるかもしれない、な……」


 照れ照れとしながらも褒められて悪い気はせず、唇をきゅ、と結びながらも「もういいよ」と手をあげる。

落ち着けたのだ。

ネガティヴ思考に取り込まれる前に、脱出できた。


「では、目的は完了という事で……ここで終わりにしよう。一旦休憩して、帰還だ」


 次いで出たセシリアの指示に、仲間達は頷きながら自身の荷物を床に置き、その場に座っていった。




 

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