#102.脱落した天使たちのその後
「ふうっ、やっと準備が終わりましたー……もう、皆さんお話してばかりで、全然手伝ってもくれなくて……ポーターちゃん、どうしたんですか?」
テントを張り終え、簡易的な拠点が出来上がってようやく一息ついたシャーリンドンであったが。
煮炊きの準備をしていた名無しか、じーっと空を見つめているのを見て、不思議そうに声をかける。
「居る」
「ふぇっ?」
「空」
指さした先に、かすかに見える小さな点。
しかしそれは名無しから見てそう見えるだけで、シャーリンドンにはその点すら見えていなかった。
「え、えーっと、鳥か何かいるのかしら……? 私には見えませんわ……」
「全然見えてないの?」
「全然ですわ」
「はぁー……シャーリンドンほんとだめ。シェルビーっ」
これだからシャーリンドンは、と溜息をつきながら近くで今しがた獲ってきた陸クジラをばらしていたシェルビーを呼ぶ名無しであったが。
「うん? 何だよポーターちゃん。へ? 空? いや、何もいねえが?」
「シェルビーにも見えないのに私に見えるはずありませんわっ!!」
「むむむ……アルテっ、アルテっ!!」
シェルビーですらどれだけ注視しても全く見えないほどで。
「あの、すみません、私、子供の頃からあんまり眼が良くないので……」
「セシリア様っ」
とうとう最後の一人である。
期待に満ちた目でセシリアを見つめる名無し。
そしてセシリアは――
「ああっ、確かに何か居るな! 10体ほどだ! アレはなんなんだ?」
「セシリア様……良かった。流石セシリア様。ほら、やっぱりちゃんと居る!」
「まじかよ、俺でも見えないくらいの距離なんだよ、な?」
「姉様は昔からとても眼がよかったので……」
「未だに何にも見えませんわ……」
何なのかはっきりしないまでも見えてくれたセシリアに名無しはようやく我が意を得たかのような顔になったが、シェルビー含め三名ほどは未だに本当に居るのか解らないままだった。
一応はセシリアと名無しが揃って居るというのだから、と居る前提で話はするが。
「私にも見えません……が、確かにいるようですね。水晶ちゃんは見えています」
「ん、流石水晶。ケットシーは許せないけど水晶だけは赦す」
「それはどうも……」
たまたま近くにいたケットシーも一緒になって空を眺めていたが、水晶を見てそれを知ったらしく。
名無しの言葉に苦笑いを浮かべながら、水晶をじっと見る。
「それで、アレは何なん? ポーターちゃんは解かるんだよな?」
「天使」
「うん?」
「天使がいる」
「天使サマが? またなんだってこんな……」
「ポーターちゃんを連れ返しに来た……とかでしょうか?」
「だとしたら、一戦交えないといけなくなるかな?」
「できれば、戦いたくはありませんが……姉様がそう仰るなら」
仲間達からして、天使を送り込まれる理由として一番に思い当たるのは、やはり名無しであった。
運命の女神ベラが、名無しが居ないのに気づいて取り戻しに天使たちを送り込んできた、というのが最も想像しやすい理由である。
だが、名無しは頭をぷるぷると振る。
「多分違うと思う。ちょーとーまきにみてる」
「まあ……ポーターちゃんやセシリアじゃないと解らん位遠くにいるみたいだしなあ?」
「少なくともシェルビーが見られてても警戒できないくらいには遠くから、こちらを見てるって事ですか……なんだか怖いですわ」
「せめて理由位解れば対処しやすいが……とはいえ、ここには神の魔物たちも居る、か」
「天使様方が全員、ポーターちゃんのように神の魔物絶対許さないっていう考えなら、隙を見て攻め込んできても不思議ではありませんが……」
アルテの言に、全員が頷くが。
だが、「その隙とは何なのか」と考えると、誰にも解らなかった。
少なくとも今の時点では誰も警戒できていなかった。
神の魔物たちも騒がない辺り、本当に気付いていないか、気付いていても気にしていないのだろう事はセシリア達にも解っている。
何が目的なのかが全く分からないまま、天使たちはただはるか上空で見ているのだ。
「……私達が離れるのを待ってるんだろうか?」
「っていうと?」
「天使たちから見たら、私達はかつて、誘いに乗らずに名無しを連れ出そうとしたPTだ。神の魔物たちを倒したあの場に居た天使たちが一人でもいたなら、私達を警戒しないという事もないだろう」
「まあ、この場にあいつらの上司? みたいな子もいるしな?」
「……今は違うもん」
「まあまあ……つまり、姉様は、私達が去らない限り、神の魔物たちが襲われることはない、と思ってらっしゃるのですか?」
「その可能性はあるだろうな、と思った位だよ」
「でしたら、私達がここに居る間は安全ですのね。ほっとしましたわ♪」
本当にそうなるのかは解らない、という段階でほっとしてしまうシャーリンドンに、シェルビーは「あのなあ」とジト目で諭そうとしたが。
セシリアは「その通りだ!」と、突然何か思いついたかのように言い出したので、シェルビーの意識はそちらに向いた。
「その通りって、つまり……?」
「天使たちが諦めるまで、私たちがここに居続ければいいのだ」
「えぇ……王城には帰らなくてよろしいのですか? その、お城が大変な事になったと、皆さんから聞きましたが……」
「そうですわ姉様。あんまり時間をかけると、お城が……」
「諦めよう!」
「姉様!?」
「セシリアさん!?」
アルテとシャーリンドンの二人がそろって突っ込みに回るのも珍しいな、と、シェルビーは思ったが。
頬をぽりぽり掻きながら「あのなあ」をセシリアに向ける事にした。
「お前、自分が周りから愛され副団長様だったって気付かされて、帰るの怖くなったんだろう?」
シェルビーの指摘に、セシリアはぎくり、バツの悪そうな顔になる。
「姉様、まさか……」
「セシリアさん……?」
「あっ、その、そういう訳ではなく、だな? というか! 私にも心の準備がっ」
「セシリア様」
「名無しっ、お前は解ってくれるだろう?」
「おいたわしい……」
「うぐっ」
この件に関しては名無しにまで突き放される始末であった。
『相変わらず愉快な者共よ。だが、天使らがいるというのは奇妙なモノよな?』
そんな、ちょっとしたお喋りの中、神の魔物たちもケットシーの周りに集まってくる。
最初からケットシーの肩に止まっていたフレースベルグ。
「水晶ちゃんは、私達と戦うような未来は見せてきませんでした……」
「つまり、ワシらと戦うつもりはない、という事かのう? あるいは何かあってそうなると」
自分たちの拠点を設営しようと設計図を描いていた狼老。
「恐らくはそうだと思うけど……天使がいるというなら、気にしないといけないかな……」
「大丈夫じゃない? 何せこっちには大天……ポーターちゃんがいるしぃ。というか10体そこらの天使じゃ天使長混じってても私らには勝てないでしょうし」
そしてその辺でのんびりくつろいでいたローレンシアである。
「またそんな事言って……今のままの数である保証なんてないんだからね」
油断はしないでくださいね、と窘めるケットシーに、ローレンシアは「はーい♪」と酷く適当に返答しながら、一瞬だけ真面目な顔で空を見つめていた。
(うーん? 天使? 天使かー……天使周りっていうと、大天使ちゃんに殺されかけたの以外だと戦場でしか会ってないんだけどなあ……?)
「向こうも気づいているようですが、いかがなさいますか?」
「信じがたい事ですが、大天使様がたは神の魔物たちと共に在る様子……我々と同じなのでしょうか?」
「どうかご判断を」
「天使長様」
遥か空の上にて。
セシリア一行と神の魔物たちをじっと観察していた天使らは、ここに訪れた『目的』を果たすべきか、その裁可を上司に問うていた。
けれど、当の本人は「私はもう天使長ではない」と、再度、責任を否定する。
「ここには来たが。全ては各々責任だと決めたはずだ。我らはもう、神々の思惑のまま生きるつもりはないのだから」
「それはそうですが……」
「生まれてこの方、そのような状況は一度も無かったので……」
「誰かに命令されねば、何かをしてはいけないものと、ずっと思ってしまって……」
命令待ちの姿勢。
誰か上位者に指示されなくては何もできない生き物。
天使とはそういう存在だった。
元々は神々の世話をし、神界を守る為創り出された存在である。
その存在が……生まれて初めて、自分の意思で命令から遠く離れた場所に着てしまった。
それそのものがイレギュラーすぎて、何も解らないのだ。
元天使長は深い深い溜息をついた。
「既に我らの間に上下はない。だが……それでも私に決断を求めるというなら、私は私の考えに従って動く。どんな結末になっても文句を言わないように」
「は、はいっ」
「それでもよいのですっ」
「ありがとうございますっ」
困り果てた様子の元部下達に、仕方なしに言ってみせた言葉ではあったが。
ただそれだけで、途方に暮れていた彼女たちが嬉しそうにぱあ、と華やいだのを見て、元天使長は「これでよかったのか」と、その判断の正しさにわずかばかり安堵する。
彼女もまた、不安だったのだ。
命令から逸脱したのも、役割をかなぐり捨てたのも、同じだったから。
そう、彼女たちは全員等しく、神々の手元から離れていた。
独断で。いや、そうではない……捨て去ったのだ。
自分たちを捨てた神々の世界を。
「あの者ともう一度会わなくてはならないのだ」
眼下にある中で、天使らが最も気にしていたのは、大天使ではなく、実のところ、ローレンシアであった。
元々彼女たちがここに来たのも、それが目的だったと言えた。
「私達はもう、運命の女神さまから見捨てられたのだ。ならば……これからは地上での生きなくてはならぬ」
「はい……」
「私もそう思いますわ……」
「あなたのおっしゃる通りです……皆、ローレンシアに焼き焦がされた者ばかり……」
この場にいる全員が、かつて戦場でローレンシアを見た事のある者ばかりであった。
狂った戦場の中、一人異常な行動をした神の魔物。
ただそれだけの存在に、ここに居る全員が。
「――往こう。あの、あいつに。自分のやらかした事を自覚させるのだっ」
「参りましょうっ」
「ああ、やはりそうなりますわね。ええ、よいですともっ」
「貴方の決定に従いますわ……」
天使長は羽ばたくのを止め、高度を落としてゆく。
他の天使らも合わせ、従った。
雲間に見えていた程度から、瞬く間に視界一杯に広がる大地。
そしてそこに……求めていた人物は居た。
「来るっ」
「えっ、えっ!? もうすぐご飯ですわよっ!?」
「流石にそれどころじゃねーな」
「一応構えろ、万一に備えるんだ」
「いざとなったら私が魔法でっ」
名無しが察知すると同時に、食事の時間にしようとしていた雰囲気が警戒一色へと変異し、セシリアらは最悪の事態に備える。
「まだ、任務は終わってないんだ! ローレンシアの安全が確保できるまでは、彼女を守るぞっ」
「うぇっ、送り届けるまでがお仕事じゃなかったのかよ!? あっ、お前今思いついただろそれっ」
「ふーふすふすふーっ♪」
「口笛下手すぎだろっ」
「ああぁ……折角炊き立てが美味しい煮物ですのにぃ~」
「シャーリィさん、お鍋は一旦避難させましょう……」
万一の戦場になった時も考え、火を消し鍋を逃がす。
その間にセシリアとシェルビーは武器を手に構えた。
名無しはというと……ただ棒立ちしているだけである。
「えーっと、ポーターちゃん? 何もしねえの? その、戦闘準備とか」
「天使には、聖典奇跡が通じない、ボクはちょー無力」
「なるほどー」
「アイテムでの支援はするから、がんばって」
「ははは、任せておけ!」
「かーっ、しょーがねえなあ。おいシャーリンドン、戦う準備しろってよ!」
「ふぇっ? あっ、はい、解りましたわっ」
鍋を手にあたふたしていたシャーリンドンをいつまでもそうさせておく訳にもいかないので、シェルビーは急かすように言ったが。
正直な話、腑に落ちていなかった。
(さっきのポーターちゃんの話通りなら、あいつらがわざわざ俺達に仕掛けてくるなんて思えねえ。といって、神の魔物相手にするには戦力不足って話だし……どういうこった?)
本当に戦闘になるのか、ならないとして何が目的なのか。
すぐに声をかけてこなかったのは何故か。
それすら解らないままに……何の情報もつかめないままに、天使らはもう、眼に見える場所にまで来ていたのだ。
手には光の剣。
彼女たちは……セシリアたちには眼もくれず、ローレンシアを囲み込むようにして降り立った。
その数、12名ほど。
「あらあら、どこの誰かと思えば、いつか見た……天使長ちゃんじゃない♥」
「ローレンシア! 我らはお前に話があってきたのだ!!」
「えー? 私は天使ちゃん達に用事なんてないんだけどなあ?」
「黙れ! お前にはなくとも、我々にはある!!」
光の剣をローレンシアに向けながら。
激高した天使長に合わせるように、他の天使らも倣った。
「流石にいい気分がしないわねえ? 返答間違えたら首が飛ぶって感じ?」
「そう思ってもらって結構だ」
「それは流石に迷惑だな。我々の仕事が達成できない」
そして、それでは困るのがセシリア達だった。
包囲を無理矢理に割り込むようにしてセシリアが天使らとローレンシアの間に立つ。
そして、天使らを逆包囲するように、仲間達が、そして他の神の魔物たちが天使らの周りに立っていた。
だが……こちらは戦おうといった意思を感じられない。
「……大天使様」
「ボクはもう大天使じゃない。ただのポーターやってる子供」
そして、その中の一人、名無しに視線を向ける天使らも多かった。
「貴方ですら、そうだというのですね……?」
「どういう事なのか解らない。でも、こいつを殺されるとセシリア様が困る」
「まあ、そういう事だ天使諸君。申し訳ないが、彼女を討つというならまず私達が戦――」
「――そういうつもりもないんでしょ? ていうか、殺すつもりならとっくに攻撃されて死んでるわよ、私ならね」
弱体化しちゃってるしー、と、手をひらひらさせながら。
緊迫化しそうな雰囲気とは裏腹に、実に軽い感じでローレンシアが割り入ってくる。
元天使長も、それについてどうこう言うつもりはないようだった。
「言いたいことがあるなら早く言ってよね?」
「なら言わせてもらおう。我らは……神界に……運命の女神様に、見捨てられたのだ」
「えぇっ!?」
「運命の女神様に……それはまた、何故……?」
思わず驚きの声をあげるシャーリンドンに、アルテ。
セシリアとシェルビーは離れていたが互いに顔を見合わせていたし、名無しは……眼を見開いてすぐ、俯いてしまった。
「神々の世界に、我らは不要と思われたのかもしれない。穢れを受けてしまったから。あるいは……命にそぐわぬ行動をとってしまったから、か」
「そんな事で……」
「命令に生きる生き物が命令から逸脱した。それは当たり前の事、だけど……」
「ポーターちゃんだって、『だから気にするな』とは言わねえだろ?」
「う……今のボクは、そんな事言わない。言えないよ……」
事情があった。
けれど、それはどうにもできない事だった。
天使が天使でいられなくなったらどうなるのか。
それが目の前で起きていたのだ。
涙を流している天使も居た。
屈辱に歯を噛み、悔しそうに耐えている天使も居た。
元天使長は、そんな周りを見渡した後、剣を下ろしたのだ。
周りの天使らも、それに倣った。
「――元々、運命の女神様は我らに対し、あまり多くを期待されていなかったようであった。古い時代の天使だ。今の神界は、我らより後のロットで製造された天使らが守護についているのだろう……だから、神界はもう、いいのだ」
「ふーん……それで、私に聞きたいことって?」
「……我々が何故見放されることになったのか。その原因を考えればそれほどに、この『心』を持ってしまった、その元凶を思い浮かべ……お前しか考え付かなかったのだ」
「あらあら、それは酷い他責思考だわ♥」
「誤魔化すな! お前が何か、我らの思考を乱すノイズを植え付けたに違いない! そうとしか思えないから、我らはお前に……お前にっ」
「復讐でもしに来たの? その割には半端な感じよね? 奇襲でも闇討ちでも、その気になれば色々できたでしょうに」
だが、天使らはそれをしなかった。
遠巻きに眺めていただけだった。
見つけてすぐに憎い仇に襲い掛かる、といった衝動があってもおかしくなかったというのに。
試すように天使長を、そして他の天使らをちらちらと見ていくと、そのうちの何人かは驚いたような顔をして、視線をそらしてしまったり、顔をそらしてしまったりしていた。
赤面している者もいた。
すぐに「はぁーん?」と、思い当たりに気付く。
「そっかー♥ 貴方達、私の魅力に当てられちゃったのね♥」
「なっ」
「そっかそっか♥ 天使ちゃん皆に愛されちゃうなんて、私も罪なお・ん・な♪」
「からかうなっ、我らは真面目に――」
「だから、私も真面目に言ってるのよ?」
からかうような口調で煽っておいて、とケットシーらは呆れたが。
そういう風に見えて実際真面目に話しているのがローレンシアという女だった。
「――気付いちゃったんでしょ? 虚しい生き方をしている自分たちに。だから、思うままに生きてる私を見て『何て魅力的な生き方なんだ』って、心がショックを受けちゃったのよ」
「……なんだと?」
「自覚なかったの? 貴方達にも、最初から心そのものは備わってたのよ。全く使われていないけれど、心自体はあったの。ただ、余りにも虚無な日々ばかり送ってたから、何一つ心に響かなくて、その所為で何も感じなかっただけなのよ、きっとね」
自身の豊かな胸をわしづかみにしながら、ウィンクしながらに聞かされたそれは、元天使長も「むぐ」と唸らざるを得ないような反論であった。
彼女たちは、自分にそんな、生物並みの心が備わっていた事すら知らなかったのだ。
「気付かせちゃった私が悪いのは解るわよ? でも、元々あったのをちゃんと使わせてくれなかったのは、明らかに運命の女神様たちのミスじゃない? 私、何も悪くないわよね?」
「……神々を愚弄する事は許せんっ」
「えー? この期に及んで神々の犬のつもりなのー? ねえ、貴方達、そんな恨み事を私に聞かせたくてここに来たんじゃないんでしょう?」
「それ、は……っ」
「はっきり言っちゃいなさいよ。『住んでる所追われて困ってるから助けてください』って。『できれば貴方と一緒に暮らしたいんです』って」
「なっ……」
こういう場面ではコミュニケーション能力の差がモノを言うというもので。
元天使長は、あっさりとローレンシアに言い負かされ、まるで子供のように口をパクパクさせてどう答えればいいか解らなくなってしまっていた。
「まるで正論言われた時のシャーリンドンみたい」
「ああ、俺も思った」
「ポーターちゃん!? シェルビーもっ!?」
「あんまりシャーリィさんをからかわないであげてくださいまし……お二人とも、助けられた側なのですから」
「う……それはそう」
「それを言われると弱いぜ」
アルテから窘められ、素直にゴメンナサイする二人のおかげで傷は残らなかったが。
天使らはそう簡単にいくものでもないようだった。
「そんな、ことはっ、別にっ」
「我らはそんなつもりできたのではっ」
「私たちは、貴方の所為でとんでもないことになったから、ただっ」
「そう、責任の追及に来ただけでっ」
口々にローレンシアに向けられる非難は、しかし困惑から来たものであることは明け透けで。
ローレンシアもそんな天使らの声に「あーはいはい」と、またも手をひらひら、雑に扱ってしまう。
もう、「その程度の子達」くらいにしか思われていなかったのだ。
それがシェルビーやアルテには見えていて「なんか可哀想だなこいつら」と憐憫の情まで沸いてしまう。
「じゃあアレよ? 丁度いいから、あんた達も手伝ってよ。これからここ、私達の拠点にするから。神の魔物残党+セシリア御一行様+天使ちゃん達で一緒に住む場所造りましょ? ね?」
「おいなんか俺達も手伝う事にされてないか?」
「まあ、私はそれでも一向にかまわないが!」
「セシリア様……」
「姉様、本当にご自身の都合を優先されるおつもりですのね……」
「うぅ、修行に入る時に覚悟はしましたけれど、しばらく婆やとは会えそうにないですわね……」
突然のローレンシアの提案だが、セシリアはウキウキであった。
PTリーダーの決めた事、他のモノたちも従う事にはしたが。
天使らは……困ったように顔を見合わせていた。
そして彼女たちは彼女たちで、元天使長を見た。
「で、ですからーっ、私はもうっ、天使長ではっ……」
「あんたがリーダーでしょ? ほら、決めなさいよ。『イエス』? それとも『解りました』? 『オッケー』でも『ヨシ』でもいいわよ?」
「選択肢がないではないですかっ! そんな無茶苦茶な――」
「どれでもいいんでしょ?」
「……はい」
最早道などどこにもなく。
住む場所も暮らす道筋も何もなかった。
素直になれなかったのは、敵対者だった関係から。
そしてそれすら、大天使や人間たちが一緒に居るのを見てしまったのだ。
仲良く語り合っているのを見てしまったのだ。
ならば……自分たちがそこに混じっても、いいのではないかと思ってしまっていた。
ここは人間世界。
神々の世界とは違うルールが存在する、全く別の世界になったのだから。
小声ではあるが工程を示す言葉が聞けてローレンシアは満足げに「うんうん♪」と頷き、元天使長の肩をポンポンと叩く。
「それじゃ、拠点設営手伝ってね。期待してるわよ、『リーダー』さん?」
「なっ、ちょっ、私もうっ、そういう役目では――」
「ここではそういう役目になったのよ。頑張りなさいねリーダー?」
『任せたぞリーダー』
「あはは……頑張ってくださいねリーダーさん」
「ふぉふぉふぉ、丸く収まったのう。よろしく頼むぞリーダーよ」
「ま、そういう流れになるならそれはそれで悪くない。ここは住民大歓迎よ。よろしくねリーダーさん」
神の魔物たちからも早速受け入れられ、セシリアらも「まあこういう流れになるなら」と、呆れてはいたが上手く収まってよかったと、ほっとしたものである。
「――それでは、とりあえずは天使様方もご一緒に、私の煮物を食べていただきたいですわっ」
そしてタイミングを見て、シャーリンドンが手に持った鍋を胸元まで持ち上げて見せ。
天使らも、神の魔物らも、人間も交えての大宴会となった。




