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これは“世界”を救う物語。  作者: 高平めめこ
ヒトトセヤクロトイフモノ
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0-2-22 優等生との出会い

 目を覚ます。

 いつもの様に口の中に『洗浄』をかけて口内を綺麗にする。慣れた魔術は発動も早くなるし、精度も上がる。慣れ故のヒューマンエラーが起こらないのは魔術の利点かもしれない。


 マメネコ状態になった猫を頭に乗せる。こいつは早起きなのか寝坊助なのかよく分からん。俺は決まって五時に目を覚ますが、こいつはそれより早かったり遅かったりとバラバラだ。


 さて、今日は新入生代表の挨拶を懸けた一戦が始まる。


 別に意気込む必要はないが、内情を知ってる魔術協会の支部長からは昨日激励の言葉を貰った。クローディアさんも寝る前に『念話』でわざわざ明日は頑張れと言って来たから、それなりに頑張ろうと思う。

 張り切り過ぎるのは良くない。変に力んで相手を殺しては依頼が遂行の前に犯罪者ルートまっしぐらだ。その辺は気を付けようと思うし、頑張るのはその辺だろう。


 公爵家の末妹。優雅な暮らしを送ってきて、沢山可愛がられて育ったに違いない。きっと英才教育で、これは彼女が辿る道なんだろう。

 隔絶した成績というのも、きっとその辺から来てるのかもしれない。勿論本人の努力が無ければ成り立たない話だから油断はしないが、生憎俺には負けられない理由が……無いな。

 先生に余裕で勝てますみたいな宣言したけど、よく考えたら勝つ意味なくないか? 勝てたら新入生トップの称号は得られるだろうが、依頼にアドバンテージを与えるかと言われたら微妙だ。


 あれ、これ、勝たなくてもいいんじゃない?


 手加減だってしてるかどうかは魔力隠しちゃえばバレない訳で。あ、でも先生にあんな言い方して負けたら恥ずかしいからやっぱり勝ちに行こう。

 悪いなアリス・ウェブスター、俺は殺さない範囲で本気で勝ちに行かねばならない理由が出来てしまった。


「にゃ、おはやー」

「おはよう。今日は良く寝てたな」

「にゃはは、朝日で起きたよー」


 おっと、そういえばこいつ色々と敏感なんだよな。視線とか霊感とか。もう少し寝かせておけばよかったか?


「にゃー、気にしなくていいよ。……うん、おはようクロ」

「もう少ししたら時間だから、何かしたいことあれば――マメネコ状態なら特に必要ないか」


 頭の上でぴょんぴょん跳ねる猫を魔力で形成した大きな手で掬い上げる。そのままお手玉の様に猫を投げて遊ぶ。時間まで暇を潰すのに良いかもしれない。

 マメネコは隠密性に長けた存在であり、手足は非常に短い。その為その場から動く事は難しいが、『隠匿』を使えて、他にも一種類基本的な魔術を放てるそうだ。

 この猫が憑依しているマメネコは例外で、本来の百分の一しか魔術などを扱えないそうだが。それでも編入試験の人形を砕く位なら余裕とのこと。頼もしい相方だよ。


「にゃ、そろそろ行くの?」

「そうだな。少し早いが、遅れるよりは良いだろう。向かおうか」


 転移魔術を発動し、昨日と同じ用務員小屋の裏に転移する。誰もおらず、この時間ならアリス・ウェブスターにも会わないだろうと代表争いの場であるグラウンドに向かう。

 なんという事でしょう。対戦相手が空を眺めながら待っていた。俺が言うのもなんだが、早過ぎやしないかね。あとなんで薄着なんだ。日本で言えば三月頃の陽気とはいえ風邪ひくぞ。


「おはようございます。アリス・ウェブスターさんですよね? 寒くないんですか」

「おはようございます。そうですね、私がアリス・ウェブスターです。そういう貴方はヤクロ・ヒトトセさん?」

「はい、ヤクロです。呼び方はご自由に」

「私もアリスで良いですよ。堅苦しいのは苦手なので」


 思ったより高飛車な感じではないな。

 なんだかほんわかした人だ。負けん気が強い様には見えないが、戦闘時に性格が変わるタイプだろうか。


「あと、ヤクロさんは敬語苦手でしょう? 良いですよ口調も、もっと砕けて」

「あー、やっぱり公爵家ともなると見抜けるか」

「ふふ、えぇ。なんだかギクシャクしてますよ」

「そういうあんたは敬語が得意なのか? 負けん気が強いって聞いたからもっとやんちゃなのをイメージしてたんだがな」

「公爵家の人間が平民に負けては面子が保たない、そう考えている方が多いんですよ。私だって、別に戦いが好きな訳じゃありません」


 成る程、面子ね。

 確かに俺は平民になるな。編入試験の成績とアリスの成績は分からないが、公爵家が平民に負けたらってのは相当プレッシャーがあるんだろうな。

 そんなプレッシャーの中こうして平然と空を眺められるんだから、貴族ってのは分からない世界を生きてるんだと実感するよ。


 お互いあまり話すのは得意じゃない、と俺は思ってる。会話が切れたらアリスは空見てるし、俺は猫を両手で持ってカイロ代わりにしてた。

 オーガの巣窟で渡したコートの代わりに金貨一枚分の黒コート、防御性能に優れたデビルスパイダーなる魔物の糸で編まれたコートを買っており、今はそれを着ている。

 魔術協会の給料は美味しいです。


「おはよう、二人ともそろってるね」

「「おはようございます、アーサー先生」」


 奇しくも挨拶が被った。なんだかソレがおかしくて笑ってしまった。アリスも手で口元を抑えてるから笑ってるんだろうな。


「なんだか模擬戦の空気じゃないけど、二人とも位置について。そこからはルール無し、正確には相手に大怪我させないってルールで、自由に動いていいからね」


 アーサー先生は大怪我させないと言った時にこっちをガン見してた。やめてくれよ、大怪我させそうになっちゃうだろう。


 グラウンドにはハンドボール投げの時みたいな円が二つあり、そこがスタート位置らしい。アリスに近い方に向かう様に誘導し、二人とも位置につく。

 アーサー先生は二人が位置に着いたのを確認し、片手を上げる。


 その手からは薄い魔力の膜が広がり、魔眼で見た限りでは外に魔術が飛んで行かない様にする類の魔術としか分からなかった。こういうのもあるのか。それなら、学びも結構あるかもしれないな。


「それでは代表決定模擬戦、初め!」

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