0-2-20 数奇な縁と戦いの兆し
無事合格。これから学園生活が始まるよ夜黒くん。学べる事はどんどん取り込んで、自分を強くしていこうね。
……いやぁ、面倒なだけだ。
何故異世界に来てまで勉学に励まなければいけないのか。
レンジに限りがあるとは言え破壊力に溢れた俺なら学園で得られる物なんてないんじゃないか? 筆記試験の五問も基礎的な内容でしかなかったし。
手厚く育てたい気持ちも分からないでもないが、あの問題レベルなら俺は得られる物は何もないだろう。良くて遠距離不適正の改善といった所だろうか。
だが引き受けた以上は、遂行せねばなるまい。
兎に角今は、もう一度体験する学生生活を楽しもうじゃないか。そのくらいの気持ちで行かねばやってられない。
それに人が一人犠牲になった学校だ。どうやら事故死で通されているらしいが、気付く奴はきっと気付く。早期に解決して退学するのもありかもしれないな。
「にゃはは、クロー、遅刻しちゃうよ?」
「おっと、ありがとな」
こいつとも大分打ち解けて来たと思う。口にしたら調子に乗るだろうから言わないが。こいつは良き友人……飼い猫か? 飼い猫って評価なら抜け毛もないし、食事は不要だからトイレもなく、餌の催促もない猫とか最高かもしれない。
さて、それじゃあ行きますかね。
編入試験前にマーキングしといてよかったな。現地の魔術協会の部屋を一室借りてるが、部屋から直に行けるのはなんとも楽な話だ。
転移先はおそらく用務員さんの為の小さな建物の裏側。魔術学園は四方が壁で囲まれており、此処はその壁と小屋の間に位置する。
魔力の残滓を見てもしばらく此処が使われていない事は把握できたし、猫曰く此処は陰の気配がするから人はそうそう来ないとのこと。
さて、どうにか学園に来れた訳だが、合格通知の中に幾つかの書類があってその一つに職員室に顔を出せとあった。
魔力が込められてる訳ではないが、あんな試験だと裏がありそうだと思ってしまう。猫に至っては呑気に頭で寝てやがる。こいつ無能なのでは?
「にゃー、もうすぐ一杯くるよ」
「魔力の探知も遠距離不適正に当てはまるのが辛いところだな」
「にゃはは、僕に任せ給え!」
「そうさせてもらうよ」
どうやら学生寮から生徒が出てくるのはこの時間帯らしい。遠くに見える時計塔では現在7時丁度。日本と似てるような気もするな。
とりあえず俺は素直に指示に従おう。職員室は別館の一階にある。ここからなら十分と掛からずにつけるだろう。
なるべく魔力量は知られたくないから常に『秘匿』を自身にかける。姿を隠す場合は『隠匿』だ。この若干の違いが魔術の面倒な部分でもあるが、俺としてはゲームみたいで楽しいから大目に見ている。
そんなわけで職員室前に辿り着いたが、なんじゃこの扉のデカさは。
「三メートルはありそうだなぁ」
「にゃー、流石の僕でもこんな大きな人は見たことないなぁ」
「職員にそんなのがいるのかね」
「にゃはは、入ってからのお楽しみだね!」
扉をノックし、入る。
「本日より編入させて頂くヤクロ・ヒトトセです。資料にあった通り職員室に来たのですが、どうすればいいのでしょうか」
そう、職員室に来いとしかなかったのだ。
此処から先はどうするのか全く分からないし、クローディアさんに聞いても分からないとの事だった。魔術協会の長が知らないなら誰も知らんだろうよ。
「やぁやぁ! ヤクロくん! 今日から君の担任になるアーサー・レベリアだよ。よろしくね」
「レベリア? もしかしてアン・レベリアさんのご兄妹ですか?」
「おや、アンを知ってるのかい? アンは僕の妹でね。20で最高ランクの冒険者になった、自慢の妹だよ」
「最高ランク!? それはすごいですね」
「ま、立ち話もなんだし奥においでよ。君には伝えたい事があるんだ」
ささどうぞ、と奥に導かれる。
失念していたが職員も容疑者じゃないか。猫の反応からするとアーサー先生は敵ではないようだ。それとも此処では言えないだけか。
『にゃはは、職員に複数持ちはいないね〜。これで全員?』
『念話は魔力の流れから分かるんだろ? あまりリスクは犯したくないんだが』
『にゃふ、大丈夫だよ。クロとかとなら誰も気付かない』
『念話』を読み取るにはそこそこコツがいるらしい。クローディアさんと俺の念話を感じ取れたこいつがおかしいだけで普通なら傍受は出来ないそうだ。傍受と言っても、念話してるな、くらいしか分からないそうだが。
アーサー先生に導かれ職員室の一番奥、接客用のソファに座る様に促される。アーサー先生は手で紅茶を入れていた。
クローディアさんは魔術で紅茶を入れてたけど、魔術学園の教諭でも手で入れるのか。いや、あれはきっと自分で入れるのが面倒だから鍛えたとかそういう感じだな。
「実はヤクロくんには新入生代表を務めてほしくてね。それで一つ問題があるんだよ」
「元代表がゴネましたか?」
「あはは、一言で纏めるならそうなるね。君の実力を疑っているんだ」
「それなら俺が辞退すれば解決……は、しないですね。こうやって話すって事は自分より上がいると分かれば挑みたくなるとかでしょうか」
「そうなんだよ。向上心があってね」
「しかし新入生代表の挨拶がこの時期――入学から一月経った今というのは遅いのでは?」
「一月は学園に慣れてもらう為の期間でね。遠方から来てる子なんかには必要だろうとかつてのクローディア様がお決めになったのさ」
なんとも奇抜な授業方針だ。
俺があと一月早く依頼を受けてたら新入生代表ともこんな事にならなかったのか? いやでも試験てもっと前からやってるだろうから、これは避けられなかったんだろうな。
仕方ない。
適当に相手をしますかね。
それでどのくらい相手が納得するかは分からないが遠距離不適正の全力で相手をしよう。これでも近接魔術戦闘には結構自信がある。
この世界最強の魔術師に鍛えられて貰って、自信が無いのも如何なものかと思うが、相手があの時のオーガみたいに超遠距離から精密な射撃を可能な腕前でもなければ、敗色は薄い。多分。
「引き受けます。して、相手は?」
「公爵家の末妹でね……。負けず嫌いな子だよ。名前はアリス・ウェブスター、中等部で隔絶した成績を収めた秀才」
「負けた方がいいんですかね」
「魔術学園に貴族の権力は届かないから安心してやってほしい」
アーサー先生がそこで深刻そうな顔をする。
「……ほしいんだが、君の魔術は強すぎる」
「自覚はあります」
「下手をしたらアリスくんが再起不能に――」
「手加減は得意です。それに戦意の喪失もさせて見せましょう。殺しはしない。それでいいですね?」
「……頼むよ」
アーサー先生は編入試験で見せた天雷を危惧していたらしい。分からんでもない事だ。術式無視して破壊できる魔術なんてこの世界で放てるのは一握りだってクローディアさんが言ってた。
そう考えると本当に俺は特異分子というか。あの神の失敗は俺の全てを読み取れなかった事だろうな。こんな化け物が出来ちまうんだから神の祝福は恐ろしい。
啖呵を切ったのはいいが、少し不安もあるのは内緒だ。
「あぁ、あと使い魔も参加させても?」
「ヤクロくんは使い魔がいるのかい?」
「ええ、今も頭の上に」
「おお! マメネコ! 幸運の象徴ともされてる子を使い魔にしてるのか。勿論使って構わないよ」
そういうとアーサー先生は立ち上がった。
「それじゃあ校内を案内しよう。新入生代表の挨拶は明後日だから、といってもスピーチ原稿はこっちで用意してあるけどね」
毎年同じにならない様にするのが大変なんだー、とアーサー先生は笑う。どうやらこの職場も良い雰囲気で過ごしてるのだろう。
だが、生徒一人が犠牲になった、という事実は残ってるらしい。あまり歓迎ムードじゃないしな。
『にゃー、魂二つ持ってる人見つけたらしいよ』
『早速だな』
『にゃはは、クロは早く解決させたいんでしょ? お手伝いするって決めたら僕は凄いよー』
アーサー先生が此処は魔術実験室、魔術応用室など丁寧に説明する裏で猫からの情報も整理する。
どうやら犯行現場の教室に属する学生が魂を二つ持っているそうだ。猫にも情報は見せてるので間違いはない。
そうしてやって来たのは犯行現場の教室。本来なら第二学年からのスタートする年齢だが、その辺はクローディアさんが上手く処理してくれた。
「ヤクロくん、此処が君のクラス。諸事情で一人減ってしまってね。とても、残念だよ。……あ、勿論君の事は歓迎してる! 暗い話で悪かったね」
『にゃー、あいつ! あの窓の隅っこにいる暗そうな奴!』
「先生が気にする事ではないかと。これからよろしくお願いします」
『扉が閉まってて見えんよ』
『にゃはは、はやとちりぃ〜』
「席は固定でね。廊下側の一番後ろ、と、見せないと分からないね」
アーサー先生が扉を開けて窓側の隅っこにいる暗そうな奴を確認して、自分の席を確認する。
なるほど、確かに暗そうというか、真っ暗だな。魔力が闇みたいになってるが、オーガの巣窟で出会った子とは違う、暗い感情の魔力の色だ。
さて、いつそいつをお縄にするか。魂関連を外部に漏らさず成し遂げるのは少し難しいね。
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