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これは“世界”を救う物語。  作者: 高平めめこ
初代クローディアの偉業
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0-4-6 ダンジョン作成

 “ⅱ”によるハイエルフの育成が始まってから一月が経過した。

 体術面に関してはやはり伸びが止まり、時折乱入してくる魔物を拳で砕く程度に落ち着いた。“ⅱ”としてはかなり犠牲にしたつもりだったが、そんなに強くなるとは思っておらず、今回のハイエルフは特別だと実感し、もう少し魔術面に割いても良かったと思う程である。

 そしてその魔術面は“ⅱ”の想定を越える速度で成長していた。出来ない事を思い知らせ様として提案した新たな魔術創りは僅か一週間で見事な時空系統の魔術を完成させ、また“ⅱ”の知らない間に体外魔力コントロールを身につけており、既にハイエルフは高次元の領域にその足を踏み込んでいた。


 体外魔力コントロール。

 それは世界が有する魔力を操れるということ。

 体外魔力は体内魔力よりも遥かに強い力を有しており、適応範囲を伸ばしていけば遠距離の相手の体内魔力を外に漏らさない様に蓋をする事も出来る。

 適応範囲は自身の周囲十メートルとまだ小さいが、その範囲内で『退魔の領域』と併せて使われた場合、今の“ⅱ”ではその範囲内において魔術は扱えない。それほど体外魔力とは()()ものである。


「いつの間に身に付けた?」

「……少し、頑張りました」

「そうか」


 素直に驚いた“ⅱ”は若干癖になりつつある手付きでハイエルフの頭を撫でる。表情が変わらない所を見るに今後は控えようと思った“ⅱ”は早々にその手を引っ込め、次の課題を出す。


「知識として、ダンジョンは知っているな?」

「……はい」

「……? それを創りなさい。期間は指定しないから、自由に。出来上がったら私に見せなさい。そうだな……少し場所を変えようか」


 やや不服そうなハイエルフを見て自分が何かしたかと考えた“ⅱ”だが、何も分からないという理由で切り上げ、エルフの集落だった場所から移動を開始する。

 エルフの集落は東大陸のほぼ真ん中に位置しており、小さな国々の緩衝地帯として機能していた。故に森も荒らされる事なく平穏な生活を送れていたのだが、諸国の騒乱が収まるまでは此処にエルフは移住出来ないと思われる。


「今から移動するのはアテナと呼ばれる小国その近く。私はその国を起点に魔術を広めようと思う。その足掛かりとして、やがて郊外に位置するであろう地点にダンジョンを設ける。それがお前の仕事だ」

「……はい」


 藁や魔導書を虚空にしまってから“ⅱ”とハイエルフが『飛翔』し、目的となる森の中に着地する。


「作り方は至って簡単だ。魔力溜まりを作成して依代となる建造物なりなんなりを作れば勝手に作成される」

「わかりました」


 魔力溜まり。

 それは本来自然に存在する魔力同士が集積する事で形成される魔力濃度の極めて高い空間の事を指す。現在の“ⅱ”であれば作成に数秒を要するが、ハイエルフは魔力溜まりの知識しかない為魔力溜まりを形成する方法を模索しなくてはならない。

 体外魔力コントロールが可能、新しい魔術についても面白い発想を見せた事で“ⅱ”は期待していた。恐らくこれも一週間で出来上がってしまうのだろうと考え、結界を張って“ⅱ”は空に浮かぶ。ハイエルフは魔力を溜める方法を探しているからソレに気づかない。


「さて、私の知識ではアテナくらいしか国の名前を知らないが、何処と何処が戦争状態なのかな? アテナは様子を見るに戦争状態ではないらしい。どの国も覇権を握りたいモノなのかね」


 “ⅱ”の眼はただの眼ではない。

 それは幾つもの魔眼と呼ばれるモノから構成されている。

 “ⅱ”の有する碧眼の瞳は封印状態にあっても万里、過去、未来、魔力、本質、記録、生死など他にも様々なモノを見る事が出来る。唯一見る事の出来ないモノは自身の未来のみ。その眼がある為に“ⅱ”は数々の難局を乗り越えてきた。


 その“ⅱ”の魔眼が捉えた限りでは、西大陸は全面戦争一歩手前の緊張感であり、東大陸は国土を広げたい多くの小国が戦争を行なっている様子である。西と東の大陸はかなり離れており、お互いが不干渉の姿勢という状態と読み取った。


「百年後にはアテナしか残らないが、まあ戦争を楽しんで貰おう。様々な景色を見せるのも良い勉強になる」


 降りるついでに結界の外を歩く獣型の魔物を殺して“ⅱ”は食糧を確保する。ついでに食べられる木の実や葉なども確保して暫く保つ様に魔術に落とし込んだ『不蝕』を掛ける。本来の性能であれば無限永久に蝕まれる事のない保存技だが、魔術という事で一月が限度である。

 この魔術も魔導書に記載されており、“ⅱ”は肉の書か骨の書に記すかで悩み、封印と合わせたら相互作用もある事で骨の書に記載されている。


 “ⅱ”はするべき事はしたとハイエルフに目を向けると、ハイエルフは魔力をその場に留める方法ではなく、土を押し固めて煉瓦の様なモノを作成していた。


「……何をしている?」

「折角残る物を作るのなら、見た目は良くしたいと思いました」

「そうか」


 一つ一つ作るのではなく魔力を展開して形成、体外魔力を操って土の精製、異物の除去。ダンジョンを創れと言ったがまさか本格的なモノを創ろうとしている事に“ⅱ”は思わず笑う。

 珍しく笑ったものだからハイエルフは反応して“ⅱ”の事を疑問の目で見つめる。


「先生?」

「ふふっ、いや、なんでもない」

「……そうですか」


 丁寧に地面までくり抜かれており、そこを煉瓦もどきで舗装していく。魔力による変質で本物の煉瓦となり、恐らく階段状のダンジョンが出来上がると思った“ⅱ”は出来上がったダンジョンの外面を見て設計の面でも少しは才能があるのだと認識する。

 後は魔力溜まりを作るだけで、この作業は終わりを迎える。ハイエルフの魔力量からして本当に一週間程度で終わってしまうと感じた“ⅱ”はこの後の事を考える。


「予定を早めて諸国漫遊でも良さそうだな」


 ハイエルフの組み上げた建築物に触れながら一つ一つが丁寧に作られた事を確認していく。

 変に手を抜かないあたり完璧主義な所でもあるのかと勘繰りながら生まれたてにしてはやけに凝ったデザインだと改めて認識する。


「……?」

「気にするな。それより魔力溜まりの作り方は分かったのか?」

「はい」

「そうか」


 “ⅱ”は頭を撫でようとしたが、先程の対応を思い出してその手を伸ばさなかった。知識と才能を与えたが、愛情は欲しい年頃の筈なんだがと“ⅱ”は思いながら土のテーブルと椅子を作って雨風を凌げる塒を作成する。

 対象を指定して結界を組み立てれば簡単な事だが、“ⅱ”は寝る場所くらいはしっかりした物が欲しいと思う存在であり、この世界では今の所藁か布が主流だからと“ⅱ”は虚空にしまった藁を取り出し、適当に置く。勿論バラバラになり、“ⅱ”は顔を手で覆い天を仰ぐ。


「しまった。木枠を作れば良かったな」


 塒の外にある適当な木に『精密な裁断』を使いささくれ一つ立たない木材を切り出してハイエルフ用の寝床を準備する。寝ずにダンジョン作成を任せても良いが、未だ未熟者。休憩は必要だろうし、溜めた魔力はそんな簡単に散る事はない。ましてや元の保有者が近くに居れば尚更留まる。

 仮に魔力が散れば自分が同量の魔力を流せば何の問題も無いという判断から“ⅱ”は陽が沈み、時間が来たら眠る様に指示を出すと決める。

 以前徹夜させた時は次の日パタリと電池が切れた様に眠ってしまったから、その辺はデリケートになっており、十年生きてから徹夜させようと“ⅱ”は思っている。


「無理に負担をかける必要もあるまいて。あと百年近くある。急いては事を仕損ずる、あの子はきっと千年もしないで“魔法”に辿り着く。その時どうするのか、契約の都合もあるから“魔法”に至るかは分からないが楽しみだ」


 木枠を手で組み立てながら“ⅱ”は呟く。


 完成した箱に藁を魔力で持ち上げて敷き詰めていく。自分が寝るには狭いが、ハイエルフにとってはかなり大きめの寝床が出来上がる。シンプルな物なら簡単で良いと“ⅱ”は溜め息を吐く。

 かつて創世に関わった時は果てしなく面倒であり、後に魔力を世に広めた際は“二番目”と協力し、“一”の力を借りてこの世に変化を与えた時は過労を覚えた程であり、“ⅱ”は昔を懐かしむ。

 あの時はまだこの世に神の威光が届いており、神代の世界は皆が好き勝手にやっていた。それはそれで“世界”も楽しんでいたが、いつしか人間の火によって焼ける肌を見て“ⅱ”はこの世界を正すと誓った。


 珍しく感傷に浸っていると、雨が降り出す。


「……そうか。そうだな」


 “ⅱ”は天に目を向けて呟く。


「さて、あの子はどうしてるかな? 雨の凌ぎ方は魔術でどうにでもなるが、濡れながらやってたら風邪をひきかねない」


 “ⅱ”が心配して様子を伺うと、其処には予想外の方法で雨から身を守るハイエルフの姿が映っていた。


「……神域、ではないな」


 魔力溜まりを作るついでに行っているに過ぎないのだろうが、ハイエルフは濃密な魔力を現世に影響する程放出し、固有空間を創り上げていた。それは魔力による神域の原型でもあり、ハイエルフが“ⅱ”の想定を上回った瞬間でもある。

 体外魔力コントロール、ダンジョンの作成、魔力による物質の形成、そして神域の獲得。それが“ⅱ”の予定だったが、ハイエルフはダンジョン作成と並行して独自の発想で神域の原型を掴んでいた。


 “ⅱ”が領域に入ろうと手を伸ばすと、勢い良く手が弾かれる。これを見て“ⅱ”は魔力を展開する。


「全て遮断しているな、天才な馬鹿者め」


 口角を上げてその領域に“ⅱ”の魔力を浸透させて、内側から爆発する様に破壊する。強引な破壊方法だが、魔力量に大きな差があれば対象に影響が出ない簡単な方法である。


「先生?」

「酸素まで遮断していたな。死なれては困る」

「気付きませんでした」

「だろうな」

「……すみません」

「その防ぎ方はお前にはまだ早い。簡単に結界で防ぐか、その建物に入りなさい」

「……はい」


 ハイエルフは素直に従い、結界を広げて雨のみを遮断する。構築速度は速く、実践経験を積ませるのも考えなくてはと“ⅱ”は予定を頭で組み上げていく。


「嗚呼、夜になったら眠る様に。あそこに寝床は用意しておいた」

「分かりました」


 雨が上がったが、ハイエルフは結界を維持して魔力濃度を上げる為に結界を徐々に狭めていく。

 この方法はダンジョン作成に慣れたら気付く方法であり、“ⅱ”はハイエルフが発想豊かだと評価を上げる。もしかしたら自分が生きている間に“魔法”を見せてくれるのではないと期待を高めて。


 やがて夜になり、“ⅱ”が魔物の肉を軽く焼いて食事を済ませてハイエルフを寝床に誘導する。


「先生は、寝ないんですか?」

「私に睡眠は必要ない。もうあと数十年すれば、寝る時もあるかもしれないな」

「そうですか」

「そうだ。今日はもう寝なさい。魔力溜まりの心配は要らない。ゆっくりと、休む様に。今日は思っている以上に魔力を消費している筈だからな」

「……はい」


 “ⅱ”が離れていく様子を見たハイエルフは横になり、“ⅱ”は晴れた空を見て今日も魔力の球を創りながら『天体図』に星を追加したり修正したりしていき、時間が過ぎていった。

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