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これは“世界”を救う物語。  作者: 高平めめこ
初代クローディアの偉業
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0-4-5 失敗を与える

 今日分の訓練を分け身に任せた“ⅱ”は悩んでいた。

 ハイエルフを育ててから一週間が経ち、体内魔力コントロールも理想的な状態に落ち着いたが、此処から先どうやって育てて行こうかを悩んでいた。未来の断片的な知識はあるが、今の状況はそのどれにも合致しない例外とも言えるから。

 育成方法は幾らでもあるが、いずれ“魔法”を使える様にするにはこの育成方法では恐らく間に合わない。それでも構わないが、この育成速度ならば是非とも“魔法”は習得してもらいたいのが“ⅱ”の思うところ。例え“奇跡”が無くとも“完成”した“魔法”を扱える存在が出てくる事を“ⅱ”は何とも思わない。それは自らを倒すに値する存在であろうと、進化した“完成した存在”であろうと、“ⅱ”はそれを受け入れる。


 体内魔力コントロールの理想的状態とは、身体との動きの間に生まれる刹那のズレを掴んで一時的に黒色魔力と並ぶ、擬似魔法をごく稀に行える状態を指す。ハイエルフは連続成功こそしないものの、その習熟率による実力は恐らくこの世界において最早敵なしとも言える。

 魔力コントロールを極める意味は少ない魔力でも圧縮し、解き放つ事で爆発力を得る事でその魔術を強くする事を意味する。“ⅱ”の“魔法”は魔力コントロールなんて要らない技術だが、『魔術』では大いに必要となる基礎技量でもある。

 魔力の爆発力でもって魔術と成す。

 “魔法”は魔力純度百パーセントで、推進力を必要とせずに不可逆の事象改変を行う為、“ⅱ”は基本的に魔力コントロールなど行わない。行うとすれば魔力を封じられた際に体外魔力を操る程度であり、魔力をこの世に敷いた“ⅱ”は誰よりも魔力について理解しているからその程度の操作は誰よりも優れている。


 自身には遥かに劣るが、才能を無理矢理増強させたハイエルフは擬似魔法を時折発動させて自身の分け身を確実に削っていく。


 “ⅱ”は戦うハイエルフを見る。


「この子は、どうしてここまで頑張るのかね」


 ハイエルフには知識として“ⅱ”が両親を殺した事は伝えてある。魔力周りを弄った事は知らせていないが、聡いこの子ならば理解もしていそうだと“ⅱ”は思う。それだけこの数日は“ⅱ”の期待を良い意味で裏切る日々が続いている。

 今も分け身に近接格闘を挑んで鳩尾にストレートを決めている。自分の分け身が良い様にやられる様は自身の戦闘意欲を唆られるから辞めて貰いたいが、理論の構築の済んでいない完成度三割の分け身なら仕方ないと“ⅱ”は溜め息を吐く。


 百年。

 それが自分の決めた期限。

 その後のハイエルフが楽に暮らせる様に後半の五十年は一つの国に根付いて組織を立ち上げ地位を築く事を目標としているが、果たしてそれで良いのかと“ⅱ”は悩む。


 何通りもの世界線とは異なるハイエルフの成長。

 予想外の連続。

 “魔法”に至れる――“完成”した技術を修める逸材の可能性。


 “ⅱ”は自らの分け身に渡した魔力が尽きた事で土の椅子から立ち上がる。分け身を吸収して戦闘の経験を吸収し、ハイエルフの成長を感じ取る。ハイエルフは依然やる気満々な様子であり、直接手解きをしてやるのも悪くないと思い構える。


「今日は、負けません!」

「分け身に勝った程度で調子に乗るな」


 小さな身体に魔力を行き渡らせハイエルフは無属性の『身体強化』を行う。肉の書から得た知識を活用して細胞を意識した強化は通常の強化よりも強かであり、表に魔力を噴出させない事から反魔術は狙い難いモノとなっている。

 たった数日でこの成長。“ⅱ”が気を良くしてそれぞれの書物に新たな情報を追記していってしまうのも原因かもしれないが、それでもこの成長速度は異常とも言える。


 ただし、近接格闘の成長はここで止まると“ⅱ”は思っている。

 確かに強いが、“ⅱ”の改造に犠牲は付き物である。十全に“魔法”を扱えたのであれば何も犠牲にしなくて済むが、不安定な状態での改造であった為に“ⅱ”は身体能力を犠牲に魔術に特化する様にデザインした。

 ここまで身体能力が向上した事からこのハイエルフ本来の格闘技術を想像すると末恐ろしいものであると“ⅱ”は感じている。自身の肉体でない事も理由ではあるが、最強の神(カルハリアス)と戦える己とここまで肉弾戦を繰り広げられる事は“ⅱ”にとって素直に称賛に値する出来事であった。


「ふむ、休憩にしようか」

「はぁ……はい……」


 息を切らしてその場に座るハイエルフは、成人すればもう少し格闘面でも強くなるだろうが、幼少期はこれで頭打ちだと感じた“ⅱ”は座るハイエルフに言葉を投げる。


「近接はもう十分だ。基本動作を繰り返して鈍らない様にしなさい。これからは魔術を磨く時間を増やす。今から指定した魔術を百回成功させなさい。魔術は『大いなる陽光の太矢』とし、今日陽が沈むまでとする」

「わかり、ました……」


 ハイエルフは求められた魔術を否定せず、息を整えながらへんじをした。“ⅱ”は出来ない事は求めない。それがなんとなく分かるからこそ異議は唱えない。

 しかし今回ばかりは“ⅱ”は成功しないと思っている。

 成長に失敗は必要であると考える“ⅱ”だからこそ太陽が真上を通り過ぎたこの時間帯に、陽光を必要とし尚且つ高難易度の魔術を求めた。そこにあるのはこのハイエルフをより高みに導きたいという思いのみ。

 どうせこの世界の時間であと二万五千年近くは待機しなくてはならないのであれば最も“魔法”という“完成”した技術を身に付けそうな存在を育てたくなるのが魔力をこの世界に敷いた存在として思うところ。


「ぐぅ……」


 ハイエルフが中々成功しない魔術に音を上げる。

 そもそも『陽光の矢』だけでもかなりの難易度を誇る魔術であり、十三冊の魔導書を読んだ存在であれば使わないと断言するモノである。

 理由は日中でなくては使えない事、光を曲げる事、光を留めて形を形成する事、集めた熱を鏃に注ぎ込んで完成である事。光を操作するという地味に難易度の高い芸当を披露し、コレだけの工程がある魔術は『魔力の矢』を用いた方が早い。


 既に陽は傾き、あと一時間もすれば沈む。

 ハイエルフが成功させた回数は五十七回。“ⅱ”の予想ではもう少し少ないかと思っていたが、魔術に対して高い適性がある分成功しているのだと感じ取る。そして、回を増す毎に形成が早くなっているのはコツを掴んだからだろう。

 これが午前中からだったらハイエルフは問題なくこなしていただろうが、生憎それは仮定の話であって、現実は時間では時間が足りておない。


「一つ一つを意識しなさい。乱れた魔術は回数に含まない」

「は……い……」


 慣れと焦りの二つが混じり、結果ハイエルフは『大いなる陽光の太矢』を八十二回成功させた。“ⅱ”の予想では七十程度であり、ハイエルフの魔術適性の認識を改めなくてはならないと思考する。


「……すみません」

「何故謝る?」

「先生の、期待に応えられなくて……」

「そうだな、私は百と言った。お前は八十と少ししか成功していない。だが、謝るだけで終わるのか?」

「そんな事は――ッ!!」

「それでいい」

「え……?」

「失敗も悪い事では無い。反省し研鑽を積めるのであれば、それでいい」


 “ⅱ”は土の椅子に腰掛けハイエルフの事を見る。その視線は鋭いモノで、ハイエルフはビクリと肩を上げる。

 “ⅱ”の意図としてはそれっぽく演出しておけばどうにかなるというなんとも投げやりな後始末だが、成功続きで失敗を知らない存在にはならないで欲しいという思いから思い付きで行った行為であり、またそれを明かす事もない。


 勝手に納得しろ。

 それが“ⅱ”の考え方。


 訓練を早々に切り上げ、宵闇の時間帯となりハイエルフは少しだけ休憩をしていた。“ⅱ”もそれは咎めたりはしない。無理に体に鞭を打つ方が非効率であると考える“ⅱ”は、休憩を取れる存在を高く評価する。

 例え追い込まれた状況でも、それを一旦忘れてリセットする事が重要だと、“ⅱ”は考えている。

 ハイエルフにそんな事は語っていないが、直ぐに魔術を磨き始めない辺り自分の思想が伝わっているのではないかと思いたくなる“ⅱ”だが、そんな“魔法”も『魔術』も使ってはいない。


「今日は疲れたか?」

「そんな事は……」

「そうか」

「夜の訓練はきちんと行います」

「まあ、無理はしない様に」


 辺りが薄暗くなり、“ⅱ”は魔導書を開いてハイエルフの様子を書き記していく。失敗して絶望した様な表情は説明文と共に厳重な封印を施して魔導書に載せた。

 これを解除出来る存在が現れれば安泰だ、と思いながら“ⅱ”は魔法文字を羅列していき、ハイエルフの様子を認める。


 やがて完全に闇が広がり、月明かりの支配する夜となった事でハイエルフは月明かりを利用する月魔術を行使していつでも“ⅱ”の期待に応えられる様に鍛錬を開始した。使用する魔術は『大いなる月明かりの石槍』。地面の石から月明かりの狂気に近い力を取り込む『大いなる陽光の太矢』に通ずる魔術。


 今日はいつもより少し長く鍛錬をさせてやろうと決めた“ⅱ”はハイエルフを放置して魔導書に新たな知識やハイエルフの事を記録していき、気付けば朝日が差し込んでいた。

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