蒲公英
「はぁ……」
大きなため息を吐いて、私はリビングの定位置に座りました。三人はとても不思議そうな顔をしています。そりゃそうですよね、元気一杯なマティルダちゃんが挨拶もなしに入ってきたんですから。
休日だというのに、私の気分は学校がある日よりも悪いです。顔は洗いました、頭は完全覚醒しています。ですが気持ちのいい朝ではないです。
朝食も喉を通っていかない。
周りの声は聞きたくない。
何もしたくない。
言ってしまえば今の私は破壊不可能な無害オブジェクトです。背景みたいなものです。
「マティルダ!」
「ひっ……はい!」
ですがこの三人は私をオブジェクトにしておくつもりはないようですね。フリュウさんが私の後ろに立って両手で肩を叩きました。
家族っていいなぁ……。
涙が出てきます。
「何があったの?怖い夢でも見たか?」
可能ならば夢であって欲しい現実を見ました。
なんて言う気力もないのですが。
「とりあえず涙を拭いて、マティルダは笑っててくれればいいんだよ」
「それただ笑うだけの村人じゃないですか」
「まじで鬱になってんな」
「それだけでいいならいくつでも作り笑いをしてあげますよ」
というわけでとても不格好な作り笑いをしてあげました。
フリュウさんは酷く辛そうな顔をしています。
やめてください、その悲しそうな目で見ないでくださいよぉ……。
「すいません……」
「悩み、聞くよ」
「はい」
私は家のパソコンの前に座って履歴を開きます。このパソコンは人の世で出回っているものとは違います。神のほうのネットに繋がるパソコンです。
天大陸の情報を知ることができる、統治する側である三人にとってとても大切なものです。
「これです」
「これは……神のほうの2ちゃんか」
「下の方にいけば理由がありますから」
もう見たくない、という意思表示に顔を背けます。
しばらくしてフリュウさんが大きなため息を吐いてこちらを向きました。
「はぁ……なんでこんなの調べるのか」
「すいません。興味があったんです」
「マティルダにはまだ早すぎる。ストレス耐性がないのにこんなの見るからだ」
私が見たのはこの間出演させてもらった天大陸の番組。アラステッドさんの悩みを解決するためにいろいろしてたら大暴れしだしたという、あの番組の評価です。
気になって調べていたら2ちゃんに行きつき、見たのは私への視聴者からの声。
『なんであんな下級神が最高神といるんだ』
『俺のほうが偉いから出せ』
『地位もない、顔も普通、一般人じゃないか』
などなど。
顔はわりと可愛いと思ってるんですけどね。
地位に関しては何も言えませんが。
とりあえず批判を読みすぎて嫌になってしまったわけです。
「うう……フリュウさーん」
「よしよし」
「怖いよ!神も人間も皆怖いよ!」
「怖くない怖くない。マティルダはもっと批判を客観的に見るべきだ」
もうこのままフリュウさんの腕の中で人生を終えたいところです。信頼できるのはもうこのマンションの知人だけ。
「マティルダは……そうだな、この話、誰が作ったのか気にしたことがあるかい」
「……この話ですか」
唐突に意味不明なことを言われては無視できませんでした。
どっかの変人が書いたんでしょう。一応知ってますけど……なんか腹立たしいので知らないことにしておきましょう。
「知りません」
「だろ?俺も知らないからね」
は、はぁ。
本格的に何が言いたいのかわからなくなりましたよ。
「この話は誰が妄想した、なんて気にする人はそうそういない。でも確かにそこにストーリーは存在するんだ。知ってる人はごく一部で、知らない人のほうが何倍も多い」
「そうですね」
「言いたいことはね、知るべきことと知らなくてもいいことを整理しろ。他人の注目を浴びると自然とアンチは出てくる、そしてそれは知らなくていい存在だ」
っ!
「めんどうごとに関われば野次馬だと言われ、無視したら冷たい人と言われる。そんなのが現実だ、いちいち気にしていたら家から一歩も出られないだろう」
「フリュウさん!」
思わず抱きついていた腕に力が入ってしまいました。
希望が見えた気がしたんです、許してください。
「マティルダ、君はコンクリートから顔を出した蒲公英だ。今、マティルダは様々な抵抗に打ち勝って開花したんだ」
「はい!」
「さぁ、はやく朝食を食べてくれ。片付けができないだろう」
「すいませんでした!」
後日。
「さてさて、フリュウさんのアンチはどんなことを書いてるのかなー」
ノリで調べてみました。
「わぁお、999コメントのがいっぱいあるじゃないですか」
どんだけアンチいるんですか、と思っていたんですが。
『破壊神様の悪口を書いてこうぜ』
『フリュウさーん!かっこいいー!』
『フリュウ様!大好きです!』
『従者にしてください!』
『破壊神ファンクラブやばすぎワロタ』
『信者やべぇ』
みたいな感じで……しかも全部。
なんか、フリュウさんへの批判をしようとしたらファンクラブの人で埋め尽くされて崩壊。
アンチも信者も怖かった……。




