ジャックの過去
雛を待っている間、ジャックの意識は遠のいて行った。
ジャックは薬剤師になるため、田舎から上京してきた。
薬剤師の学校に入るための入試は超難関として知られていたが、ジャックはそれに合格した。
ところが、家は貧しく4年間の学費を賄うこと難しかった。
そこで金を得るために違法で薬を調合し、闇で売りさばいていた。
が、そのことがバレて退学となってしまう。
両親に退学になったことなど言えるはずもなく、結局無免の薬剤師として、10年近く商売を続けていた。
ジャックが相手にするのは主に犯罪者やマフィアなど、表だって治療を受けることのできない輩ばかりだった。
そのせいで、国からも目をつけられ、捕まる前に足を洗って田舎に帰る途中であった。
「……く」
ジャックが目を覚ますと、雛が顔の横にたたずんでいた。
「よかった! 目が覚めて」
「お前…… 薬草を取ってきたのか?」
「いえ、薬草は持ってこれなかったので、僕の血を使いました!」
血を?
よく見ると雛は血を流している。
「僕の血を飲めばたちまちどんな傷も治ってしまうんです!」
そんな馬鹿な……
にわかに信じがたい。
だが、もしそれが本当なら、1億を払うと言っている輩は、この血の効能が欲しいから巨額を支払うと言っているのではないか?
身内のためか、自分自身のためか……
だが金持ちが不老長寿を望んで妙なものに大金をつぎ込むのはよくある話だし、1億と言う話もがぜん信憑性が増した。
「あの…… 頼みがあるんですが」
雛が突然そんなことを言って来た。
「僕を親の所まで送り届けてもらえませんか?」
1億のことに気を取られていたジャックは、雛の予想外の頼みに一瞬理解が追いつかなかった。
「……今なんて? 親の元に届けろだと? 何で俺がそんな面倒を引き受けなきゃならないんだ!」
「血、飲みましたよね?」
「……!」
まさかこの雛、自分の血に1億の価値があることを知っているのか?
だとしたら、かなりあざといやつだ。
だが所詮鳥の雛であり、そんな交渉に乗ってやる必要はない。
しかし……
もしこの雛と協力すれば、あわよくば大金を手に入れることができるのではないか?
それに、こんな雛に出し抜かれてたまるか。
「なら、俺に手を貸せ。 その後にお前を両親の元に送り届けてやる」
「本当ですか!」