高等科編1
九年で腰まで伸びた髪を鬱陶しく感じ、一つに束ねながらノーリの後を歩きながらおじさんは、
「ノーリぃ、本当に今日があの日なのぉ」
四捨五入すれば身長が二メートルくらいになったノーリの久しぶりの予知で、今日が救世主が現れるとわかったので、おじさんとノーリの意図的に作った微笑みで「変わって?」と頼み込み、任務を交換してもらってこうして誰かもわからない彼らを迎えに来たんだけど……。
なかなかその場所が見つからず、道なき道を歩いている状態にある。
あの時から九年が経ち、今じゃこの大陸は四面楚歌の状態に陥っている。
……師匠を捕まえるためには、確実に神によって異世界移動してきた彼らを確実に助けなければならない。
「ああ、あともう少しだ。あともう少しで……、記憶と“今”が繋がる」
そう確信を持って言われれば、おじさんはノーリを信じるしかない。
依頼はそうは難しくなかったしぃ、もう終わってる。時間はまだまだあるし、のんびりと探して行きますかぁ……と考えた瞬間のことだった。この先を百メートルくらい行った先にある草むらからドサッと何かが落ちたような音が聞こえてきて、ノーリに目で合図を送り気配を消した。
彼らかどうかはわからない、魔物かもしれない可能性を含めて慎重に進んでいけば明らかに動揺した人の息遣い、鼓動が聞こえてきておじさんは駆け足で近づいてきて、何をされるかどうかわからない恐怖で身体を固まらせる四人を安堵させるために微笑みながら声をかける。
「おじさんはー、クラトル キリシアと言います〜。貴殿方が来る日を待っていました。本来この世界に生まれるはずだった強者、それが貴殿方です。この世界の理が壊れかけてる今、焦った神々は貴殿方をこちらに送り込みました。おじさん達には貴殿方を元の世界に帰す手段はありません、もしかしたら貴殿方はこの世界の理を壊しかけた紫髪の少女を倒せば、元の世界に帰れるかもしれません。とりあえずここは危ないです、おじさん達の通う学園に向かいましょう」
どうしてそんなことがわかるのか? そんなような顔をしていた。
そんな四人に対して、再びニコリと微笑めば四人のうち三人がこう張っていた顔が少しだけ和らいで、良かったとおじさんは少しだけ安心したんだ。
だけど、未だに怖い顔をしている男の子がいて、おじさんの懐を掴んで睨み付け、こう言ってきた。
「妹を知らないか! 俺がこの世界の住人なら、アイツがこの世界住人じゃない訳がない! 十二年前から行方不明なんだ、アンタら何か知らないか!」
……心配でそんな怖い顔をしているんだね、君は。こんな予想外なことに自分のことよりも妹のことを心配する姿勢は……、おじさんは嫌いじゃない。
けど、もしこの子の妹がこの世界に来ていたとして、当てはまるとしたら悪い予想しか思いつかない。
「おじさんが君達を呼び出した訳ではありませんから、詳しいことはわかりませんが……、もし妹さんがこの世界の敵だったとしても裁かれる姿を見れる覚悟があるのなら、アテがない訳ではありません。
妹さんがこの世界に異世界転移をしていたとして、それが当てはまるのは紫髪の少女側の人間しかいません。それでも真実を知る覚悟はありますか?
それでも貴方は妹さんと戦う覚悟はありますか? その覚悟が出来るなら貴方の望みも叶えましょう。おじさんにはその望みを叶えられる“かもしれない”手段があります。とりあえず、そこのところの取引を含めておじさん達の学園へ向かいましょう。
魔法も使えないなら、魔物がいるここにこれ以上いるのは危険ですから」
……ゆっくり考えてもらおうと思ったから、異論を唱えられる前に早口でおじさんはそう言い切った。
そしておじさんは、彼にしか聞こえないくらいの小声でこう呟いた。
「……それに家族の過ちを正し、それをわからせるために諭すのがそれが家族の役割でもあります」
おじさんはそう呟いた後、一人でさっさと歩き出せばノーリが、
「……悪い奴じゃないんだ、そう言う話に関してクラは敏感でな」
と、おじさんをかばってくれるような言葉を言ってくれるノーリ。
……わかってる。
正論を唱えるだけが正解だと決めつけられる、簡単な世界じゃないことくらい。
◇◆◇◆◇◆
慣れない世界で疲れているだろうから、話し合いはまた明日にして四人に個室を用意し、ゆっくりと今日は休んでもらうことにした。慣れない時に取引を直ぐにやろうと思うほど、おじさんは心を鬼には出来なかった。
おじさんが通い始めて、十年目。
変わったことはいっぱいあった、男子寮の警備強化とか色々なことが。
だから、今はノーリが付き添わなくても男子寮だけだったら一人で歩けるようになるまでは、心の傷は癒えてきたんだと思う。……ここにはもう、おじさんに対してお見合いを持ち込んでくる男子はいないから、安心して彼らの目を見て話せるようになった。
未だに駄目なんだ、恋したようなあの視線で見られることだけが。
……それだけは今でも鳥肌がたつし、恐怖で何にも考えられなくなる。
それに初対面の人に触れられるのも怖い、怖いはずなのに何故だろう?
あの子に懐を掴まれたのに、恐怖を抱かなかったのは何故だろうか?
……誰かの手のひらに似ている、安心出来る信頼する誰かの手のひらに。
そう考えながら、一人になりたい時、月の綺麗なこの場所に向かってくる足音が聞こえてきた。
知らない足音だ、と思わず身構えていれば「俺だ」と妹を探しているあの子が目の前に現れた。
「ノーリに聞いたんだね。珍しいなぁ、ノーリはナナセくんやシィとか、ほんの一部の教員とかアルくんやおじさんの非公認ファンクラブしか信頼してないのに……、出会って早々の君におじさんの事情や隠れ場所を話すだなんて。君は不思議な子だね」
この子の深刻そうな顔色を見ればわかる、おじさんの話を聞かされたんだって。……そうじゃなきゃ、姿が見えない前に俺だって声で存在をわからせることなんてするかなぁ?
まあ同情しているようには見えないし、それだけでも充分なんだけどね。
「それはこっちのセリフだ」
そう言って、あの子は苦笑いをした。その表情を見て、おじさんが安心した理由が思い出せたの……。
彼の手は師匠に似てた、ただそれだけの簡単な理由だったんだってね?




