初等科編19
目隠しされているのか、目を開いても視界には何も映ることはない。
手首と足首には頑丈な手錠で不自由な状態にされ、身動きが取れないように腰回りに鎖を巻かれ、柱に繋がれていて徹底的に身動きが取れない状態だった。
……申し訳ない、あんなに楽しんでいた体育祭だと言うのに、おじさんが誘拐されたばかりに台無しにしてしまった。今頃、ノーリやシィが鬼の形相をしながら探し回っている姿が目に見えているし、父上もトールも体育祭を見に来ているからこの場所が見つかるのも時間の問題だ。
と、そう考えていると見知らぬ足音が聞こえてきて、おじさんは気を張りながら取り乱すことなく、冷静な立ち振舞いをするんだとそう自分に言い聞かせた。取り乱した姿は誘拐した相手を喜ばすだけだと、そうとも言い聞かせながら。
「目覚めたかい、あのシルバー キリシアの愛しい愛しい息子さん?
随分と余裕なんだね、誘拐されたと言うのに。それとも見せないように態度を見繕っているのかな?」
妙に誘うような声で言ってくるこの男の声が不愉快で鳥肌が立ってくる。
こう言うタイプは抵抗する奴ほど、いじめ抜くタイプだ。こう言う男の場合、大人しく助けにくるのを待った方が良い、だって必ずノーリ達はおじさんのことを迎えにきてくれるはずだし、そうなることを信じているから……。
その声に答えることなく、おじさんは無言のまま、その男の言葉を無視をした。
すると男は……、
「顔が見えない相手だと会話したくない主義なのかな? なら、目隠しを外してあげないといけないね」
と、そう勝手に結論付けたその男はゆっくりとした仕草で目隠しを外した。
髪に触れられた瞬間、物凄く吐き気がしたけど必死でその現象に耐えた。
そんな様子にも気づかずにおじさんを恍惚とした表情で見つめてくる男。
男のその狂った目が、こちらだけを見てくるその視線が、その表情が、……その全てがおじさんは気持ち悪くて、気持ちが悪く仕方がなかった。
「……どうしてこんなことをしたの」
「どうして? そんなの決まってるでしょ、君に会うことなく縁談を断られたからだよ。君の父親は、君を息子だと言っているからさっきはね、形式的に“息子”だと言ったけど……、俺はそれを信じてないよ。きっと、君のあまりの綺麗さに悪い虫がつかないようにそう言っているだけで、君は女の子なんだろう?」
と、おじさんの問いに対して質問の答えになっているような、いないような返事が返ってきてしまい、思わず内心で同性だと信じられなくなるくらいに、そこまで女顔なんだとそうショックを受けながらも営業スマイルを浮かべることなく、無表情のまま目の前にいる男を見据えた。
嫌悪感に耐えながらも、怯えるような様子を見せまいと手のひらを爪を立てて握りしめて耐えながら、おじさんは目を反らすことなくはっきりとこう言う。
「“僕”は男だよ。戸籍上も、顔付きだけは女顔だけど……、体格は小柄だけど僕は確かに男だ」
と、そう言葉にした瞬間に見知らぬ男に勢い良く肩を掴まれて、
「嘘だよね……! 俺は嘘つく君は嫌いだよ! 君は女の子なんだよね!」
そう血走った目をしながら男はそう言って、無抵抗になるしか負えないおじさんの腹部を勢い良く殴った後……、血を吐いているうちに首を絞められた。
息をどんなに吸おうとしても、男の手で食い止められ、空気を吸うことも出来ずに何も考えられなくなった。
苦しさのあまり涙を浮かべる中、気絶しそうになった瞬間に必死におじさんは言葉を紡いだのだった。
「……助けて……ッ!」




