初等科編10
おじさんが契約してと頼んでから五分くらいが経った今でも、二匹の竜は戸惑ったような表情を浮かべて無言のままだ。そりゃー……、竜舎の中に入ってから数分も立たないうちにそう言われれば戸惑っちゃうよねとそう考えていた。
流石に二匹の竜をただ、ぼんやりと眺めているのは飽きてしまったため、後ろを振り返り、何もすることがないのでとりあえずノーリに手を振ってみた。
それでも、嫌がるような素振りを一つも見せずに振り返してくれたことに嬉しくなり、しばらくの間面白くもないのに手を振り続けているとー……。
『君達は何をやっているんだ? こんな近い距離で手を振り合うなどー……』
『手を振り合うのって楽しいの?』
と、契約するか否かの答えではなかったものの、やっと話しかけてくれたことに嬉しくなり、おじさんは勢い良く振り返って満面の笑みでこう答えた。
「この竜舎にいた時間は凄く短いのに契約してって言われたら戸惑うのは当然かなーって思って、しばらく待ってたんだけどー……、ただ待っていることに飽きちゃったからとりあえずノーリに手を振ってみたら、嫌がる素振りを見せずに手を振り返してくれるから嬉しくなっちゃってねぇ!
別に楽しくはないんだけどぉ、ノーリと手を振り合っていたの!」
と、そう答えると漆黒色をした竜は深くため息をつき、空色をした竜は瞬きを何回もしていた。
あれ? 何かおかしなこと言ったかなぁと考えているとー……、
『本当に彼は男なのか? 見た目から見ても、その性格も、その仕草も非常に女の子らしいのだが……』
『別に良いんじゃない? 契約するのがこりごりだって思ったのは女の子なんだし、見た目が美少女でも中身が男の子であることは変わりがないでしょ?』
と、そう会話しているのが聞こえてきて、この二匹の竜と契約を交わせるのかしら? と少しだけ心配になってきたものの、良い答えが聞けるように結論が出るまで静かに待っていれば、にっこりと微笑んでいる空色の竜がこう言った。
『良いよ、俺らは君と契約をしよう。さあ、契約の証に名前をつけて?』
その言葉が聞けて、とても安心した。
でも、どんな名前をつけるか全然考えてなかったなぁとそう考えながら、どんな名前にするか数分悩んだ後、口元を緩ませるように笑った後、こう言った。
「空色の竜の君はアオト、漆黒色の竜の君はクロトとこれからそう呼ぶね!」
そう言えば二匹の竜は右手の中指と人差し指にそれぞれ額を当てた後、竜の姿から指輪へと変わった。
おじさんは二匹の竜と契約出来たことに嬉しく思い、後ろへと振り返ればルト先生はこう一言言った。
「クラトルの美少女さは、種族が違えど通じるものなんだな、覚えておこう」
って言うものだから、気分が上昇していたおじさんは思わず拗ねたのでした。
◇◆◇◆◇◆
無事ノーリの契約を終えた後、未だに部屋の隅で拗ねているおじさんの代わりにルト先生に彼は殺気を向けているものの、いつもなら面倒くさがりながらあしらうはずなのに、今日は楽しそうに笑っていた。そんな様子にイラッと来て、先ほど契約したアオトとクロトを呼び出すと……。
六歳児くらいの瓜二つの双子が現れた。
おじさんはその姿に目を見開いて驚いているとー……、悪戯に成功した子供みたいに笑うアオトらしき子と、それを申し訳なさそうな顔をしているクロトらしき子の姿があった。
「……アオトとクロトだよね?」
思わずそう聞けば、アオトとクロトは何度も何度も首を縦に振っていた。
使える魔法の属性が違うはずなのに、何故二人とも顔が瓜二つなんだろうか? とそう思っていれば、ノーリをからかって楽しんでいたルト先生が近づいて来て、こう教えてくれた。
「えーと、アオトとクロトは違う魔法属性の使える竜同士から生まれた竜なんだ。で、たまたま双子で産まれたこの二匹の竜は、別々の属性を持って産まれてきたらしいぞ。まあ、クロトは影属性だけど水属性の魔法が少しだけ使えるらしいぞ、勿論アオトも水属性の竜だけれど影属性の魔法も少しぐらいは使えるみたいだけどな。
アオトとクロトもなかなか強い方だから、人化することが出来るみたいだな」
へぇー……と呟きながら二匹の竜を眺めていると、視線を向けられたことに照れているのか、身をくっつき合って抱きしめ合っている姿を見てあまりに微笑ましい光景だから、無自覚のうちに自然と口角が上がり微笑んでいた。
おじさん、男だけど母性芽生えてきそうなくらい微笑ましいなー……、この二人と冗談じみた口調でおじさんはそう呟いていると、ここぞとばかりにルト先生はこう言ってきた。
「別に違和感はないな」
と、あまりにニヤニヤしながらからかうように言うものだから、流石のおじさんも少しだけムカついて、ルト先生の手の甲を爪を立ててつねってやった後、
「ルト先生ってば意地悪なんだからっ!」
と、そう言って、木の実をため込むリスのように頬を膨らませた後、人化した竜二匹を近くまで駆け寄って、二匹……と言うより二人を抱きしめ、睨みつければルト先生は苦笑した。
「随分と可愛らしい契約主とその竜だな」
そう言って、ルト先生は再び苦笑した。




