初等科編6
未だに照れながらも、食事をしているハルク先輩を眺めていると、誰かが背後から肩を叩いてきた。
条件反射でその方向へと振り返れば、そこにはシィの姿があって……。
おじさんのテンションは上がり、椅子が大きく音を鳴らすのなんて気にもせず、シィに抱きついた。
「シィ! どうしたの? 会いたかったよぅ、学科が違うと会えなくて寂しい〜。竜騎士科に来ない?」
と、抱きついた状態で上目遣いをすれば、シィは苦笑しながら……、
「ふふっ、俺も親友に会えなくて寂しいよ。出来るものなら、竜騎士科に移動してしまいたいけど……、竜に好かれる体質じゃないからなぁ、ごめんなぁ」
そう言いながら、抱きしめ返してくれたシィは、申し訳そうな顔をした。
――あれ? 我儘言ったのはおじさんの方なのになぁ、別に申し訳なさそうな顔しなくても良いのに。
と、そう考えながら手加減はしているものの、強く抱きしめてもシィは笑っているだけで、全く苦しく感じているように見えないため、凄いなぁと思う。
レベル三とは言え、おじさんの握力は怪力だと言えるぐらいの力がある。
だから例え、おじさんなりに手加減しているつもりでも、これぐらい強く抱きしめていると、普通の人なら気絶してるはずなんだけどなぁと考えていた。
シィは自分の限界を知ってるから、その限界の本当のギリギリまで鍛練をし続けた結果、今抱きしめている力ぐらいでは気絶しなくなったみたいだけど。
……なんて考えているうちに、シィに片手で軽々と抱えられたが、おじさんはそんなの全く気にもせずに、その様子を何処か羨ましそうな顔をしながら眺めているハルク先輩を、微笑ましいものを見るような目で眺めながら、しばらく抱きついていた。
一方、何処か心配したような目付きをしているトーゴ先輩は、気にもせずに黙々と食事をしていたノーリに対して、こう囁いていたのが聞こえてきた。
「おい、お前の大切なクラトルが別の誰かに抱きついてるけど良いのか?」
――ちょっと〜、聞こえてますよぅ。
と、そう考えてながら、頬に木の実をためたリスのようにぷくぅと頬を膨らませていれば、おじさんがそんな表情をしていると気づいたトーゴ先輩は苦笑したと同時に、ノーリはナイフとフォークを置いた後、顔を上げてこう言った。
「シィは大丈夫です。ちゃんと、クラを同性の親友として接してくれますし。
俺は別に、誰に対しても毎回殺気を向けている訳ではありませんよ。
過保護に構いすぎな時、同性でも良いから婚約者にしたいと思っている奴に対して、そしてクラに危害を加えた時。構いすぎだけなら殺気を向けるだけで済ませますが、それ以外をすれば過剰な過保護だと言われようが、手加減するつもりはありません」
そうすることが当たり前のことのように平然とした雰囲気を出しつつ、ノーリは愛想笑いを浮かべて、また何ごともなかったように黙々と食事をし始めた。
そんな反応に慣れていない二人は、トーゴ先輩は発言に対してだろうか、あまりの過保護な発言に真っ青な表情を浮かべていたが、一方ではハルク先輩は相変わらず羨ましそうな表情を浮かべながら、おじさんをひたすら眺めている。
――だったら、素直に甘やかして欲しいってトーゴ先輩に言えば良いのに。
と、そう考えた後、抱きつくのを止めれば降ろしてと声に出す前に、シィの手によって先ほどまで座っていた椅子に、おじさんを座らせてくれた。
「お前の前世は、お姫様か何かか?」
と、トーゴ先輩にそう聞かれたので、
「えぇ〜? 違いますよぅ。おじさんの前世は情報屋の五十代のおじさんであり、お姫様じゃないです」
本当は事実なのだけれどぉ、冗談を言うかのようにそう言えば……、
「え、マジかよ!?」
と、案の定冗談として受け取ってくれたようで助かった。珍しくノーリも、シィもこれが冗談じゃないってバレることはなかったから、トーゴ先輩の反応を見て笑っているように見せてはいるものの……、内心の奥底ではバレなかったことに対する安堵と、これが冗談ではないことを気づいて欲しかったと言う気持ちが複雑に絡み合い、おじさんはどうしたら良いのかわからなくなっていた。
いつもなら、おじさんの変化に気づかないはずがないノーリが、冗談のように語っているが本当のことだって気づいていないことに違和感を感じている。
……そう言えば、あの人が言っていた。
前世の話だけは、冗談ではないことを気づかれないようにしておくって。
それで人体実験でもされたら嫌だろう? とそう申し訳なさそうに言いながら、おじさんをこの世界に転生させたあの装置を愛しそうに撫でていたのを良く覚えている。あの人は研究者として優秀な人でもあったけれど……、一番研究者に向いていない性格をしていた人だった。
あの装置を完全に完成させて、死んでいないかと心配になったものの、前世のおじさんとあの人はそこまで関わりが深い訳ではなかったけど〜、優しいすぎるあの人の性格は……。
研究者であるあの人にとって、研究を進めるごとに傷を深めていく、まるで諸刃の剣のようだった。
多分、どんなに本気で前世の話をしても、周りには冗談のように聞こえてしまうのは、……優しすぎる研究者のあの人の気遣いなんだろうと思うの。
おじさん達、転生した人達のためである。そして転生先の人々が、転生させた人物に怒りを感じる場合もあるかもしれないと、あの人は自分だけ全ての原理を理解し、地球へと襲ってこないように一人で膨大な情報量を記憶しているんだと、何故か転生する前にそう聞かされたのよ。
あまり関わりのなかったおじさんに、そんな大事な話をするなんて変な人だなと思ってたけど、転生した直後にずっと眠ったままの状態が多かったからぁ、すっかりこの話をされたことに対する違和感を忘れてしまってたわぁ。
――何かに対して違和感を感じていたことを忘れていた時、別のことに違和感を感じることで、すっかり忘れていたその記憶に対する疑問さえも思い出してしまうこともあるのねぇ。
と、そう考えながら、同時にこんなことも思い出した。……そう言えば、最初の方は地球との脳内での通信も繋がっていたのに、トールが転生してきてから全く繋がらなくなってしまったけど〜……、本当にどうしたのかしら?
そう考えつつも、結論が出ないことを考えても今は仕方がないことだろうしねとも思い、トール先輩達の勧めからシィと夕食を食べれることに喜びながら、残り僅かになったお皿の上の食事をゆっくり味わうように食べるのだった。
◇◆◇◆◇◆
夕食後、何故かトーゴ先輩にお菓子を奢ってもらい、浮かれているおじさんの様子をノーリは苦笑しながら迷子にならないように手を繋いでおいてくれた。
冷静な時は迷子になることは滅多にないのだが、こうして浮かれている時とか、考えごとだけに集中している時だけ限定におじさんは方向音痴になるの。
まあ、ハルク先輩の場合は時間は掛かるものの、運で辿り着いてしまうってことではなく、おじさんの場合そうなったらスノーに目的地を告げ、案内をしてもらえば良いだけだから別に心配はないんだけど……、ノーリは一人で行動することで、自分のファン達が何か仕出かすんじゃないかと心配みたいなんだ。
食堂まで、おじさん達の部屋は数分ぐらいで着いてしまうから、迷子になる心配はないと思うんだけどと考えているうちに、いつの間にか部屋の中に入っていたから吃驚した。しかも何故かベッドの上に無意識のうちに座っていた。
自分でもこう思った、確かにこれは心配されるかもしれないと……。




