初等科編3
ラティー先輩の腕から逃れられた後、ノーリは何処か調子が悪そうで。
眉間にシワを寄せながら、何かに耐えているような表情を浮かべていた。
そんなノーリを支えるように、腕を掴んで見上げれば口パクで、
『大丈夫だよ』
と、ノーリはそう伝えてきたけど〜……、肌の色がまるで土色だ。
そんな顔色をして、大丈夫なはずがないでしょう? と言えたらどんなに良かったか、楽だったか。
――ノーリはきっと、何時まで経ってもそう思う気持ちを理解することは出来ないだろうと思う……。
そう考えた後、用意されていた席へと座り、おじさんはただただ何も考えずに、呆けていたのだった。
それから数分が経った頃、おじさんが我に返った時には用意されていた席がほぼ埋まっていて、呆けていたうちにこんなにも集まっていたのねぇ〜……とそう考えていれば、偶々視線を向けた先にいた男子生徒と目が合った。
そんな男子生徒は、何故かおじさんに座ったまま軽くお辞儀をした後、直ぐにこの会議室の扉へと視線を向けて、鬼の形相でその方向を睨みつけていた。
良く良く見てみれば、その男子生徒の隣の席は空席のままで……。
ああ、なるほど。遅刻した同級生に対して怒っているのかも〜……。
と、そう考えながら、その男子生徒があまりに扉ばかりを見ているもんだから、おじさんもつられるようにその方向を見ていると、誰かが来るとわかっていながらも思ったよりも、勢い良く扉を開いたものだから聴力の良いために思わず反射神経で耳を塞いだ後、視界に映った人物が思わぬ人で少し驚いた。
称号者だけが参加できる、学園側主催のパーティーに参加した時にいたハルク ノイノア先輩だった。
そんなハルク先輩を見た瞬間、さっきの男子生徒は勢い良く席から立ち上がった後、駆け寄った。
何処から取り出したのかはわからないが、一瞬でハリセンを取り出した。
その後、ハルク先輩の頭を目掛けてハリセンで叩いたのを見て、あの先輩苦労しているんだなぁと微笑ましいものを見るように眺めていれば……。
「だから言ったじゃねぇか。お前の方向音痴は治るもんじゃねーんだよって。
遅刻したら、周りに迷惑かけんだから一緒にここまで来ようって言ってんのによぅ、変なとこで頑固になってんじゃねーよ! ハルク、わかったか?」
拗ねたような表情をし始めたハルク先輩に、言い聞かせるような口調でそう言っていた男子生徒はまるで保護者みたいで穏やかな気分へとなってくる。
あまりに微笑ましくて思わずクスリと笑えば、すかさずジーシェ先輩がわざわざここの席までやって来て、再びおじさんの手を取ってこう言った。
「何を思い悩んでいるかはわかりませんが、……貴方には悩む表情よりも微笑む方が似合っていますよ」
と、まるで女性を口説くようにそう言うものだから、思わず苦笑する。
すると、昨日の頭痛の名残が残っているのか、おじさんに対しては不機嫌な雰囲気を出さないものの、ジーシェ先輩にそう言われた瞬間のことだった。
周りの温度が二、三度下がったんじゃないかと思うくらいの殺気を出しながらノーリは微笑んでいた。
そんな殺伐とした雰囲気の中、ノーリの殺気なんて痛くも痒くもないのか、全く変わらない満面の笑みでジーシェ先輩はおじさんの手を握ったままだった。
……流石に、いつまでもこの体勢でいるのは困るかなぁとそう思い始めた頃、ジーシェ先輩の背後からハリセンを担いでいる男子生徒が現れて……。
ジーシェ先輩の頭を遠慮なしにハリセンで叩いた後、おじさんが握られていた手のひらから逃れたことで、叩かれた本人は机にその勢いのまま机に額をぶつけていた。
そんなジーシェ先輩を眺めた後、視線を男子生徒に移せばおじさんに向けて歯を見せるように笑い、その笑みは直ぐに一変して真顔でこう言った。
「……クラトルだっけ?
この人一応は先輩だけど……、セクハラされたら遠慮なく撃退していいから。
俺が許可する。先輩だと思って許してると……、この人調子に乗るからな」
「え!? 皆さん、私の扱い酷くないですか? もう少しくらい優しくしてくれたって良いじゃないですかぁ!」
男子生徒からの忠告じみた言葉に、遠慮なしの全力のハリセン攻撃を受けた後、止めをさすように額をぶつけていたはずのジーシェ先輩はすかさず反応し、違和感もなく普通に会話に参加してきたことにおじさんはとても驚いたわぁ。
ジーシェ先輩はやはり不死身なんだろうか……。結構、さっきのハリセン攻撃は痛そうだったけどぉ。
……性別を女性に間違われるのは、生まれつきの顔だし諦めたけど……、流石にセクハラされるのは嫌だから、男子生徒の忠告に縦に首を振っておいた。
――ジーシェ先輩、貴方の扱いが酷いのはもう諦めた方が良いと思います。
と、そう考えながら、男子生徒が担ぐように持っているハリセンを呆然と見つめていれば、それを持っている当本人からまるで壊れ物に触れるような手つきで頭を撫でられたことにより、ノーリは感情的ではなくなったものの、頭痛の痛みからか無表情になっていた。
「ああ、そう言えばまだ名前教えてなかったな。俺はトーゴ ノイノアだ。
ハルクとは見た目はあまり似ていないけど、双子なんだ。ちなみに俺の方が先に産まれたから、俺が兄。
珍しく弟が気に入ってるようだし、困ったことがあれば何でも言ってくれよ?
教えられることなら教えてやるし、悩んでいることがあれば相談に乗ってやるからよ。困ったことがあってもなくても、遠慮なしに話しかけて来てくれよ」
と、珍しく無表情になっているノーリを気にしながらも、トーゴ先輩の気遣いはとても有難いのも事実だから、おじさんは何度も何度も首を縦に振った。




