初等科編1
担任はルト先生だった。やっぱり、何処か面倒くさそうに自己紹介をするようにと言ってきて……。
それでも生徒達はルト先生のその指示に従って、自己紹介を始めていく。
何人か終えた後におじさんの番が来て、焦ることなく営業スマイルを浮かべながら、模範的な自己紹介で済ませておいた後、身長差の関係上でノーリと席が離れている状態にある今、早く今の時間が終わってくれないかと……、そればかりを考えているの。
何かノーリの様子もおかしいしぃ、何時でも直ぐに駆け寄れるように気を張っておかなくては……。
ノーリが自己紹介する番になった時、立ち上がった瞬間に前髪らへんを握り締めたまま、その場でしゃがみ込んだのを見て、やっぱり……と考えつつ、そう考えたと同時に駆け寄る。
「ノーリ……。薬は?」
「……ああ、自己紹介しようと立つ前に飲んだよ。クラ、俺は平気。平気だからそんな悲しそうな顔をするなよ。俺は“お前の前からいなくならない”から」
おじさんが聞いたことに対して、ノーリは痛みからか冷や汗を掻きながらもそう言ってくれたの。
だけど、それでも心配だった。どんなにノーリが平気だと言っても……、センリ先生の言葉が頭を過る度に、いつか突然死んでしまうのではないかと。
「せめて、寮に戻ろ?」
ノーリがこの状態になる時、どうしてもおじさんは表情を隠すことが上手く出来なくなってしまう。
きっと今、……不安でいっぱいな表情を浮かべながら、恐怖で震えた声でそう言ったのだろうと思う。
そんなおじさんの頬を、十歳とは思えないくらいの大きな手が撫でた後、
「……それでクラの気持ちが落ち着くなら、俺はそれで構わないよ」
と、痛みで顔を歪めながらもノーリは、優しい声でそう言ってくれる。
大人しく、ノーリが寮に戻ってくれると聞いて少しだけ安心した。
そんなおじさんを見てルト先生は、相変わらず面倒くさそうにため息をつきながら指をパチンと鳴らしたその瞬間、ほぼ一瞬で指先に魔力が集まっていた。
「……はあ。そんな状態のまま、クラスに居させたとセンリに聞かれれば俺が怒られる。特別に、瞬間移動で寮の前まで送っておくし、早退したことは俺があとで報告しておくから、今日は大人しく帰れ。ノリトの状態は表情から見てもわかるくらい酷いし、クラトルは付き添って居てやれ」
と、そう一方的に言った後に、ルト先生がもう一度指を鳴らした時には寮の前におじさん達はいた。
頭痛のあまりの痛みから、歩くのもままならないノーリを腰に腕を回すことで支えながら、受付の女性に声を掛けた後、寮の玄関から数分で着いてしまうくらいしか距離がないはずのおじさん達の寮室までその五倍以上の時間をかけて、やっとベッドへと横にならせることが出来た。
本来なら、称号者は一人部屋を与えられる。おじさんの感覚からすれば、二人くらい暮らしても不便のない広さだったから、ノーリのこの頭痛が何時くるかもわからない不安で、理事長に理由を話して同室にさせてもらっている。
――理由を話してまで、ノーリと同室にさせてもらって良かった……。
と、そう考えながら、ベッドの隣に置いてあるお手頃サイズな机の上に必要な物を用意した後、ノーリの状態が安定するまでの間、膝枕をする。
時折、額に掻いている冷や汗を拭きながら利き手ではない手は、痛みに苦しんで爪を立てながら握り締めている手を包み込むように軽く握り締める。
そんなことを繰り返し続けているうちに、ノーリはやっと眠りについた。
それはノーリが頭痛に苦しみ始めてから、四時間経った時のことだった。
◇◆◇◆◇◆
気がつけばもう、夕方になっていた。
こうやって、ノーリは頭痛との痛みに勝った後、眠りにつくの。
……夢として見る、予知を見るために。
予知とは、おじさんはけして良い能力ではないと思う。……何故かって? 予知を見る前に、ああ言う風に前兆みたいな頭痛に襲われてしまうと言うのもあるし、脳にも負担をかけるようで予知を才能として持つ者は短命だから。
ノーリの場合、レベル五で才能が有りすぎるから、よりその頭痛の痛みは強力で、脳の負担も大きい。
でも、ノーリの場合、回復力が高い体質であることから、月に二、三度くらいまでの頻度の予知だったら脳に負担をかけずに、予知の前兆の時に薬を飲めば身体が耐えることが出来るし、短命にならずにすむかもしれないともセンリ先生にそう言われているけれど……。
予知が一ヶ月に、四回来てしまえば必ず脳に負担をかけるとも言われてて。
昼間は平気なの。学園内にはたくさん人はいるし、心は安定してる。
でもね、おじさんは夜になると不安定になるの。だから、どうしてもノーリの側から離れられなくて。
十歳だと言うのに、未だにノーリと一緒に眠らなければ不眠症の状態になり、不安で一睡も出来なくなる。
いや……、正しく言えば、予知が身体に負担になると知ったのはおじさんが九歳六ヶ月の時。そう知った時から一人で眠ることが出来なくなった、そう言った方が正しいかも……。
おじさんの不安定な気持ちを、ノーリは嫌がることなく受け止めた。
もう、その時点で取り返しのつかないくらいにお互いに“親友”として、依存していることは周りからもわかりきった事実となったのかもしれないねぇ。
と、そう考えながら、包み込むように握っていた手を離した後、膝枕をするのをやめたおじさんは、壁の方へと顔を向けるノーリの背中に寄り添うように眠りについたのだった。
次に目覚めたのは、午前五時頃だった。
おじさんよりもノーリの方が早く起きていて、優しくて柔らかい微笑みを向けられた後、こう言われる。
「おはよう、クラ。お前って奴はしょうがない子だな、クラまで制服のまま眠っちゃって。揃いも揃って、予備の制服で通わなくちゃいけないじゃないか」
と、そう言いながらも、ノーリは少し寝癖のついた髪を撫でてきた。
――良かった。冗談がいえるくらいに、ノーリが元気になっていて。
と、そう考えた後、おじさんは安堵のあまり口許だけ緩ませたのだった。




