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(7)

 フェイトは、旅に出たところから、事細かに、時に私感を交え、時にいらん描写を交え、時に脚色をし、といった具合で語っていた。いた、のだが。


「・・・・・・さん、アインさん、何立ったまま寝てるんですか、無駄に器用ですよ! 僕が一生懸命説明してるって言うのに、失礼じゃないですか!」


 俺は、あまりの長さに、途中で眠ってしまっていた。


「悪い。それで、え~っと・・・・・・三回目の盗賊に身包みはがされかけて、なんだって?」


「命からがら逃げたところで四回目の盗賊にあってそこでアインさん登場です・・・・・・って、もう話おわっちゃいましたよ!」


 肩をつかまれ、前後にがくがくと揺さぶられる。


「まぁまぁ、そのくらいにしておけ」


 シーダートが欠伸をかみ殺しながらフェイトを止める。


「シーダート様、今欠伸しようとしてましたね、酷いじゃないですか!」


「落ち着け、フェイト。え~、つまりお主、五日前にこの国を出て、その直後に盗賊に会って装備品を奪われ、二回目で有り金の殆どを奪われ、三回目でその他の持ち物を奪われて身包みはがされかけて逃げた所をアインさんに助けていただいたと」


「そうです」


 フェイトが頷く。


「そして、奪われた物の中には王宮魔導師証と、わしがお前に頼んだ手紙が含まれていると」


「その通りです」


 いや、その通りです、じゃないだろう。どれだけこいつは間抜けなんだ。


「・・・・・・馬鹿者! 何がその通りです、じゃ!」


 シーダートが怒鳴る。全くもって、その反応は正しいと思う。

 もし俺がシーダートでも同じ反応をするだろう。


「ごめんなさいシーダート様ぁっ!」


 フェイトが涙目でぺこぺこと頭を下げる。

 だったら最初からもっと申し訳なさそうな態度をとればいいのに。


「まぁ、お前が間が抜けていて運が悪いということを知っておきながら一人で行かせたわしにも責任はある。それに、他に人がおらんかったからお前一人で行かせたが・・・・・・言っちゃ悪いが元々お前一人でちゃんと役目が果たせるとはわしは最初から思っておらんかったから、手紙も予備がある」


 あまりにも酷い言いようだ。だが、それを聞いてフェイトの真っ青な顔が、急に明るくなる。本当に良いのか、それで。


「今回は特別に許してやろう」


「ありがとうございます!」


 それもそれでどうかとは思うが、フェイトが嬉しそうだから、俺は何も言うまい。

そして二人は俺の冷たい視線に全く気づかずに、師弟で仲直りの抱擁をする。っていうか、俺、存在を忘れられてないか。


「お取り込み中悪いんだが」


 俺が一言発すると、案の定二人がはっと息を呑みお互いから手を離し距離を取り、シーダートはその後咳払いをした。


「いやすまんすまん、みっともないところをみせてしまった。で、何かな?」


 若干シーダートの頬が恥ずかしさで赤く染まっている。

ジジイの赤く染まった頬なんか、見たくないんだがな。


「いや、俺が用があるのはフェイトの方だ」


 と、言ってその横のフェイトを指差す。


「え、僕ですか?」


 きょとん、とした顔。こいつ、まさか約束をすっかり忘れているんじゃないだろうか、と不安になる。


「ああ、お前だ。まさかとは思うが、約束忘れてないだろうな?」


「やくそ・・・・・・、あっっっっ!」


 大声を出すフェイト。

やっぱり、忘れてたのか。

このまま忘れられていたら、何のためにここまで付いて来てやったのかまったくわからなくなるところだった。


「あ、ごめんなさい僕うっかり・・・・・・別に、約束を果たす気が無かったわけでも、あれが口からでまかせだったわけでもなくですね、ただ、そう、あれです、心配だったことが円満に解決してほっとしてたらついうっかり!」


 ついうっかり、じゃないだろう。

 とは思ったが、口に出すのはやめておいた。

 ここで何か面倒な風に話がこじれたり脱線したりするのはなんとしても避けたい。

 それに、一回話し出すとフェイトは口がなかなか閉じないので、余計なことは話させないほうが得策だ。


「なんじゃ、その約束ってのは」


 シーダートがフェイトに尋ねるが、フェイトはあのぅ、とか、そのぅ、とか言って一向に本題を喋ろうとしない。

 普段は頼んで無くてもあんなに喋るのに、喋るべきときに喋れないなんて、その口は一体何のために付いているんだ。

 まぁ、言いづらいフェイトの気持ちもわからないでもない。

 勝手に師匠の持ち物を他人にあげる約束をして、いざ言わないといけない時の気まずさは、解らないでもない。別に俺は実際にそういった場面に遭遇したことは無いけれど。

 だが、その気まずさと約束、というよりも報酬については全く無関係だ。

 フェイトが怒られようとなんだろうと、俺には全く損害はないし。むしろこのまま引き下がるほうが俺にとってはマイナスだ。


「俺は、フェイトと約束・・・・・・というよりも、契約をしたんだ。フェイトの護衛をする代わりに、報酬として魔力結晶をもらうと」


 全く話が進まないので、仕方なく自分でいうことにする。

 全く、役立たずの口だな。


「ほう、なるほど。ほら、早くアインさんに魔力結晶をお渡ししなさい」


 シーダートがフェイトを促す。が、フェイトは動かない。


「おい、早く渡さんか。そういうお約束なのじゃろう?」


 シーダートに背中を押されて、やっとフェイトが口を開く。


「実は・・・・・・僕、シーダート様の魔力結晶をお渡しするって言っちゃったんです」


 てへ、と力なくフェイトが笑う。


「・・・・・・ばっかもーんっ!」


 ばきい、と手近な壁を殴りつけ、怒りに打ち震えるシーダート。

 俺はその後、こんな面倒なことになるんだったら最初からフェイトを助けたりしなきゃ良かったかもしれない、と思いながら一時間に渡ってお説教されるフェイトを眺めていた。


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