(5)
折角なので、フェイトの言う通り、商店街を眺めながらゆっくりと歩く。どうせ早く行ったところで、フェイトの母親の準備も終わってないだろうし、家についたらおそらくあのフェイトの事なので放っておいてはくれないだろう。だとしたらゆっくりできるのは今の間だけだろうし、それにこの国の話も聞けるなら聞いておきたい気持ちもある。
勿論、ここに来るまでに調べられることは調べてきたが、国と国が隣接していてもたまに情報が間違っていることもあるし、それにどうもここ最近で事件が起こっているらしいことも気になる。
一般の国民に聞いてわかる程度の問題かどうかという事はひとまず横にでも置いておこう。
話を聞かせてくれそうな人を探しながら、道を迂回しながら歩いていると、石畳の少し広い空間に出た。いくつかの道を残しながら円形に花壇が設けられており、その花壇の内側にベンチがあった。そして、円の中心に背丈程の台座と、その上に大人二人でやっと抱えられるくらいの大きさの巨大な球が置いてあった。昼間に見たら、恐らく綺麗な青色に見えるのだろう。日の落ちた今の時間では、いまいち綺麗とは言えない色になっているが。
「おや、旅人さんかい?」
台座と球を観察していると、後ろから声をかけられたので、振り向きながら返事をする。
「ああ。ついさっき入国したんだ」
振り向いた先には、恰幅の良い女性が立っていた。
「そうかい。どこから来たんだい?」
「遠いところだ。ずっと旅をしている」
答えになっているのかなっていないのかと我ながら疑問に思う返事をすると、一応彼女は納得したらしくうんうんと頷いてみせた。
「そうかい、なんか大変そうだね」
彼女は人の良さそうな笑みを浮かべながら、そう言った。
「ところで、あなたは?」
「ああ、私かい? そういえば言って無かったかもね。私はそこの土産物屋の店主だよ」
そう言いながら、道の向こうの土産物屋を指差した。果たして、土産物屋の店主が店をほったらかしていていいのか、と疑問に思った瞬間、彼女はその心中を察したかのように話し出した。
「とは言っても、最近商売上がったりでね・・・・・・今日は、客が一人も来てないんだよ。今日だけじゃなくて、昨日もさ。すこし前までは少なくても一日50人くらいは来ていたのに、最近じゃあ多くても一週間に一人くらいさ」
彼女はいやになっちまう、と言いながら首を振る。
「そうなのか。なんで急に観光客が減ったんだ?」
そう訪ねると、彼女は不満そうな顔で首を傾けた。
「詳しいことは知らないんだけどね、なんか王宮の方で問題が起こったとか、なんとかっていう噂は聞くよ。王宮は大変なのかもしれないけどね、私達だって、毎日の生活がかかってるからね。早くなんとかしてほしいもんだよ」
どうやら、国民には説明をしていないらしい。ということは、よほどの一大事なのだろう。苦労して入国したのだが、場合によっては今すぐ出国した方が良いかも知れない。
今後の身の振り方について思案しながら何気なく辺りを見回した時に、ふと視界にあの台座と球が入った。
「そういえば、あれはなんだ?」
俺は台座と球の像を指差しながら訪ねる。
「ああ、あれかい? そういえばさっき、あれを見ていたね」
そうなのだ。あれについて、誰かに質問しようと思っていたのに、うっかり失念していた。今日はペースが崩れまくりだ。それもこれも、多分あの金髪の少年のせいだ。多分、だけど。
「あれは、この国を守り神だっていう石のレプリカだよ。王宮に奉納されてるっていうんだけどね、あんな石が一個あったって、邪魔なだけだろ?だからさ、私は多分ただの伝説だと思うよ」
「そうか、ありがとう」
軽く頭を下げると、彼女はいいのいいのと俺の肩を叩いた。案外力が強くて、叩かれた場所がじんじんした。
「あたしも、客が来なくて暇だからさ、こうやって話出来て嬉しかったよ」
そう言う彼女に重ねて礼をし、その場を後にした。向かうは城門では無く、フェイトの家だ。
どうやら、俺はまだこの国で確かめることとやらなければならないことが残っているようだ。




