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「・・・・・・貴様、その目!」


 俺の、眼帯の落ちたほうの目を見て、ホーネットが呟く。


「目・・・・・・?あ、水色?」


 斜め下のほうで、フェイトの声がする。


「なるほど。貴様はあの時の天天空の一族のできそこないの小僧か。しかし、どういうことだ?あの時貴様の片目は私がありがたく使わせてもらったはずだぞ?しかも、私がこの悪魔の精神を乗っ取るのに二百年は掛かったはず・・・・・・」


 その隙に、俺の胸倉を掴んでいるホーネットの右手の手首を蹴飛ばし、それと同時に身をよじり地面に着地し、落ちていた剣を拾った。ずきん、と身体中に痛みが走るが、気にしてる場合では無い。


「え、何ですかアインさん、どうなってるんですか、天空の一族って?しかもその目は一体・・・・・・」


 目は魔力を司る器官。その目が水色ということは、天空の魔力を多く宿しているということ。それくらいの基礎知識は、どうやらフェイトにもあったようで少し安心した。


「だってアインさん右目は茶色いのに・・・・・・それにアインさん、騎士じゃないですか!」


「その話は後だ。離れてろ。邪魔だ」


 後でもこのことについて話をするつもりは無いが、そうとでも言わなければフェイトは引き下がらないだろう。

 俺はフェイトとホーネットの間に立つように体を移動させ、ホーネットと正面から向かい合う。


「もしや貴様、天空の神と契約したのか」


 ホーネットは俺に蹴られた右手を持ち上げ、その手のひらに魔力を溜めながら問う。


「答える義理は無い」


「ほう、良い返事だ」


 ホーネットは右手を振りぬく。

 先ほどと同じように、衝撃波が発生し、こちらに向かってくる、が、俺だって同じ技を二回も受けてやる程お人好しではない。とは言うものの、避けると後ろにいるフェイトに当たるので、避けるわけには行かない。

 ぐっと歯を食いしばり、剣を正面に構える。

 左目の封印が解かれていてよかった、と思いながら衝撃に備える。

 もしかしたら、あの性悪のことだから、こうなることを見越して封印を解いておいたのかもしれないが。


「・・・・・・っ」


 そして訪れる衝撃波を、剣で受け止める。踏ん張り、耐える。恐らくその間一秒足らずで、衝撃波が剣を中心にして左右に裂けていく。


「その剣、魔剣の類か」


「それにも、答えてやる義理は無い」


 実際、この剣は天空の神に授けられた魔剣なのだが、わざわざネタばらししてやる必要はどこにも無い。


「先ほどはそれをやらなかったと言う事は、その瞳の封印が解かれている間で無いとその魔剣は効力を発揮しない、ということか。それともその私の魔法を切ったのは、お前の魔法か?」


 さすが、腐っても天才魔導師ではある。

 確かにその通りで、補足するとこの魔剣は魔法の媒体となり得るもの、つまりフェイトの持っているような杖のようなものなのだ。

 ただ、天空の神の加護があるため、人間の作るどんな杖よりも魔力の媒体としての機能が高く、硬度も切れ味も桁違いなのだが。


「教えてやる程、やさしくは無い」


 先ほど魔法を斬ったのはこの剣で、この剣に魔法を斬る魔法をかけたのは俺だ。

 まさかたった一発だけで見破られるとは思ってもみなかった。


「ふん。威勢だけは良い様だ」


 そして、ホーネットは五発ほど連続で衝撃波を放ってきた。

 剣で攻撃を防ぎながら、考える。

 こんな単調な攻撃が通用するとは恐らく思っていないはずだ。と、なると狙いはどこか別にあるはずなのだが。

 気がつくと、あたりは土煙で視界が悪くなっていた。

 はっとして、辺りを見回す。

 先ほどホーネットのいた場所には、最早何もいなかった。


「アインさん!」


 フェイトの声。


「っち・・・・・・」


 瞬間、事態を理解した。

 そしてゆっくりと振り返ると、予想通りフェイトを人質にとったホーネットが立っていた。


「抜かったな。この屋敷に入ってきた時から、お前たちの行動は見させてもらっていたのでな、貴様はこのひよっこを見捨てられないのだろう?」


 くっくっく、と不快な笑いを浮かべながらホーネットはフェイトの喉元に、魔力を溜めた右手を近づけていく。

 屋敷に入ったときの違和感は、つまりこれだったのか。

 誰かに魔法で観られている感覚。

 ここ最近そういった事が無かったせいで、感覚を忘れてしまっていたらしい。自分の迂闊さに腹が立つ。


「では、その剣を地面に置いてもらおうか」


「・・・・・・」


 屈んで、地面に剣を置こうとした瞬間、ホーネットの右手がフェイトの喉元を離れ、こちらに向けられるのが見えた。

 その瞬間、地面を蹴る。

 それと同時に魔法を発動させる。

 魔法をかけるのは、自らの足。

 ホーネットが俺に向けて魔法を放ったのが見えた。

 次の一歩で、横に飛びのく。

 久しぶりにかかる足への負荷。さっきかけた魔法の効果で、通常の倍以上の速さで、通常の倍以上の距離を移動する。

 五歩の間地面を蹴ると同時に、エネルギーが逆噴射し、加速させる魔法。


「何っ」


 ホーネットが再び右手に魔力を集め始め、そしてその手をフェイトの喉元へ戻していく。俺を直接狙うより、そっちの方がいいと判断したらしい。

 確かにそれは正しい判断だが、もう遅い。

 それをやるならさっき、俺が剣を置いた隙を狙うのでは無く剣を置いて丸腰になったのを確認してから俺に魔法を放つべきだった。

 ホーネットの右手がまだフェイトの喉元に達する前に、俺は地面を蹴り、ホーネットの前に着地し、ホーネットの右手を切り落とす。

 間髪入れずにもう一度地面を蹴り、その勢いでホーネットの顎に回し蹴りを放つ。これで三歩目。

 そして、フェイトの襟首を掴んでそ出口の方向へ跳ぶ。

 体重が重くなった分飛距離が落ちたが、何とか速度だけは保ち、二歩。合計五歩。

 ホーネットから五メートル程離れたところで振り返る。


「っく・・・・・・」


 ホーネットは右手だった場所を押さえて呻いていた。


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