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終末世界、AIと生きていく  作者: 雛月 みしろ
1章:”シエスタ”
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8/8

2053年9月19日 午前:南r-26a地区

 目が覚めて布団から出る。カーテンを開けて外を見る。今日は曇りのようだ。

「おはよう、“ルシエラ”」

『おはようございます、“ユラ”。只今の時刻は2053年9月19日午前7時20分です』

今日はいつもより少し起きるのが遅かったなぁ。と言っても今日の用事は“シエスタ”の所に行くだけだからそこまで問題ないけど。

「ありがとう。私が寝ている間に何かあった?」

『いえ、何もありませんでした』

昨夜も何もなし。いつも通り。そう、いつも通りの朝だ。

「そっか、今日はお昼ごろに“シエスタ”の所に行ってくる」

『わかりました。現在南r-26地区方面は曇りですが遠方に雨雲の可能性がある雲が確認できるので折り畳みを持っていくことをおすすめします』

もしかしたら雨が降るかもしれないの嫌だなぁ。でもここ最近は雨でもそこまで強く降る日は珍しいし雨雲の可能性がある雲だったら土砂降りになることはないはず。

「ありがとう。あとどれくらいでこっちに来そう?」

『あと3時間ぐらいで南r-26地区に到達すると思われます』

3時間ぐらいなら9時に出ればどうにか間に合うかな?

「わかった。今日は9時に出るね」

『かしこまりました』

私はいつも通り“ルシエラ”との会話を終えてキッチンに移動する。棚から昨日までと同じ保存食と水を取り出す。昨日今までと違う保存食を補充したけどまだ数個今までのものが残っている。テーブルに戻り朝食を食べ始める。いつもと変わらない味。いつもと変わらない食感。いつも通り時間が過ぎていく。


服を着替えて出かける準備を進めていく。鞄にお昼に食べる保存食を入れて必要な物が入っているのか確認をする。今日は雨が降るかもしれないから絶対に折り畳み傘が入っているかを確認しないと。

「よし、全部入っている。“ルシエラ”今何時?」

『只今の時刻は8時47分です』

いつもより準備に時間かかっちゃったや。

「ありがとう。それじゃあ少し早いけど“シエスタ”の所に行ってくるね」

『かしこまりました。お気をつけて行ってらっしゃいませ』

私は鞄を取り玄関に向かう。

「行ってきます」

そう言い私は外に出た。


 私は曇天の空模様の中、一昨日通った道とは違う道を歩いている。気温は体感25度ぐらい。この世界が終末を迎えてからは基本的に雲で覆われているからか昔のような酷暑は無くなった。けれど冷房の快適さに慣れていた身体では長時間の探索は今でも少しきつい。……せっかく過ごしやすい気温なのだからこれ以上は思い出さないでおこう。それにしても家を出てから1時間は経っているはずだけれどすでに雲行きが怪しい。あと30分くらいで“シエスタ”の所に到着するはずだけれど間に合うかどうか。そう思っているとぽつぽつと雨が降り始めて来た。

「うわっ、最悪」

しかも雨はどんどん強くなっていく。こんな状態では歩きたくない。時間には余裕があるから雨脚が弱まることを願って少しだけ雨宿りをしていこう。

「近くの建物は……あった」

私はぱっと目に入った建物に入った。

「……懐かしいな」

私が雨宿りのために入った建物は私がよく知る建物だった。そこは同人イベントに使われていた建物だった。私も伯父さんと一緒に何度もここを訪れていた。

「……もし、“あの日”が無かったら今年も伯父さんと一緒にここに来ていたのかな」

……やめやめ、これ以上考えちゃうと昨日と同じようになって動けなっちゃう。私はしゃがみ込み、壁にもたれかかる。

「ここで待てるのも1時間くらいかなぁ。早く弱くならないかなぁ」

そんな私の思いとは裏腹に雨は地面を強く打ち付け続ける。


「~♪」

あれから30分くらいが経っただろうか。雨は弱まることはなくただただ雨音を聞きながら待つことに飽きた私は歌を歌っていた。何も気にすることなく思いっきり歌えていた。別に家で思いっきり歌っても誰にも怒られることはないけれどそれでも“ルシエラ”がいるから傍聴者がいた。けれど今ここには私以外はいない。私の歌は誰かに聞いてもらうことはできないけれど今はそれが心地よかった。私にとって音楽とは救いだ。だからこそ自分の歌が誰にも知られないという一見寂しい時間が好きだ。歌い終わりふと外を見ると雨脚は弱くなっていた。

「これくらいならもう出発してもいいかな?……でも、もう少しだけ歌いたい」

久しぶりに思いっきり歌って気分がよくなっていた私はもう少しだけ歌いたいという気持ちが沸き上がっていた。

「……もう少しだけなら」

そう思い私はまた歌い始めた。数十分後に後悔する事なんて知らずに。


 私は今、再び強くなった雨の中を歩いている。上機嫌だった私の気分は地の底まで急降下していた。あのあとすぐにまた雨が強くなり弱まることはなかった。別に雨が嫌いというわけではない。むしろ好きだ。地面に、屋根に、窓に、当たる音は聞いていて心地よい。なんなら散歩に出ることだって好きだ。けれど探索をしようと予定を立てていても雨が降っていたら部屋で過ごしたりする。そもそも強く降るときは可能な限り外に出ない。足元は悪くなるし、外で手帳に書き込むことが難しくなる。それでも雨の日を嫌いになることはなかった。

「こんな日に外を歩くのはいつぶりだろうなぁ」

ほんとに昔のこと。“ルシエラ”と2人ぼっちになったばかりの頃の話。あの頃の私は家族や朝日だけでなく日常の風景から人が消えたことを受け入れられなかった日が多かった。それでも必死に誰かいないかとがむしゃらに探し続けた。雨でも関係なく。とにかく人がいそうなところを探し続けていた。そんな日々を過ごしていたら私の方が先に限界を迎えてしまった。あの日もこんな雨の日だった。深夜に目が覚めてしまって、寝ようと思っても寝れなかった日。頭が変に冴えていて考えたくないことを考えてしまい勝手に限界を迎えてしまった。もともとかなり限界ギリギリだったからすぐに限界を超えてしまった。それでそれまで見て見ぬふりをしていたものを、押し殺していたものを感情のままに“ルシエラ”にぶつけた。それでも自分の本心をうまくまとめることができなくてそこにいることが嫌で傘も持たずに外に飛び出してあてもなく歩いた。あの日の雨の冷たさを今でも鮮明に覚えている。あの時は本気でその冷たさが私のことを救ってくれるって思っていたっけ。結局歩き疲れた頃には頭が冷えて正気に戻って家に帰った。あの時からか。朝日の言葉が私にとっての呪いになったのは。そんな思い出を思い出しながら私は“シエスタ”のもとに向かうために歩き続けた。

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