第6話 相棒の名はバルフェリア
※本作にはTS要素があります。
右手の甲にくっついた目玉。
コイツが言うことを信じるなら、ここはダンジョンの最奥、らしい。
テレポーターの罠で、そんなところにピンポイントで跳ぶことある?なんて不審に思う。
しかし噂では、テレポーターで壁に埋まってしまうこともあると聞く。
きっと、不思議なことではないんだろう。
「あー、マジかよ!どうすりゃいいんだよ……」
俺は力なく、膝を抱えてしゃがみ込む。
……胸がつっかえて邪魔だな。
『そう落ち込むな。出たければ、一層まで行けばいいだけのことよ』
「お前なあ……」
目玉に慰められるとは。
しかしコイツ、自分がどれほど無茶を言ってるか分かってない。
……あれ。
そう言えばコイツ、名前とかあんのかな?
「なあ、お前、名前はあるのか?」
『何じゃ、藪から棒に』
ふと気になった。
こうなると、教えてもらわないと気が済まない。
というか落ち着かない。
コイツも人と話すの好きそうだし、名前があるなら聞いておきたい。
「いや、これからしばらく?一緒にいるんだし……お前呼びのままじゃ、なんか失礼だろ」
『カカカ、甘ちゃんじゃのう。……だがの、目下のものが目上のものに名を聞く方が失礼ではないか?小娘』
「は?いつお前が目上って決まったんだよ」
『力の差を見るに、歴然だと思うが?』
ぐぬぬ、口の減らない目玉だ。
「うるせえ!しかも小娘て、お前がやったんだろ、これは!」
『カッカッカッ!』
「あと!……俺の名前は、アレクサンダーだ。みんなにはアレックスって呼ばれてる。で?お前の名前は?」
目玉は、俺の名前を聞いて高らかに笑った。
『ハッハッハッ!お前のような弱者がアレクサンダーとは!とんだ名前負けじゃのう!』
「あーもう!じゃあこれから強くなりゃいいんだろ!」
『それはそうじゃが……クク、これからはアレクサンドラと名乗った方が良いな』
「は?なんで女名なんだよ」
『貴様の今の姿を考えろ』
「……あ」
『自らをアレクサンダーと名乗る女など見たことが無いわ。愛称も変わらぬし、よかろうよ』
確かにそうだ。
そうなんだけど、なんか気に入らない。
とはいえ地上に出られた時、万が一、奴隷商やクズ冒険者どもに、素性がバレるようなことがあるとマズいかもしれない。
「……わかったよ。アレックスを名乗りゃ変わらねえし。で?お前の名前は」
『おお、そうじゃったそうじゃった』
おい。
コイツ、マジで忘れてやがったな。
『妾の名はバルフェリア。ゆめゆめ忘れるなよ、アレクサンドラ』
「せめてアレックスって呼べよ!」
『カカカ、よろしく頼むぞ。アレックス』
「まったく……よろしくな、バルフェリア」
『うむ』
しかし、バルフェリアか。
おとぎ話で聞いたことがある。
確か、力と支配の象徴。
なんでも、強すぎるがゆえに敵が多く、騙し打ちで成敗されたとか何とか。
いくら強くとも、力を誇示しすぎると痛い目を見るーーそんな、ありがた〜い教訓のおとぎ話だ。
まさか本人、じゃないよな?
ずーっと昔の、大体三百年ほど前のおとぎ話だぞ?
……まあ、考えても仕方ないな。
今はもっと大事な話題がある。
「ところでバルフェリア」
『何じゃ?』
「最奥って言ったけどさ、ここ、何層なの?」
『貴様、何を言って……ああ』
バルフェリアは何かピンときた目つきをしている。
単眼の目玉なのになんか分かる。
表情豊かだな。
『貴様ごときが単独でここまで来るなど、不可能じゃしな。罠で跳ばされてきた口か』
そうだよ、その通りだよ。
つーか、いちいちひと言多いなコイツ!
とりあえず無視無視、話が進まん。
「で、どうなんだよ」
『二十層じゃ』
聞き間違いかな?
「なんつった?」
『二十層じゃ』
血の気が引く。
俺が跳ばされてきた七層でも、冒険者たちはダンジョン奴隷を囮にして、安全を担保にした上で戦っていた。
もちろん、アイツらなんか冒険者として下の下だろうが、それでも俺なんかより圧倒的に強かった。
それなのに……二十層?
そんな深い階層に、俺一人?
「……なあ、バルフェリア」
『ん?』
「あのさ、お前の力ってこの状態でも出せたりすんの?」
『ああ、それ自体は可能じゃぞ』
希望が見えた!
俺はすがるような気持ちで、バルフェリアに提案する。
「じゃあさ、その力で魔物をなぎ倒しながら脱出って、どう?」
『……妾は、構わんぞ』
「それなら――」
『その代わり先も話したが、貴様は妾の魔力に耐えきれず、恐らく憤死するが、構わんか?』
は?
確かに“自らを痛める”とは聞いたけど……死ぬなんて聞いてないんだが!?
「待て待て待て、苦痛にのたうつ程度じゃねえの?それでも嫌だけどさ!」
『そうじゃのう。貴様の今の、極細とも言える魔力回路に、妾の魔力を流すとなると――うむ、ほんの少しで耐え難い激痛、全力で流せば身体が破裂する程度じゃな』
「さらっと言うじゃん……」
『隠しても仕方なかろう。それに妾は事実を述べたに過ぎん』
コイツの言うことが真実なら、どうしようもない。
しかし、もしかしたら俺をビビらせるために盛って話してる可能性もある。
それに死なないなら……試してみるのもありかもしれない。
脱出のために使えるものは、使いたい。
「なあ……」
痛いのは嫌だが、今のうちに試すしかない。
心臓の鼓動が、少し早くなる。
「死なない程度の、ほんの少しの魔力を、一度流してくれないか?」
俺の提案を意外と言わんばかりに、目玉は文字通り、目を丸くした。
『……正気か?』
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