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ダンジョン奴隷だった俺、封印魔人と融合して美少女になり、最奥から強者を叩き潰す  作者: あきお
第二章 オークリッジの街で

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第59話 人垣の熱気、路地の死臭

※本作にはTS要素があります。

「銀髪の女ぁ?」



低級宿の主人は頬杖をつきながら、面倒くさそうに言う。


北門と東門の間にある、木造の小さな平屋の宿。

ドアのない、布で仕切られた部屋からちらりと覗くのは、所狭しと置かれた複数の二段ベッド。

低級宿って言うのは、こんなにも悪い環境なんだな……。


オスカーの家に転がり込めた俺たちは、運が良かった。

こんなところに泊まったら、朝には荷物が消えているかも知れない。


壁もところどころ凹んでいる。

暴力沙汰なんて日常茶飯事なのだろう。



「んな目立つ奴が来てたら、忘れねぇよ」


「そうですか……お時間を頂きました」


「おい、ちょっと待てよ」



宿から立ち去ろうとする俺たちを、宿屋の主人、髭面のオッサンが引き留める。



「……何ですか?」


「こっちは情報を教えてやったんだからよぉ、何か謝礼をもらえねえとよ」



オッサンはニヤケ顔で、あからさまに親指と人差し指で輪っかを作る。



「……見返りが欲しいなら、先に言ってもらえないと」


「あ?舐めてんのか?」


「それはこっちのセリフですけど。交渉は先にしてもらわないと」


「おーおーおー、イキってんな……おい!お前ら!」



オッサンの呼びかけを合図に、廊下の奥から四人の男たちがのそのそと歩いてきた。

男たちの右腕には、金属の腕輪が鈍い光を反射している。

……こいつらも奴隷か。



「タグを見て貰えば分かりますけど、私、Cランク冒険者ですよ?」



俺を威嚇するオッサンに、冒険者タグを見せつける。

主人の言うことを聞くしかない奴隷たちを、なるべく傷つけたくはない。



「……チッ」



苦々しい顔で俺を睨みながら、オッサンは舌打ちをした。



「さっさと行けよ、営業妨害だ。……お前らも戻れ!」



オッサンの号令で、奴隷たちはまた廊下の奥へとのそのそと歩いていく。

彼らの疲れ切った足取りは、待遇が悪いであろうことを簡単に想像させる。



「……では、お邪魔しました」



出ていく俺たちからオッサンは目を背け、“もう終わった”と全身で語っている。

俺は無意識に握りしめていた拳を解しながら、低級宿を後にした。



「ここはハズレじゃったの」


「うん。あと二つは――」


「ここからもっと東門に寄ったところに一軒、東門と南門の間に一軒ですね」



オークリッジにある三つの低級宿。

俺たちは単純に、ギルドから近いところから当たることに決め、ここに来たのだ。


粗暴で怪しいところがあるものの、あのオッサンの言葉からは嘘を感じなかった。

ああやって訪れたものを食い物にしているのだろうが、エリスとは関係ないだろう。



「こうしていても仕方あるまい。次へ行くぞ」


「承知しました。次は――」


「静かなる犬亭、か」




――――――




静かなる犬亭に近づくにつれ、喧騒が増えてくる。

すれ違う人も多いし、俺たちを追い越し、駆けていく人々も多い。

人の数がドンドン増えていき、既に自分のペースで歩くのも難しくなってきている。



「……何かあったのかな?」


「大通りから離れる東門側にこれだけ人が集まるとは……本当に何かあったのかも知れません」



ゆっくりと進んでいく俺たちの前に、静かなる犬亭を囲むように人垣ができていた。

人垣が邪魔で向こう側で何が起こっているのか、何も分からない。



「あの、すみません。何があったんですか?」



俺は仕方なく周囲の人に声をかけた。



「ああ、何でも殺人事件があったんだってよ!」



――殺人事件。

嫌な悪寒が首筋をなぞる。

もし、被害者がエリスだったとしたら……?



「あ、あの!被害者はどんな方ですか?」


「え?いやあ、ちょっと分かんねえな。衛兵にでも聞けば?」



ズバッと話を切られてしまったが、確かにこいつの言う通りだ。

詳しい内容を知るには、詳しい人物に聞くしかない。



「カイル、衛兵から話を聞こう」


「承知しました。行きましょう」



俺たちは人の間を縫うように、前へ前へと進んでいく。

俺だけなら隙間をするりと抜けていくこともできるが、カイルだけ置いていくわけにも行かない。

主人の姿がないところで奴隷が一人でいるなど、何をされるか。


俺たちは舌打ちと怒声を浴びながらも、前へと進む。

その間に、野次馬たちの事件を楽しんでいる下卑た笑い声が耳に障る。

人混みに揉まれるストレスは、なかなかのものだ。



「あの、少々伺っても?」



何とか最前列まで辿り着いた俺は、衛兵に冒険者タグを見せながら声をかける。



「Cランク!……なんでしょうか?」



おお、やっぱり冒険者タグの力、すごい。

さっきのところでも先に出しとけばよかったな……。



「殺人事件があったと聞きましたが」


「ええ、そこの路地前で」



衛兵は“静かなる犬亭”の斜向かいの路地を指差す。

その路地の脇の壁に、血痕がありありと見て取れる。



「被害者は、どのような方ですか?」


「あー、まあ、男性ですね」



男性。


その言葉に俺は、内心胸を撫で下ろす。

少なくとも、エリスではなくて安心した。


だが、“エリスじゃなかった。あーよかった。”で済ませてもいいのだろうか?

情報を得ようとした低級宿のすぐ近くで発生した、殺人事件。

……もしかしたら、極わずかでもエリスと何か関係があるかも知れない。



「……あの、よかったら何ですが」


「何でしょう、冒険者様?」


「――死体を、見せてもらえませんか?」



この提案に、衛兵はギョッとして俺に目を向ける。



「死体をですか?」


「はい。もしかしたら、私が追っている依頼に関係するかも知れないんです」


「うーん……」



衛兵は顎に手をかけ、悩んでいる。

見知らぬ人間がいきなり“死体を見せろ”なんて言い出したんだ。

悩むのも仕方ないが、信用してくれないだろうか……。



「分かった。まあ死体を解体したり、所持品を盗むことがなければ、いいか。

あんたみたいな物好きがいてくれると助かるよ。

こっちは早く片付けて飯に行きたいんだ」



衛兵は悩んだ末、頭をガリガリと掻きながら、俺を信用することに決めてくれた。


立場って大事だなと、改めてそう思った。



「じゃあ、こっちだ。案内しよう」



俺たちは衛兵に続いて、事件現場へと近づいていく――。

読んでいただきありがとうございます。

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