第16話 右か左か
※本作にはTS要素があります。
「あ、そうだ」
鎧野郎と戦った場所まで辿り着いた俺はふと思いついた。
石畳の小さい破片をいくつか拾い上げ、バッグにしまい込む。
『そんなもの、どうするのじゃ?』
「こういうものが、意外と役に立つんだよ」
『そういうものかのう?』
罠の解除にも役に立ったんだ。
かさばる物でもないし、持っていたって損はない。
「そういうものなんだよ。じゃ、進もうか」
いくつか破片を拾い終わった俺は、通路全体を見渡し、床や壁に罠はないか、魔物が潜んでいないかを確認しながら、慎重に進んで行く。
『のう、慎重なのは構わないのじゃが、この短剣を使う気はないのか?』
「そいつは、最後の手段でいいんだよ。だってさ、出会った魔物全てを斬り倒すなんて、俺には無理だと思わないか?」
『カカカ、それもそうじゃな』
「お前が常に力を貸してくれたら、大丈夫だと思うんだけどなー」
『……そうでもないと思うがな』
む、なんか引っかかるな。
バルフェリアの力を借りてもどうにもならない相手がいる?
いや……それは考えにくい気がする。
「ここってもしかして、お前でも勝てないような魔物がいたりする?」
『そんなことある訳なかろう!』
「じゃあ何が、そうでもないんだよ」
バルフェリアは悩んでいるように見える。
危険な事でもあるのか?
何か、言いづらいことが?
「なあ、教えてくれよ。俺の生死に関わるんだ」
『……うむ。実はな』
いつになく真剣なバルフェリアの言葉に、俺は息を呑む。
『……分からないのじゃ』
「へ?」
分からないって、何がだ?
俺は、歯切れの悪いバルフェリアの次の言葉を待つ。
『……その短剣に、どれほどの魔力を流せるのかが分からんのじゃ』
「どゆこと?」
『貴様の体に魔力を流すのと同じじゃ。この短剣も、妾の全力には確実に耐えられぬ』
「あー……。でも、ほんのちょっとだけ流して、俺を悶絶させただろ?あれと同じで調整すればいいじゃん」
封印されるほどの強大な魔人。
流された魔力量からも、コイツの存在感からも、それは疑いようがない。
そんな奴が、この程度のことに何をそんなに心配してるんだ?
『……苦手なのじゃ。微細な魔力操作が』
「え?」
『ほんのちょっとであったり、全力であるなら問題ないんじゃ。だが、精密なコントロールというのは、どうも苦手での』
得心がいった。
だから、歯切れが悪かったのか。
「つまり、短剣を破壊してしまわないか不安ってことか?」
『たわけ!そのようなことが……何を笑っておる!』
尊大で強力な魔人にも、苦手なことがあるんだと思うと、妙に親近感が湧く。
やっぱり弱点がある方が、可愛げがあるというか……。
気がついたら、俺の口角は上がっていた。
「いや、可愛いとこあるんだなって」
『貴様ごときが妾をからかうでないわ!痴れ者め!』
「わかりましたよ、お姫様」
俺の返答は、含み笑いで震えていた。
言葉は強いが、ただの照れ隠しであることが明白のバルフェリアが、妙に面白い。
もちろん俺は、こうして笑いながらも、視線だけは通路の奥を追っていた。
――――――
「なあ、どっちがいいと思う?」
『妾はどちらでも構わぬが?』
案の定の答え、期待はしてなかったけどな。
目の前には分かれ道。
一本道はここで終わり、二本の分岐が目の前に広がっている。
「ま、お前はそうだよなあ……」
しかし、俺としては死活問題だ。
右か、左か。
選んだルートによって、生存率が大きく変化する予感がする。
「どっちが正解か……」
右からは何か、微かにすえた臭いを感じる。
左からは、微かに風を感じる。
――そんな気がする。
重大な問題だからこそ、悩む。
だが、時間をかけてどれだけ悩んでも、通路を睨みつけてるだけでは何も起こらない。
生きるためには、行くしかない。
だが、自分の勘も信用しきれない。
――ならば。
「……よし」
俺は深呼吸をして、バッグに手を入れる。
中に仕舞い込んでいた、小さな石畳の破片をひとつ取り出した。
「早速役に立つときがきたな」
『それをどうするのじゃ?』
「こうするんだ、よっ」
ピシッ
指で弾いた破片は、空中で踊る。
そのまま落下した破片は地面を転がり、やがて左手の通路前で動きを止める。
「じゃ、左だな」
『……そんな運任せで良いのか?』
バルフェリアはあきれ半分、といった様子で言う。
「考えて何とかなるものは、全力で何とかするけどな。考えても答えが出ないなら、こういうのも悪くないだろ?」
『ううむ……ま、貴様が良いなら、それで良いがな』
「何にせよ、どっちかには進まないといけないんだし」
もちろん、不安がゼロという訳ではない。
これで失敗したなら、後悔するかも知れない。
ただ、それでも足を止めずに進むためには、無理矢理にでも選択するしかない。
今は足を止めることが一番まずい。
前進を止めてしまえば、また歩き出せる保証がない。
俺は右の通路に未練を残しつつも、左の通路へ足を踏み出した。
――頬を撫でた風が、俺を嘲笑った気がした。
読んでいただきありがとうございます。
よければブクマ・評価・感想いただけると励みになります!




