第15話 脱出の決意
※本作にはTS要素があります。
――夢を見ていた。
「チッ。なんだ、お前もスキル無しかよ!」
奴隷商に言われるまま魔水晶に手を触れた俺は、吐き捨てるように罵られた。
「いや、なんか出てますよ?ほら……“悪運”って」
「明確な技能じゃねえなら活用できねえだろ!こんなの無いのと同じなんだよ、カスが!」
「どうやって使うんだよ?どうすりゃ何になるのか教えてくれよ、おい!」
そんなの分かるわけ無いだろ。
「はは、ですよね〜……俺も知らないっす、すんません」
そもそもこの時、俺がスキルを持ってるなんて初めて知った。
それなのに、スキルの使い方がなんて知ってると思うか?
奴隷商とその取り巻きは、そんなことお構いなしに、更に言葉で俺を殴りつける。
「言い返すんなら剣技とか解錠とか、役に立つスキルを持ってから言えや!」
「ハハッ、ちげえねえ!っつっても、スキルは後天的には身につかねえから、無理なんだけどな!」
「ったく、今回はダンジョン奴隷にしかならねえ奴が多すぎるな!」
散々好き勝手言う奴隷商たち。
その言葉に、俺の血の気が一気に引く。
ダンジョン奴隷。
スカウトを雇えない冒険者が使う、捨て駒だ。
死のうがどうなろうが、お構いなしの使い捨て。
……冗談じゃない!
「ちょちょちょ、待ってくださいよ〜!俺まだ死にたくないっすよ〜!せめて別の……」
努めて明るく、相手を刺激しないように下手に出る。
無駄に歯向かって、見せしめにでもされた日には目も当てられない。
「あ?だから、使えるスキルを身に付けてから言えやコラ!カスが刃向かおうってのか?」
「ヘラヘラしやがって、舐めてんのか!」
「待て……分かった。じゃあ、選ばせてやる」
奴隷商が手をかざした瞬間、取り巻きたちは威嚇をやめ、静かになる。
お!?もしかして……何とかなる!?
「選べ。今ここで死ぬか、ダンジョンで死ぬか。どうせ安値でしか売れねえ。ひとりぐらい間引いても問題無いからよ」
駄目だ。
あの目は本気の目だ。
俺の甘い希望は、見事に打ち砕かれた。
「……ダンジョンでお願いします」
「賢い選択だ。おう……やれ」
奴隷商が、取り巻きにアゴで合図を送る。
取り巻きは用意していた金属製の輪っかを持ち、俺に近づいてくる。
「右腕を出せ」
有無を言わせない圧力に、俺は恐る恐る右手を前に上げる。
手に通された輪っかは、二の腕まできたところで、急速に収縮をはじめる。
ミシッ
骨が軋む。
それでも輪っかは、容赦なく腕を締め付けた。
「!?」
腕に食い込み、圧迫される不快感。
さらに、圧迫された箇所に、焼けるような痛みが襲いかかる。
「うあああああああ!」
たまらず叫ぶ。
強烈な吐き気を催すような苦痛……これが奴隷の証なのか。
「コイツが奴隷の腕輪だ。これがある以上、お前の身分は一目瞭然だ。フフ、これでもう、逃げられないからな」
「そんな……逃げたりなんて、しませんよ……」
その言葉を最後に、痛みに耐えきれなかった俺の意識は、闇へと落ちていった。
――――――
――目が覚める。
どのくらいの時間が経っただろうか。
……夢見は最悪だったが、体は軽く、頭も冴えている。
疲れは充分に取れたようだ。
「……嫌な奴を思い出したぜ」
慈悲のない、物としてしか俺を見ていないあの目。
人を使い捨ての道具として使うことに、躊躇いのないあの態度。
気に入らない。
「それにしても……」
昨日、眠りについたところから、だいぶ離れた場所に俺はいた。
元の俺は、別に寝相は悪くなかった。
となると、寝相が悪いのはこの体か。
「……この体、寝相悪いな」
『何を言うか!寝相が悪いのは貴様じゃろう!』
「うわ、ビックリした!」
バルフェリア。
コイツも起きてたのか、て言うかいきなり大声を出すなよ。
「んなわけあるか!俺は寝相いいんだよ」
『貴様がそう思い込んでるだけじゃろ?』
「おい、言いがかりはよせ!」
何だこいつ?
そんなに俺の寝相が悪いことにしたいのか?
『ま、おおかた悪夢でも見て、うなされた結果じゃろ』
……悪夢は図星だ。
だけどうなされて寝相が悪くなるなんて、そんなことあるか?
まあ、この話をこれ以上深掘ってもしょうがない。
「それはともかく、これからが本番だな」
『うむ』
「もうハッキリ言うけどよ、ヤバい時には、フォロー頼むぜ」
『任せよ。と言っても、できるのは助言程度じゃがの』
俺はこれまでの経験で、自分が弱いことは分かってる。
だからこそ、使えるものは全て使いたい。
「おい、魔力注入も忘れるなよ?」
『わかっとるわかっとる』
なんだかんだ頼りになる……相棒みたいなもんだ。
照れくさくて本人には言えないが、バルフェリアがいなければ、とっくに俺は死んでいただろう。
俺が死んだら、この身体はバルフェリアのものになるのに、的確なアドバイスで助けてくれる。
見世物として楽しんでいるのかもしれないが、それでも助かってるのは間違いない。
俺が死んじまうその時までは足掻くし、楽しませてやるよ。
だが、簡単には死んでやらない。
俺は生き延びるために、戦う。
再びの決意を胸に、俺は玄室を後にする。
「さあ、脱出だ」
その歩みは、今までよりも力強いものだった。
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