第14話 休める時に休め
※本作にはTS要素があります。
『さて、一度玄室に戻った方が良いな』
突然、そんなことを言い出した。
意外な提案だ。
「何でだよ?せっかくいい武器も手に入れたんだし、このまま先に進んだ方がよくないか?」
『たわけが。貴様がこうして動けているのは、成功の興奮が手助けしているに過ぎん』
「そうか?そんなことないと思うけど」
『それがいかんと言っておる。自分で気付けていない状態が、一番危険なのじゃ。もし魔物を目の前にして、急に足が動かなくなったらどうする気じゃ?』
「それは……」
と言われても、体も動くし頭も回る。
バルフェリアの杞憂だと思うんだが……。
「その時は」
俺は、先ほど手に入れた短剣をブンブンと振りながら答える。
「コイツで戦うさ」
『……良いか?疲労は急に襲ってくる。悪いことは言わん。戻れ』
「でもよぉ――」
グゥウウウゥ
「……」
『ほれみい』
間抜けな音が響く。
……俺の腹の音だ。
緊張と集中のなかで、どうやら腹が減っていることにも気が付かなかったようだ。
『これでも戻らぬのか?』
どうも腹の音を聞いてから、体も重くなってきた気がする。
ここは、言うことを聞いておいた方がいいか。
「分かったよ。じゃあ、戻るか」
『それで良い』
バルフェリアの提案に乗った俺は、来た道を戻り、玄室に向かう。
レギュラスのことも気になるが、今はこのダンジョンを脱出する方が先決だ。
――――――
玄室に戻ると、未だ狼の死体が転がっている。
……肉が食いたい。
魔物の肉って食えるんだろうか?
いや、そもそも血抜きもしてないし、火種も何もない。
今は諦めよう。
「あ、そうだ。バルフェリア」
『何じゃ?』
「そういや、何でこの狼は宝箱を落とさなかったんだろ」
俺は純粋な疑問を投げかける。
『よいか、アレックス。宝箱が落ちるのは絶対ではない。』
それは知ってる。
クズ冒険者どもに奴隷としてついて回っていた時も、宝箱を落とす魔物、落とさない魔物がいた。
でも一番奥にいたんだし、コイツは持っていてもおかしくないんじゃないだろうか。
『そしてこやつは、妾を見張る守護者としてここにおったのじゃ。』
つまり、このダンジョンのボス、ってことか。
それを圧倒したバルフェリア。
魔人ってのは、まともに戦うとどのくらい強いんだろうか。
地上に出れば、そのうちレギュラスって奴に会うことになると思うと、心がざわめく。
『おい、聞いておるのか?』
「ああ、すまん。続けてくれ」
『つまり、このダンジョンの宝は妾じゃ。妾という宝が目の前にあるのに、こやつにまで宝箱を持たせる意味があると思うか?』
「……確かに。仮に宝箱を落としたとして、リスクを考えると、宝箱に手を掛ける奴は、相当な強欲かただの馬鹿か、どっちかだな」
目の前にダンジョンの秘宝があるというのに、宝箱にまで手を出すのは、リスク管理が甘いと言わざるを得ない。
それで万が一、命を落とすようなら、目も当てられない。
『ま、そういうわけじゃ。それでは、食事にしようかの!』
「何でお前がはしゃいでるんだよ」
ウキウキしてるバルフェリアを尻目に、俺は玄室の適当なところに腰を下ろして、バッグの中から保存食と水筒を取り出す。
保存食は干し肉とナッツ、水筒の中身は水だ。
『侘しい食事じゃのう……』
おい、だから何でお前がしょんぼりするんだよ。
「仕方ないだろー、ダンジョンなんて、保存食ぐらいしか渡されないんだよ。奴隷には」
言いながら、ナッツを口に放り込み、ポリポリと噛み砕く。
『お!?これはなかなか美味いの!』
「え?お前も味、分かるの?」
『うむ。味覚は共有しておるのじゃ!』
「はは、そいつはよかった」
『くぅ〜〜……約三百年ぶりの食事は沁みるのう……!』
「さん……え?」
バルフェリアは俺の言葉が耳に入っていない様子で、久しぶりの食事に浸っている。
聞き間違いでなければ、三百年って言ったよな?
……じゃあ、本当にあの、おとぎ話のバルフェリアなのか?
しかし、そうだとすればこいつは、正義に成敗された力と支配の象徴だ。
もしかしたら、こいつの方が悪、って可能性もあるのか?
「なあ、バルフェリ……」
俺が噛み砕くナッツの味と感触を、バルフェリアはうっとりとした様子で堪能している。
……俺には、こいつがそんなに悪い奴には思えない。
バルフェリア自身にも言われたが、単に俺が甘ちゃんなだけなのかもしれない。
『貴様、何をぼーっとしておる!はよう、次の食事を寄越さぬか!』
……尊大な態度だけど、コイツはコイツで大変だったんだろうな。
三百年も一人で、食事のひとつも口にできない。
幾ら何でも、それは地獄だろ。
とりあえず、今はこいつのことを信じてみよう。
運命共同体だしな。
「おし、じゃあ次は干し肉行くぞ」
『うむ!』
次に俺は、干し肉に齧り付く。
『おお。獣臭がちとキツいが……塩味に肉の味、悪くない!』
「うめえのよ、この干し肉」
『しかし、こう……妾は、もっと新鮮なものを食したいぞ!』
「それなら、なおさら脱出しないとな。お前のサポート、期待してるぞ?」
『うむ、任せるが良い!』
こんな状況でも、誰かと食べる食事は悪くない。
気も休まるし、なんか救われた気分だ。
「ふう、ごちそうさま」
『存外、美味じゃったぞ』
食事を終え、最後に水をひと飲みして息を吐く。
直後、鉛を流し込まれたように体が重くなり、抗えない睡魔が押し寄せる。
「あれ?」
目の前がかすむ。
『ほれみい。貧弱な貴様は、体力的にも精神的にも、限界だったのじゃ。昂った精神が、疲れを誤魔化していたに過ぎん。ここで眠り、ゆっくり休むがいい』
「ああ、そうする・・・・・・」
耐えきれず、俺は体を床に預ける。
もう、まぶたも開けていられない。
脱出に備え、今はもう寝よう。
休めるときに休む。
起きたら今度こそ、本格的なダンジョン攻略が始まるんだ。
そうして俺の意識は、闇の中へと落ちていった。
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