第66ゲーム『3生徒と堀岡先生』
ーー翌日午後15時
-残り9日でゲームオーバー-
結局退院の手続きに随分と時間がかかって15時になってしまった……。
だが、ここから自由に動ける。
すでに病院は強引に退院した。
「ナオト、家に帰らないの?」
「ああ、まず初めに学校に向かう。」
今日は学校に向かう。家に帰りたいのはやまやまだが、時間が惜しい。
メルカの消滅現場であり、リュフォーの襲撃現場を見ておきたいんだ。
ちなみに今回はタクロー、ナミカと一緒に向かう。
ハナビさんには少し師匠の残したものについて調べてもらっている。
そして今回一番肝心なものを持ってきた。
ブラックボックスだ。こいつには4ケタの暗証番号、電子カードキー、そしてアナログのカギがついているゲームのシステム開発者マサタさんの遺品だ。
かつて王達に託され、空けることができなかったこの黒い箱の手がかり。
もし黒幕の手先が襲撃してきたなら、こいつを開けることができるかもしれない。
消滅の秘密。カタストロフィを持つ黒幕の手がかり。
これさえ開けることができれば自体が解決に向かうと思うのに……。
それにしても……。
「なんだか異様に寒くないか?」
今の季節は夏のはずだ。
体感だが、秋から冬くらいの気温だ。
「ここ数日間ずっと同じ気温だぜ。」
「異常気象もここまで来たかって感じだよ。」
寒くて思わず体を身震いする。
今日来ている服、普通に生地が薄いんだよなぁ……。
特に風がさっむい!早く学校に行こう……。
▽ ▽ ▽
僕らが学校に行くとホーリーが項垂れながら、職員室にいた。
その背中からなんか元気が無い。いつもはうるさいくらいのあのホーリーが……。
「……ホーリー?」
「…………。」
「堀岡先生!!」
「……!
この声は……光菜ァ!?」
ホーリーはガタっと立ち上がり、僕へと駆け寄る。
「お、おおお。もど、戻ってきてくれたか!!
お前だけでも!!戻ってきてェくるェたんだなァ!!」
「せんせ…………!?」
大粒の涙を流しながらホーリーは僕をハグする。
「お前!!心配事をふやすなんてェんなァ!!
社会にッ!!社会人になったらァなァ!!
絶対ィにィ!無茶やるゥなァア!!大馬鹿もォん!!
大けがをして心配な思いを周りにさせるゥな!!
社会人として!!私の生徒としてそれが当然の行動だァと肝に銘じろォ!!
わかったかッ!!」
「…………でも。」
「でもも、へったくれもない!!
テロ事件の時の判断は間違いだッ!すまないィ!!
だがお前が危険へと身を投じるなら!!
お前がそういう道を歩むなら、私にも責任を取って歩んでやるゥ!!
社会に歩むこと!!それは協力だ!!それをともに歩み覚悟を持ち行動することォ!!
それが私の責任だ!!」
……ホーリー先生。
高校の先生、さらにいいえば前職の政治家にしても、あんた色々と凄すぎるよ……。
僕らの先生は僕を見つめる。
「光菜!!お前は今ァ何をしてほしいんだァ!?」
「探偵団の部屋を開けてください。」
「まぁっていたぁッッ!!私もついていくぞォッ!!」
ホーリーは職員室入口に備え付けられた鍵をぶんどり、意気揚々と進む。
調子が元に戻ったみたいでよかった。
「……クラスの2/3が消滅していて元気が無かったんだけど。
ナオトが戻ってきて、ようやく元の口うるさいホーリーに戻ったみたいだね。」
僕の自慢の妹によるとどうやらもうかなり大人数が消えてしまっていたようだ……。
そりゃさすがのホーリーも元気をなくすわな……。
▽ ▽ ▽
「部屋は1か月前の、当時の状況のままだ。」
ホーリーが扉を開ける。
部屋にはリュフォーが倒れていたと思わしき人型の白い白線が1つ。
どうやらメルカは消滅してしまったという事実を改めて再認識させられる。
だがあの時、リュフォー達は確かに『何か』を発見した。
犯人に奪われている可能性も高いが調べる価値は大いにある。
「それじゃ早速……。」
「待つんだぜ!ナオト!!」
「?」
タクローが僕を引き留める。
「俺様は覚えている1か月前のあの日。
俺様とメルカたちはホーリーに対してある疑いを持っていた。
だからホーリーを入れるのは反対だ。」
「どういうことだァ?なぜおまえが私にィ?」
「それはな……。」
タクローが当時の状況を語る。
まず、ニャンタこと2011号がくり~む君に対して縄張りを追われ、学校周辺に縄張りを移したこと。
そして学校周辺のユーザーと思わしき誰かを認証をしてこの状況……カタストロフィを発動させてしまった事。
さらにくり~む君がいる喫茶店を訪ねるとホーリーがいたこと。
さらにさらにこの探偵団部屋に誰かが入り込み、バリケードを内側から取っ払い窓から出て行った事。
そんなことができる人物、最初に探偵団部屋に入ることができるのは教職員の誰かである可能性が高いということを事細かに伝える。
と、まぁ複雑な要因が重なりに重なった結果、ホーリーはとにかく怪しいという状況が揃ってしまったのだ。
……僕はタクローの話を聞いてとある疑問が浮かぶ。
メルカは1つ重大な見落としをしているのではないかという点だ。
そう考えればこの部屋から出て行った人物が誰なのか1人はわかる。
まぁこれは後で考えよう。
今はホーリーの容疑を本人がはらしておけばいい。
「待てぇい!!私は何もしちゃあいないッ!!」
「どーだか?俺様は今も豪快に疑っているし。ナオトが入院中に思い出したんだ。
メルカが言っていた『消滅の条件』!」
「消滅の……条件だァと!?」
「消滅する人物は『頭のいい人物』か、『事件にかかわっている関係者』、『この学校の周辺に住む人』なんだぜ!!」
そういえばそうだった……。
あ、そういえばホーリーってほとんど満たしてるよーな……。
さっきのって……まさか演技なのか!?
うーん……でも……。
「消えていないのはおかしいだろ!!そこは豪快にどーなんだ!?」
「…………よるぉしい。では、説明したら納得してくれるか?」
「返答次第だぜ!!」
▽ ▽ ▽
「まぁず!私があの猫ちゃぁんに接する必要があったのは。
私自身が猫ちゃぁん好きであり、過去贔屓してくれていた政党派閥に、該当猫ちゃぁんの危険性をォ伝えたうえで、協議と保護要請をし肉体の改造前の状態に戻し、改造したものに対する厳正なァ処罰とマスコミへの報道規制へのォ依頼をしたのだ。
ついでに該当猫ちゃぁんへ国家が利用価値と称し非人道的、社会における愚かしい行いを強制してしまう可能性もかねてェ、一部偽装工作のために喫茶店のマスターに聞き込み裏取りをしていたのだァ!」
うん、想像の十倍くらいちゃんとしてた。
「あとついでに言っておくとあの日、私は非番であったがァ!?
非番中、家でテロ事件に対する後処理をしつつ、元職場のくだらない要請があったため、テロの一件を踏まえたうえでェ文科省における国家事業へのいくつかの参考意見を出していたのだ。
なんならその時、万一の責任問題への追及があった場合を備えて法的根拠が必要になると判断しィ通話を録音録画していたァが?」
さらに想像の十倍くらいちゃんとした理由だった。
アリバイも動機がないってのも完璧すぎて文句言えないぞ……。
「…………………………え、え?
じゃあ、この部屋に侵入したのは誰……?」
……ナミカが口に出すが答えられるものはいない。
「…………………………わかった。部屋に入るのはいい。
だけど俺様は一応、ホーリーを見張っている。
メルカ達と探索し推理した結果がこうなるなんてな……。」
きっと最後にリアルであった時、メルカたちに託されたものがこのホーリーのアリバイの立証で無駄に終わったのだ。
タクローは落胆する。
そんな、タクローにホーリーは肩ポンする。
「そういうものだァ。人生なんて。
だが無為に終わったとしてもそこからが始まりだァ。
社会で生き延びるコツはそういう気の持ちようだ。」
「先生……。」
先生は巻き舌でウザい先生だけど、ちゃんとしたことを言ってくれるって認識させられるな……。
ともかく僕らは探偵団の部屋に入っていく。
中はだいぶ荒れているように感じる。
入口のあたりにはVR機器が転がっており。
白い白線はうつ伏せか、あおむけ……で倒れている。
その白線の周りだけ異様に物が散乱している。
大半がお菓子の袋とかのゴミだが、中にはマウスや何らかの重要そうな書類ハンコなどもある。
「この中のどれかが手がかりの可能性、あるいはそれを示唆している何かかもしれない。手分けして探そう。」
「私ィは書類を見てみようォ。こういうのは得意分野だァ。キャリア組舐めるなァ。」
そりゃホーリー、政府の元高官だもん。
聞いたところかなりエリートな。
「タクローは先生と一緒に書類の周りに落ちているものを。僕はロッカーを。ナミカはゲームの方を頼む。」
「「りょーかい!」」
4人がかりで捜索を開始する。
▽ ▽ ▽
1時間後。
「で、見つかったのは……これか…………。」
見つかったのはポテチの袋。
食べかけのおさかなクッキー。
ぐしゃぐしゃのレシート。
ガムの包み紙。
片方だけの手袋
ゲームの方はログインができずまたパソコンのスペックの関係上、立ち上げもだいぶ遅いとのこと。
ロッカーの方には所長のスパンコールの制服。
ヒバナさんの化粧セット。
リュフォーの虫眼鏡、妹さんの写真、地図などの探偵装備一式しかなかった。
「さすがに手掛かりなしか……。」
「手がかり所かァ、非常に腹立たしい!この予算見積書ォ!
ここの欄がずれてるゥ!こっちは桁が違うし!
こっちは請求書の正確性にかけるゥ!!
社会に出たらこのようなミスで大惨事になるゥというのに!!
指導だァ!!登校したら始末書を書かせるぞッ!!」
ホーリーは別ベクトルから怒ってるし……。
「………………あれ?ねぇタクローちょっと気になったんだけどいい?」
「お、どした?ナミカ?」
ナミカが白い枠線の近くにしゃがむ。
「……私さ。さすがに食べすぎな感じがするんだよね。
ポテチとクッキーって。」
たしかに高カロリーなお菓子だ。
「だが2人もいるんだぜ?」
「ゲーム中、メルカは何か食べていた?
私、オペだからみんなよりよく通信聞こえていたけど咀嚼音は聞こえなかったんだ。」
そういえばゲーム中、蛮族に掴まっている最中も何か食べている様子はなかった。
「でもこれ古いお菓子の袋で捨て忘れたってことかも……。」
「このポテチの袋、結構まだ入っているんだよ。
おかげで中のポテチがしなしなになってる。
そしてレシートを見てみると襲われたあの日の朝に買っている。
恐らくリュフォーが買ったんだと思う。」
ナミカがゴミを漁り納得する。
確かにあの日の朝だ。
「たしかおさかなクッキーはこう……リュフォーが倒れた位置からこう……ロッカーの方に向かう感じで…………。」
ロッカーに放射状に向かって……。
でも、ロッカーはもう調べても何も……。
「ナオト、ナオト。」
「ん?」
タクローが呼びかける。
「ロッカーの上は見たか?」
「いいや……そこはまだ……。」
そういえば山積みになった段ボールが置いてある。
「たしか、あの時リュフォーがパソコンの用具はあの段ボールの中って言っていた。何か入ってるかもしれない。」
「あ、ああ。」
僕とタクローで肩車をし、段ボールを開ける。
明らかに半開きになった段ボールだ。
確かに中はパソコンの用品だらけだったけど1つだけ変なものが入っている。
「……なにこれ?…………手袋?」
いや……違う…………中に何かが入ってる…………これは!!
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この物語の『更新』は現状『毎週金、土、日』に各曜日1部ずつとなります。
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~FrG豆知識のコーナー~
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タクロー「ホーリーって実は既婚者だったよな?」
ナミカ「そういえばそうだね。」
タクロー「俺様、前見ちゃったんだけど、だいぶ奥さんとデレデレにご飯食べてたぜ。」




