第4話 祐介の学園生活。Part2
リアルが忙しくて投稿遅れました
すみません!!
「あー! やっと終わった! 長い! なんで授業ってこんなに長いんだよ!」
祐介はチャイムが鳴るなり弁当箱を掴み教室から飛び出し、人の少ない中庭へ。中庭は、日当たりも良く、風通りもいいのだが、ラミアやスカルなど……いわゆるトップ集団の集まる場所だと認識され、今では通り道に使われるかどうかほどの人の少なさである。まあ、他にも原因はあるのだが。
そんなことは露知らず、祐介は弁当箱を持ち伸びをしながらいつものベンチのあたりに歩いてきた。
「んー今日もいい天気だな」
強張った体をゴキンゴキンと鳴らし、伸びをする。
「おっ、その様子だと寝ずにちゃーんと受けていたみたいだね、関心関心」
スカルが呑気に手を振りながら歩いてきた。
「まあな、一限の古文と三限の数学以外は別に嫌いじゃないからな」
「主要三科目のうちの二つが苦手な時点でアウトなんだけどねぇ……」
スカルがはぁ、とため息をつく。
「お〜い、お疲れ二人共!」
セリアが一階の窓から飛び降り、しゅばっ! と元気に登場した。
「もうクタクタだよ……セリアちゃん抱きしめてー!」
「も〜、しょうがないなぁスカルは」
とか言いつつぎゅっと抱きついてあげるセリア。優しい。
「あぁ、どんどんパワーが漲ってくる……! よし! このまま僕のお腹にパンチだ! 腹パンだ!」
「えぇ〜? それは嫌〜」
(仲いいなぁあいつら……。飯前なのに腹いっぱいだぜ。まあ、飯は食うけど)
「うし、移動すんぞ」
祐介はいつもの場所を指差し、移動を促す。
「うぅ、まだ癒やしが足りないよ……」
「また後で、ね?」
「しょうがない、あとで腹パンだからね」
「それは約束してないよぉ」
三人でワイワイしつつ、中庭に備え付けられているアウトドアテーブルに移動した。
「んーラミアちゃんはまだ来なさそうだし、先に食べる?」
「ごめーん、少し授業が伸びた!」
セリアがそう言った瞬間、ラミアが『三階』から降りてきた。
「うおっ! なんつーとこから降りてきてるんだよ!」
一瞬見えそうで見えなかったスカートの中身のことをやや残念に思いつつ、祐介がツッコミを入れる。
「時短よ時短。じゃあ、食べましょうか」
何事もなかったかのようにテーブルに弁当箱を置く。
「「「「いただきまーす!」」」」
祐介が待ってましたとシュバババッと風呂敷を開き、大きな弁当箱の蓋を開き――絶望した表情になった。
「……ラミア」
祐介はテーブルに肘をついて手を組み、どこぞのゲンドウスタイルで真剣な顔でラミアに語りかける。
「……何かしら?」
おおかたの予想がついたラミアは少々呆れながらも返事をする。
「緊急事態だ、ラミア、お前の行動に俺のすべてがかかっている……」
深刻そうな表情になり、スッ、と弁当箱をラミアに近づける。
「白き山の頂点に君臨する燦然と輝く太陽……またの名を大地のルビー! それを受け取っていただきたい……!」
「……どう言い繕っても無駄よ。プチトマトぐらい食べなさい」
そう、祐介が神妙な顔で差し出してきたのはプチトマトである。
「入れるなって言ったのにまた入れやがった! もーいやだ! お願いしますラミア! いや、ラミアさん!」
プライドも捨て、ラミアに懇願する祐介。
しかし、ラミアはブレない。
「……トマトごときで弱音を吐く人、私嫌いよ?」
「うぐ」
その一言に悲しそうな表情になる祐介。まるで捨てられる前の子犬のようだ。
「……じゃあ食べる」
渋い顔をしながら白米の上に鎮座するプチトマトを手に取り……一気に口に入れ、急いで噛んで飲み込んだ。
「……うぅ、まずい……」
(((ちょろい。その上わかりやすい……)))
祐介以外の三人は呆れたように同じことを思う。
「ラミア、食べた! 食べたぞ! 食べたからな!」
「……はいはい、よしよし、ちゃんと見てましたよ〜偉いでちゅね〜」
ラミアは子供をあやすかのような口調で祐介に語りかける。
「俺はガキじゃねぇ‼」
((今のやり取り完全に子供のそれなんだよね……))
二人は内心そう思ったが、口には出さず、温かい目で祐介を見るだけだった。
「へん! どーせ俺はプチトマトに負けるような小さな男ですよ!」
すねた祐介は弁当をがっつき出した。
ラミアはそんな祐介の様子を見て、目を細める。口元には軽く笑みも浮かべている。
(……なるほど、これはなにか一悶着あったみたいだね。今まではこんなに露骨に見つけていなかったのに……)
スカルは細かなラミアの変化に気が付いたようだ。
スカルは『変態』であることを除けば、紳士である。『変態』であることを除けば。そのため、女性の細かな変化にも気づくことができる。……もっとも、その洞察力はどうすれば女性からの罵倒を引き出せるかにしか生かされていないわけだが。
「あーそう言えばラミアちゃん、今朝からご機嫌だけど、昨日なにかあった?」
セリアが鋭い質問を飛ばす。
「え? い、いや特には何も……」
ラミアは少しぎこちなく微笑み、口笛を吹きながらお弁当を片付け始める。
(……怪しいなぁ。まあでも、ここは追求しないのが吉かな)
少し話題でも変えよう。そう思いスカルが立ち上がろうとしたとき――
「スカル、少し腹ごなしに『運動』しようぜ」
祐介もほぼ同じタイミングで立ち上がり、スカルを誘った。
「……いいね、やろうか」
二人の興味もこちらに向いたため、スカルも承諾する。
(……空気が読めていないことは確かだけど、ナイスだよ祐介)
心の中で若干鈍い友人にナイスを送ったスカルだった。
「いやー、ちょっと今日は食べすぎたからな。いつもよりも激しく行くからな」
「いいけど……吐かないでよ?」
スカルは若干不安そうに言いながら、準備運動を始める。
「大丈夫だって。それよりもお前は自分の心配をしろよ」
続いて祐介も軽いストレッチを始める。
「もー、また組手するの?」
ラミアがはぁ、これだから男どもは……とため息をつく。
「おう。本気でやっても大丈夫な相手ってそんなにいないからな」
祐介が嬉しそうに答える。
組手。それは主に二人で相対しあい行う、武道の練習法の一つ。元々は空手が始まりのこの言葉だが、今では実践に近い技の練習のことを指すようになった。特徴としては、技を実際に人に使って見ることで強みや弱みを再確認すること。技の間合いや繰り出すためのスピード、集中力、優先度などを感覚的に探ることができる。下手な練習を続けるよりも組手を一回やったほうが効果的だ。ただ、問題点としては、組手は実力が拮抗したもの、もしくは若干上回るものとでないと得られるものが少ない。実力が頭二つ分以上の相手との組手は、こちらが終始圧倒されるため、指導に近い形いなり、十分なデータリングができない。
今回、スカルのほうが若干強いものの、そこまで離されているわけでは無い。だからこそ、祐介はスカルに度々誘いをかけているのだ。
「うーし、そろそろいいか?」
「いいよ。ちゃーんと相手してあげるよ」
二人共不敵に笑う。
「「デュエル‼」」
二人が同時に叫ぶ。すると中庭全体を覆うように結界が展開する。学園敷地内、あちこちに施された決闘魔法が発動したのだ。この魔法は理事長が考案したものであり、学内での決闘に際し、学園や周りの人を傷つけないように結界を張るのだ。エネルギーは地下の学園個人が所有するエネルギープラントから供給されるため、かなり頑丈である。
「……ふーっ……」
祐介ははちきれんばかりの闘志を深呼吸で押し込め、気を練る。そして――
「はっ!」
一気に開放した。濃密な紅いオーラが祐介を包み込む。これが『気』である。人間の生命力の源であると言われる気。それがビリビリと大気を揺らす。そして、荒ぶるオーラが徐々に炎のように揺らめき、神秘的な動きを見せる。
そして祐介の目は、獲物を狩る獣、ないしは射殺し、噛み殺そうとする蛇にようであった。
「……本気だね」
「ああ、そうじゃないとお前に失礼かと思ってな」
スカルは内心祐介の放つ殺気にも近い闘気に若干気圧されつつも、臨戦態勢に入る。
「いやいや、別に僕はもっとゆったりやるのでもいいんだけどねぇ……」
そう言いつつ、スカルも闘気を上げていく。
─スキル『カーボンクロー』
スカルはぎゅぅっと拳を握り、手の甲に炭素の爪を生成する。だいたい長さは二十センチほどだろうか? 獅子を連想させるその爪を両手に生やし、腰を落とす。いつでも飛びかかれる、そんな姿勢だ。
「それじゃあ……いくぜ!」
祐介は言うと同時に飛びかかるように走り出した。そして、その勢いを殺さずにスカルの腹を殴りつけようとするが、もちろんスカルも黙って喰らうつもりはない。祐介の拳をやんわりと包み込むように受け止め、そのまま受け流した。
攻撃が受け流されたと感じた祐介は、とっさに体をねじり、裏拳を繰り出す。
「おっと!」
流石にその攻撃は避けることも受けることもできなかったらしく、頭部にもろに食らった。そのまま、ヨロヨロっと後ろによろける。
「うし! ……いってぇ……」
祐介は、どーだと誇るような顔をしたが、後に襲って来た拳の痛みに顔をしかめる。
祐介の拳は『気』をしっかりと纏わせている。さらに素人でもないため、拳もある程度固くなっている。何もしていなくとも人の骨なら砕くことができる。気を纏わせた状態ならば、コンクリートのブロックですら余裕で破壊が可能だ。しかし、それ以上にスカルの身体は固いのだ。
「こんの石頭め……!」
スカル自身、今の状態、つまり能力の少ししか使用していない今の状態が柔らかいのだ。
(これで一番柔らかいとか嘘だろ⁉)
悲鳴を上げた拳をさすり、痛みをごまかす。
「打ち止め? ここで終わりにしておく?」
余裕のあるスカルの声。
「まさか! ここで終わるわけ!」
「そう、それなら良かったよ」
「シッ!」
祐介の突きを軽くしゃがみかわし、片手を地面につける。
─スキル『黒柱』
「うおっ⁉」
祐介はなにか嫌な予感を感じ、とっさに後ろに飛び跳ねた。すると、今まさに祐介が立っていた場所から二本の黒い炭素の柱が突出した。
「……まだだよ」
しかしスカルとてこの程度の攻撃では終わらない。最初の攻撃は布石。おとりだ。本命は――
「くっ!」
祐介が着地した場所から新たに二本の黒柱が突出。かわすことができないため、腕を交差させ防御をする。
「っ〜⁉」
ギギギ……と祐介が腕で受け止めてもなお勢いは止まらない。仕方なく祐介はそのままその勢いで弾かれるように後ろへ飛んだ。
「おー流石」
ぱちぱちとのんきに拍手を飛ばすスカル。
「ふぅ、けっこうキツいぜ……」
未だに痺れる腕をぶらぶらとさせながら楽しそうに笑う祐介。
「その割にはまだ余裕があるじゃないか」
けっこう自身のあるコンボだったんだけどね……とスカルは内心で苦笑いをする。
「しかしこの柱、まじで厄介だな」
コンコンと黒柱を叩く。
「しかし、この柱、視認した場所にしか出せないと見た」
「……さあ、どうだろうね?」
再三言うが祐介は能力が使えない。気を使うと言えども、限界がある。そのため、観察するクセとでも言えばいいのだろうか? 戦いの中でも、弱点などを探し出すことがクセとなっている。
「じゃあ……こういうのが意外と効果的かもな!」
ザッ! と祐介は足元の砂を大々的に巻き上げる。
「わっぷ!」
祐介は自身の巻き上げた砂に煙そうな声を出したが、おかげで巻き上げた砂埃は煙幕となり、完全に祐介の姿を隠した。
「うーんたしかにこれは面倒くさい……でもね!」
スカルは再び地面に手をつき、少し溜める。
先程の祐介の見抜きは鋭いものだった。しかし、半分正解、といったところだろう。正確には、スカルが見えない場所には出せないのではない。ある程度予測の着く場所ならば出すことができる。砂埃の煙幕はそこまで範囲が広いわけではない。だから――
「……はっ!」
スカルはその砂埃の煙幕の中心に向かって黒柱を七本ほど出す。
「……どうかな?」
手応えはあったとスカルはニヤリと笑った……のだろうか。表情はわからないもの、雰囲気でわかる。
「……ふぃー、あぶねぇあぶねぇ」
しかし、そこにはスカルの予想していた光景は無かった。
「……凄いね祐介」
スカルは感嘆ともとれるため息をつく。
「これはギリギリだったぜ……」
祐介の回りに浮かぶのは気を具体化させた、エネルギー体、気弾である。それを一つずつ黒柱の防御に当てて、攻撃を防いでいた。
「さあ、こっちのターンだ!」
祐介は更に気弾を次々と発生させていく。その素早い動きにスカルの反応は遅れた。その際に、気弾はスカルの全方位に展開された。
「しまっ――」
スカルは黒柱を自分の回りに展開し、全方位防御を行う。しかし、祐介の気弾に対しては有用な防御だとは言えない。
「いっけぇぇぇぇぇ‼」
「マズイ‼」
スカルは黒柱に魔力を送り込み、強化する。全方位を覆う気弾から身を守るために。
しかし、そんなことはほぼ意味をなさないことをスカルは知っていた。
『気』というのは、特殊なエネルギーだ。チャクラとも呼ばれ、人であれば誰しもが持っている。いわば生命力の総称だ。人は一日に生み出される気を十分の一も普段の生活では使用しないらしい。使われなかった気は、徐々に抜けていく。つまり供給過多というわけだ。
生命力である気は、もちろん誰にでも扱える。ただ、『難しい』のだ。マナは祐介など一部のものには使うことすらできないが、気であれば誰でも使える。しかし何度は最高レベル。例えるならば、幼稚園児にピタゴラスの定理を独自で理解しろ、と言っているようなものだ。不可能ではない。空を飛べと言われているわけではないのだから。しかし、理解するまではかなりの時間を要するはずだ。できなくはない。ただ困難。それが『気』の習得なのである。
話が逸れたが、気は人が持つ生命力だ。祐介はそれを攻撃に転用し、放っている。普通のマナで放つ魔弾とも似ているが、少々特殊な性質をもっている。それは、『マナを消し飛ばす』ことである。気はどうしてか、体外に出るとマナとの親和性が異様に低く、マナを消し飛ばす。いや、かき乱すと言ったほうが正しいだろうか? とにかく、放たれた気はマナを実質無力化する。
「ぐぅぅぅ⁉」
スカルは黒柱から、徐々にマナが消えていくのを感じた。
(くっ、マナで強化しないと、黒柱が消し飛ぶ! でも、そのマナも削られる……! 厄介極まりないよ‼ 君は!)
やがて気弾によりヒビが入った黒柱が折れ、あたりは光で包まれた。




