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無能の烙印-Until the world changes-  作者: 原作:どくろん/執筆:黒田さん
第1章 学園生活編
1/5

第1話 目覚め

読みやすい文字数に変更しました。

ストーリーの変更はありません。

挿絵(By みてみん) 


見覚えのある天井。そんな言葉が真っ先に浮かんだ。白くて、無機質な天井……。

 少し頭を傾けると、彼──二階堂 祐介は、自分がベッドの上で寝ていることに気がつく。


「……あれ?」


 ベッドに入る前の記憶はあやふやで、状況が掴めないでいた。

 覚えがあるのは学校の山中にてサバイバル訓練を授業で行なっていた所までだった。


「……俺は何をしてたんだ……?」


 ふとそう呟くと、ベッドの周りを囲っていたカーテンがそっと開かれる。すると、見覚えのある珍しい髪色である橙色のポニーテールが揺れる。


「あぁ、ラミアか! 俺は一体──」

「……っ!」


 突然、彼の幼馴染であるラミアが静かに溢れ出すように泣き始める。

 ぼろぼろ、ぼろぼろと止め処無い涙が溢れていく。

 祐介は何が何だか良くわからなかったが、それほどに心配させてしまったのかと察する。


「す、すまん。心配させたな」

「ホントよ……いつも一人で突っ走って…… ──でも安心したわ、元気そうで」


 少し落ち着いたのか、鼻をすすり、ハンカチで涙を拭く。


「……そんなやばかったのか?  俺は訓練してた所までしか覚えてなくてな……」


 ラミアはそれを聞くと、祐介に丁寧にことの一端を話し始める。そう、あの事件を──


「なあ、あんなタイプのモンスター見たことあるか?」


 祐介は教官のつまらない話を聞き流しながら、遠くのモンスターを指差す。


「いいえ、見たことは無いわ。異種体か、新種かしらね。それよりも聞いておきなさいよ。結構ためになるわよ?」

「この話はもう聞いたよ三度な。それよりも、行ってみようぜ。すっげぇ気になる」


 祐介は訓練中、見慣れない造形のモンスターを目撃し、ラミアを連れてモンスターを観察しに行った。

 しかし、好奇心は猫を殺すとは良く言った物で、二人はそのモンスターに深手を負わされ、間一髪学校の理事長に助けられ、今に至る。


「そのモンスターは結局なんだったんだ?」


 祐介は記憶をたどりながら、そのモンスターを思い出そうとする。


「モンスターじゃないわ。異種体でも、新種でもない。 みんなは一度は聞くおっかない奴よ」

「モンスターじゃない? 召喚獣の類か?」


 この世界でモンスターでないなら、召喚獣か、人間。もしくは、共存関係にある混合種の人々。後は──


「……『キメラ』よ」


 祐介はまさかと思っていたことを言われ、冷や汗を流す。

『キメラ』、別称は究極生命体。

 この世界の何処かにいるとされている伝説の接触禁忌種族で、詳しいことは分かっておらず、一般的に知られているのは『存在する全ての生物の特徴を自在に自分のものとして操り、どの生物よりもその力が強力である』ということだけ。

 そのキメラが学校付近に現れたというのだ。

 理事長が二人を救出した後、学校及び町全体に警戒網が貼られ、生徒はなるべく出掛けずに保護者同伴の元、自宅待機ということになっており、現在学校は昼過ぎにも関わらず、職員含め殆どの人が自宅で待機していた。

 ラミア曰く、学校にいるのは理事長と自分たちの三人だけだという。そして、その警戒網が張られてから四時間後、祐介は目を覚ましたわけだ。


「よく生きてたな俺たち……」


 本当に幸運だった。勝つこと自体、祐介達には到底不可能だっただろう。

『これは理事長に感謝しなくてはいけないな』と祐介は思う。


「あ、そういえば、理事長が、起きたら理事長室まで来て欲しいって言ってたわね」


 ラミアは思い出したかのようにそう呟いた。


「理事長室だな。保健室から近いから、さっさと行くか」


 ゆっくりと祐介はベッドから降りる。幸いなことに、痛みなどは無い。


「ん……?」


 ふと何かに違和感を感じたが、それが何かわからなかった上に一瞬で無くなってしまった。

 首を傾げつつ、「気のせいだろう」と言うことにして、祐介はラミアとともに保健室から出て理事長室へと向かう。




 ◆◆◆




 ─────ソラマ文武学院 理事長室─────


「…二階堂君、容態はどうだね?」


 高級そうな椅子に深く腰をかけてリラックスしたペストマスクをつけた黒衣の男──ソラマ文武学院の理事長は、祐介に体の様子を伺う。


「特に問題はないです。 ご心配をおかけしました」


 理事長は重い腰を持ち上げるように椅子から立ち上がると、腰に手を組んで窓から景色を眺める。


「確かに、対処できるかもわからない状態でキメラを追いかけるのは愚の骨頂だね……」

 

 理事長は苦笑……のような声をマスクから漏らす。


「はい……罰則があるのであれば受けます」


 むしろ罰則程度で命が助かったのであれば、いくらでも受けよう。


「…そこは気を負う必要はない。気を失って痛い目も見ただろうし、こうして元気よく歩けているんだ……ただし今後は気をつけ給え」


 振り返りもせず祐介とやり取りする理事長に、神妙な面持ちでこくりと頷く。

 すると、ラミアが理事長に質問を投げかけた。


「理事長……あの時、どうやって私たちを助けたんですか? 理事長がいらっしゃった時に一瞬でキメラを消しとばしてましたよね?」


 理事長はその質問を聞くと待ってましたと言わんばかりにクルッと振り向いた。


「私にはある程度『可能』『不可能』を操れる力が備わっていてね……単純な話、『キメラを見ただけで殺す』ことができるようにしたのさ……まぁ、ソラマ様の『時空を司る力』と『事象改変能力』には敵わないけどね……」


 少し自慢げな様子で理事長は自身のことを話す。

 それを見て祐介は『そんなに自分の能力が誇らしいかクソッタレ』と心の中で悪態をつくが、それに気づいたラミアに肘でどつかれる。


 祐介は生まれてこのかた、自分の能力を持っていない、所謂『無能』であった。

 入学時の検査でも『無能』と診断され、周囲から軽蔑の眼差しを向けられていたのだ。

 この世界では能力を持っていることが『普通』であり、能力の質が良い程人間としての質が良いとされていた。

 実際、過去の賞賛されている英雄や、著名人は強力な能力の持ち主であった。


 このことを踏まえると、『無能』は俗に言う『人間の屑』であり、『世界から見捨てられた愚かな存在』と言う認識になっており、軽蔑対象となってしまっていた。


 祐介も軽蔑を今でも受けており、時折喧嘩を売られては喧嘩を買い、能力が使えないならばとひたすら磨いた腕力で黙らせているが、その度にラミアや母親のユリから大目玉を食らっている。主に倍返しに近いお仕置きで。

 しかし、そこらの人間の能力は基本的に祐介でも倒せるほど大したことはない。祐介が鍛えているというのもあるが、一般人の能力の殆どが低級から中級魔法程度だからだ。


 だが、ラミアや親友のスカル、セリアや祐介の両親は全く別次元であった。

 ラミアは『物質の状態変化』、スカルは『炭素操作』、セリアは『植物と花言葉の力を借りる力』。

 母親のユリは『掛合強化』父親の宗介は『空間掌握』……

 祐介の周りには所謂『チート能力』の持ち主ばかりであり、祐介自身下手に逆らうことができないのだ。何度か半殺しにされた経験もある。特に両親には一週間に一度のペースで。


「まぁ、話はこれくらいにしておこう。 今日のことがあったから私達以外は自宅待機で帰宅している。君達も家にいておきなさい」

「わかりました……でも私たち、道中ちょっと危ない気がするんですけど……」


 ラミアは少し不安げな顔で理事長に尋ねる。当然だ。最強にも近いと言われた能力者が手も足も出なかった。その事実が彼女の自信を揺らがせている。

 しかし、理事長はそんなことかというような調子でラミアに説明する。


「君達は『オデウ』をつけているだろう? 少し気持ち悪いかもしれないが、君達はそれで軽い監視を受けている。何かあればすぐに保護官が助けに来るさ。 二階堂君と久遠さんであるなら私が駆け付けるがね。しかも最速で」


 二人は顔を引きつらせながら、腕に巻きつけられた『オデウ』を見つめる。

 O.D.Wオデウとは、『Optional Device Wristband』の略で、腕時計のように取り付け、戦闘やサバイバルをするのに便利な機能が搭載されているコンピューターの一種だ。

 ゲームのメニュー画面だと思ってくれて問題ない。

 今では学校関係者だけでなく、世界中で普及している。中には、つけない人もいるが、もはや一人一台のペースで普及している。


「理事長、道中気をつけますが、俺たちの安全は頼みます」

「うん。さ、そろそろ帰った帰った。 私は国の重役と今回の件について会議があるからね」

「はい、ではまた」


 ラミアはそういうと祐介の肩に手を添えて祐介を急かす。

 祐介もそれに従い、理事長室を後にする。




 ◆◆◆




 祐介達が退室し、理事長は再び椅子にどっかりと座る。

 顔に手を伸ばし、ペストマスクを外す。

 傷だらけの顔が露わになると、深いため息をつく。


(予測より早く彼らが動き出したな…やはり祐介が狙いなのか……? 奴は『あの事』を知らないはずだ……誰かが動いているのか…?)


 机にマスクを捨てるように置き、オールバックの長めの髪を搔き上げる。

 眠るように椅子でぐったりしていると、突然オデウからAIの合成音声が発せられる。


《ケネス様からお電話が入っております……如何なさいますか?》


「出せ」


 高い電子音が一つなると、AIの音声とは別の低い声が響く。


「理事長、大変なことになったな」

「あぁ、お前が無事で良かったよ」


 旧知の仲なのか、理事長と国の重役である『ケネス』は砕けた口調で会話をする。


「私のことはいい。 それよりこの件、どう対処するのだ?」


 それを聞いた理事長は少し考えているのか、少し間を開ける。


「……『ソラマ』を使う。 この名前を出せば牽制になるはずだ」

「確かに、キメラより驚異的な力を持つこの名前を出せばしばらくは時間を稼げそうだな」

「あぁ、その期間中に計画を実行する」


 『そうか、ではよろしく頼む』と一言いうと、ケネスは通話を切る。

 電話を切った際の電子音が理事長室に響く。


《通話内容を保存いたしますか?》

「不要だ」


 AIの質問に無機質に返答すると、理事長は荷物をまとめ、計画の準備のために能力でテレポートで姿を消した……




 ◆◆◆




 一方、祐介達はまだ下校中であった。

 不安を募らせつつも、二人はお互いに身を固め、離れない様に手を繋いで歩いていた。

 側から見たら恋人同士に見えるが、2人はただの幼馴染である。


「手を繋ぐのって何年振りかな……?」


 ラミアの素朴な疑問に、祐介は困った顔をする。

 祐介自身は覚えておらず、ラミアがどういうつもりで聞いてるのかがわからなかったので、『さぁ……?』という風に返す。

 その反応を見てラミアは少し不機嫌になったのか、繋いでない方の手でペシペシと祐介の肩をはたく。


「ごめんごめん、マジで覚えてないんだって……」


 先ほど殺されかけたにも関わらず、半笑いで反応する祐介。この切り替えの速さも、才能の一種だろう。いや、もう自分と力が乖離した存在に慣れていたからかもしれないが。

 そして、ラミアもさして怒ってはおらず、思わず顔を綻ばせる。


「あ、そうだ。 今日あんたん家泊めてくれない?」


 突然の申し出に、祐介はギョッとする。


(こ、この年でお泊りだと……?)


 祐介は自分を落ち着かせるように『最後に泊めたのは小学校6年の頃か』と考える。


(まあ、あの頃ならわかる。でも、この年でお泊り。思春期の男女が同じ屋根の下。何も起こらないはずがなく……ってええい! 落ち着け!)


 祐介は冷静を装い、返答する。


「お前ら一家が許可するならいいけど、布団は別な。 当たり前だけど」

「わかってるわよ。 一応連絡はあんたがくたばってる間にもう取ってあるから」


 ふふん、とドヤ顔で祐介を見る。


「既に確定事項かよ……俺の意思とは一体……」


 祐介はラミアの行動に頭を抱える。たいてい、ラミアが主導で動き、祐介は振り回され、偶に祐介がやらかしてラミアに叱られる。これがこの二人の日常であった。しかし、祐介はこれを別に嫌と思っておらず、へいへいと毎回従っている。


「それに、あんたならOK出すと思ったし」

「断ったらどうするつもりだったんだよ……」


 まあ、絶対断りはしなかったけどな、と祐介は内心苦笑いする。


「特に考えてなかったけど、そうねぇ……夜な夜な布団に潜り込むとか?」


 少し艶っぽい笑顔で祐介を見るラミア。

 祐介はその言葉を聞いてふと疑問に思う。


(異性ということを気にするはずの年頃なのに、何故こうも幼い時と同じ様に接してくるんだ? ……異性として見られてないのかなぁ……)


 普通は距離を置くものだ、と祐介は思っていた。

 というよりこれが常識であり、ラミアがおかしいだけであった。


「確かに怖い思いさせたのは悪かったけどさぁ……俺だって男なんだぜ? 男は狼って言われなかったか?」

「私が怖がってるのを察してくれるのは助かるけど、私だってあんたのことを異性の男だって認識してるわよ? それに、こんな弱い狼、ワンパンよ」

「ワンパンかよ……。ま、それなら……いや良くねぇよ。 わかっててやってんのかお前」


 ラミアの予想外の一言に祐介は少し安心した様な、かえって不安になった様な、そんな気持ちになりつつもツッコミを入れてしまう。


「え? 何を? なにがよろしくないんですかねぇ〜祐介くん?」


 ラミアはわざとらしく祐介に尋ねる。


「……お年頃の男女が、夜、二人で布団に入ったらどうなるかだいたい察しはつくだろ」


 少し照れているのか、祐介は顔を逸しながら話を続ける。


「……ふぅ〜ん? 祐介、私のことそんな目で見てたんだ……」


 ラミアは祐介に挑発的な表情で祐介を見る。

 祐介は墓穴を掘ってしまったと一人焦り、固まってしまう。


「……祐介」


 ラミアはちょいちょい、と手招きするように耳を貸すように促す。


「……なんだよ」


 祐介はこういうときのラミアは怖いと少し警戒しながらも耳を貸す。すると、ラミアは嬉しそうな表情で耳元で囁く。


「……えっち」

「〜〜っ!」


 不意に行われたラミアの囁きに、祐介は悶えて、ぞぞっとする耳を押さえる。

 ただでさえ扇情的な身体つきや言動なうえに祐介はラミアを好意を寄せているのだ。耳元でささやかれて無でいるのは不可能というものであろう。

 ラミアは祐介の反応を見て、お腹を抱え、体を震わせる様に笑っている。


「あー面白い」


 誂われた祐介は悩殺され、少し惚けている。


「ほら、もどってきなさい」


 半笑いで祐介の頬をぺちぺちと叩きながら元に戻すラミア。

 側から見たらバカップルそのものである。


「へ……?」

「っふ……あんたってホントこういうのに弱いわね、面白いわ」


 新しいおもちゃを見つけた、と喜ぶラミアとは対称的に、


「……つらい」


 ラミアに弱みを握られ、祐介は一人落ち込む。


「……ってもう家に着いたわね。準備できたらベランダからすぐ行くから、いろいろ片しておきなさいよね? いろいろと、ね?」

「……わーってるよ」


 (ラミアはなんでもお見通しなのか?)


 少し冷や汗をかきながら、『例の本などを片付けなくては』と考える。

 二人は一旦別れ、両隣の家へ帰って行った……


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