収穫祭のできごと 1
季節は移ろい盛夏となった。
我々のような武人にとっては、正念場の季節である。
戦争を控えているとか、そういうことではなく収穫祭に向けての準備だ。
べつに露店とかやるわけじゃないよ?
白の軍印のお菓子とか、売らないからね?
「各軍とも、やはり団体戦は一チームですね。精鋭を選抜してくるものと」
「選抜チームかあ。白だけ四チームも五チームも出したら、ひんしゅくを買うだろうしなあ」
「ですね。青、赤、黒が一チームずつである以上、白だって一チームでしょう。常識的に考えて」
パリスの言葉に、私はううむと唸った。
収穫祭の花形、馬上槍試合である。
これを見物するために何日もかけて王都までやってくる客もいるほどなのだ。
人が集まるということは金が動く。
各地から商人たちも集まってくるし、賭博も行われる。
一口にいって大イベントだ。
四翼もそれぞれのプライドにかけて勝ちを奪いにいく。
しかも出場するのは四翼だけではない。
貴族たちも私兵の精鋭をエントリーしてくるのだ。
これがまたけっこうな数になるため、昨年の大会終了後、ひとつの組織からはひとつのチームということにしてはどうかという案があがった。
ルールとして明文化されたわけではないが、まずは率先して四翼が規範を示さなくてはならない。
「まあ、何チーム出しても、青さんには敵いませんがね」
「戦う前から諦めんなよぅ」
「隊長は勝てるつもりだったんですか?」
ひどいね。お前さん。
事実ではあるんだけどさ!
王国の四翼。
青、赤、黒、白に序列はないという話を、以前にしたと思う。
どれがえらいってのはないんだけど、どれが強いってのなら、あったりするのだ。
だから四翼の名を列挙するとき、青が最初に言われるんだよね。
哀しい現実である。
「我々にとっての馬上槍試合は、むしろ個人戦ですからね」
「それはそれで軍隊として間違ってる気がするよ」
肩をすくめてみせる。
いちおう、三年連続で優勝しているのだ。
ただ、隊長が強いってのと部隊が強いってのを比べると、前者はほとんど意味がない。
戦場においては。
むしろね、なまじ強者が隊を率いたりすると、部下の限界が判らなくて、無理な戦いをしちゃったりするんだよ。
指揮官に必要なのは、個人的な武勇ではないんだ。
「いいんですよ。お祭りなんですから」
「身も蓋もないね。お前さん」
「今年も儲けさせてくださいよ。応援してますんで」
「ギュンターの財布を潤わせるためには頑張りたくないなぁ」
「なにいってんですか。メイリー嬢のためでしょう? 優勝トロフィーをもってプロポーズ。これ以上のシチュエーションがありますか?」
む。
いわれてみればたしかに。
この勝利をきみに捧げたい、とかいったら、いかに鈍感なメイリーでもよろりとくるかもしれない。
「すこしやる気出てきたぞ。去年よりはちょびっと気合いが入っている感じだ」
「さすが隊長です」
なぜか拍手をくれる副官だった。
「今年はお店をやってみようと思うんだよ」
「ほう?」
メイリーの言葉に、私は目を細めた。
まあ、毎年のことなのだが、個人戦に出場することを報告し、応援を頼むために訪れたロウヌ家での出来事である。
もちろんメイリーは笑顔で応じてくれた。
兄ちゃんの晴れ姿だしね、という言葉で。
まあなぁ。
優男の私が輝ける場所なんて、あんまりないのだ。
毎年、メイリーも、なぜかロバートまで、力一杯の声援を送ってくれる。
ただ例年と違うのは、彼女が露店なんぞをやると言いだしたことだ。
これまで収穫祭は見て楽しむ側だったのに。
「どういう心境の変化だい?」
「やー こないだ遠征にくっついてったじゃん? こう、食べる人の笑顔が間近で見れるのっていいなって思ったんだよね」
ミシロムの森へ行軍したときだ。
遠征、というほどの行程ではない。
片道四日というのは、私たち軍人にとっては散歩と大差ないのである。
が、一般人のメイリーとしては充分な冒険だったのだろうし、末端の兵士たちと直に触れあったのも、良い刺激になったのだろう。
ともに喰らい、ともに笑い、ともに歌い、ともに眠る。
あの一体感は、経験した者でなければ判らない。
「もっかい味わいたくなっちゃったんだよねー」
てれてれと笑うメイリー。
可愛い。
だがそれ以上に、私には気になることがある。
「良い考えだと私も思うが、何を売るんだ?」
これは聞いておかなくてはならない。
前に食べた雉肉を挟んだパンかな? あれはじつに美味かった。
いや待てよ。叉焼だっけ、あれも良かったな。
エールと一緒に流し込んだら、天上の美味だろう。
買い占めるべきかもしれん。
白の軍を動員しても!
「いままで作ったものは出さないよ? せっかくだから新作でいく」
「おおう! 新作か!」
いやがうえにも期待が高まるというものだ。
メイリーの考案する料理にハズレはない。たとえば、たぶん東方の料理などは、そのままでは私たちの口には合わないと思うのだ。
調理法も味覚も違うし。
それをアレンジして、私たちが食べても美味しいように仕上げる。
このあたりのテクニックにおいて、メイリーは余人の追随を許さない。
「まだ研究中だけどね。お祭りまでにはカタチにするよ」
「楽しみだな……」
ジョストなんて出ないで、メイリーの店に入り浸っちゃおうかな。
他人と殴り合うより、美味いもんを食ってた方がずっと建設的じゃないですか。
「うん。何を考えたのかだいたい想像つくけど、ジョストさぼって私の店にきたらダメだよ? 兄ちゃん」
「どうして考えていることが判った!?」
なんてことだ。
メイリーは精神魔術師かもしれない。
「顔に出すぎ。ホントに兄ちゃんってすげー強い戦士なの?」
「じつは、すげー強い戦士なんだよ」
さすがに謙遜はしない。
私が必要以上にへりくだったら、私に敗れた人々を貶めることになってしまうから。
「とにかく、兄ちゃんはジョストで一番になるの。いいね?」
「お、おう」
もちろんそのつもりだが、メイリーの鉄灰色の瞳に熱が籠もる。
「私は、屋台コンテストで一番になるから」
「おおう。ともに高みを目指そうということだな」
「そそ。一番になって迎えにきて。一番になって待ってるから」
にぱっと笑う。
それって。
それって!
私は大きく頷いた。
がぜんやる気が出てきましたよ!
目指すは優勝!
青騎士ライザック、赤騎士ヒューゴ、黒騎士ランティス、なんぼのもんじゃい! 束になってかかってきやがれってんだ!
今の私は無敵ですよ!
無敵!
「ふぉぉぉぉぉっ!!」
「兄ちゃんってさ……たまに気持ち悪いよね……」
拳を握りしめて叫ぶ私に、じゃっかん引き気味なメイリーであった。
ひどい。
だがこれはチャンスだ。
これまでぼへーっと流されてきたメイリーも、お祭りの影響で興奮するだろう。
「メイリー。私がんばるよ」
「うん、まあ、ほどほどに?」
「もうちょっと気合い入れた応援が欲しい」
「めんどくさい兄ちゃんだなぁ」
笑いながらのため息。
器用だね。お前さん。
「じゃあちょっとだけ賞品の前渡し。こっち来々」
手招きしてくれる。
私は猫か。
さからわないけどね!
近づき、身を屈めようとして周囲を見渡した。
くそオヤジがどこかに潜んでいないか、確認するためだ。
よし。大丈夫。
ゆっくりと私は、メイリーの下顎に指をかけ……。
「わたしにかまわず続けてくれ。見ているから」
言葉とともに隠形を解いたジェニファと、ばっちり目があった。
「うわぁぁぁぁっ!?」
「うにゃぁぁぁっ!?」
私とメイリーの悲鳴が驚愕の混声合唱を奏でる。
忘れてた!
もうひとつ妨害装置があったんだよ! この家!
ちくしょうちくしょう!!




