帰路
翌日、俺達はノブ夫妻に見送られながら島を後にする。
船の待つ港でサンドラはノブ達との別れを惜しみ、ノブ達もまた実の孫娘との別れを惜しむように目元に涙を溜めていた。
「ディオさん。改めて本当にありがとう」
ノブが身を正して感謝を述べた。
「俺もまたこの島に遊びに来ますよ。次は皆で」
「皆とは…?ご学友ですかな?」
「はは、そんなところです」
思い浮ぶ姿は学友達と雇用主の姿。気の置けない連中とこの島でのんびりと数日を過ごすのも悪くない。
「絶対また来るから!お爺ちゃんもお婆ちゃんもそれまで、ううん。ずっとずっと元気でいてくれないと嫌だからねっ!」
そう言って二人に抱き着くサンドラ。
勿論、次に来る時はサンドラも一緒だ。彼女が見せるノブ達への素直な愛情表現に目を細める。
『グワァァァァァァァン・・・!グワァァァァァァン…!』
空気を揺さぶる銅鑼の音と共に、船員が大声で出発の時を知らせる。
「そろそろ時間だー!乗船客は早く乗ってくれー!」
その合図と共に、まだ乗船していなかった人達が一人また一人と乗り込んで行く。
「サンドラ、そろそろ俺達も」
夫妻の胸に顔を埋めていたサンドラが名残惜しそうに顔を起こす。
「ふぅ…。お爺ちゃん!お婆ちゃん!行ってくるねっ☆」
「あぁ…行ってらっしゃい、サンドラちゃん!」
「乗りますよ先輩っ!」
駆け出したサンドラに手を掴まれながら慌ただしく乗船する。穏やかな波に揺れる甲板から港を見ると、小さくなった見送り人達の中に手を振るノブ夫妻もいた。
最後の銅鑼が鳴り、船が離岸していく。
少しづつ船が進むにつれて、港で見送る人達の姿も徐々に小さくなってゆく。声を出して別れを惜しむ者、感謝を伝える者、甲板には其々の事情の人達の想いが見え、それは俺の横でとびきりの笑顔で両手を振り続けるサンドラも同様だった。
もうノブ達の姿が見えなくなった頃、徐にサンドラは俺の腕に抱き着ついた。
「先輩☆また一緒に来ましょうね!次も二人きりで♪」
「はいはい、次は皆と一緒に来ような」
「ぶーーーー!!なんですかソレー!お邪魔虫要らないですよー!」
「はいはい」
短息をつきながら広がる海へと視線を移す。帆が風を受け止め顔に流れる潮風も気持ち良い。随分と長く居た様な気もするが、思い返してみれば数日の事だった。数日にしては心身共に良くも悪くも疲れてしまったが。
腕にまだ抱き着いているサンドラに目を落とす。
初めてサンドラを知った頃との印象も違う物になっていた。裏表のある性格に見えていたのが随分と印象が変わった。武踏祭でのサンドラは演技で、この数日が彼女の素だったんだろう。もっとも最初から素の自分を隠す気も無かったようだが。
「先輩?何ニヤけているんですか?そんなに腕から伝わるサンドラちゃんの温もりが嬉しいですか~☆」
「調子に乗るな」
そう言って頭にコツンと軽く拳を当てる。
「あ痛ッ!酷いです~!こんな美少女に抱き着かれておきながらー!」
両手で頭を押さえながら口を尖らせて抗議するサンドラ。
「はいはい、風も少し冷えて来た。部屋に戻るぞ」
「はーい☆」
俺に促されて部屋に戻っていくサンドラの後ろに付いて行く。船内で休んで、次に目を覚ました頃にはゼオングラーダまで帰っているだろう。数日見なかった友人達や学園の事を考えながら、狭い寝室に横たわり目を閉じた。




