↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
10/68

確かに俺が言っていた

ラモンドとマリーベルに案内された一室に踏み入る。


部屋の中の高級であろう大きなテーブルの上に色とりどりの豪華な料理が並んでいた。


クヌトト牛と呼ばれる家畜の極上ステーキ肉に、コロコロ鳥と呼ばれている太鳥を丸々1羽使った至高の照り焼きチキン。


ベイオールでは一般的に食べられる肉だが、その肉の質感が今まで見てきた物と比べ物にならない程美味そうである。


また、南部近海で採れる海の幸も満載で、特にあの白身魚のソテーと、それにかけられたホワイトソースが美味そうでよだれが湧き出る。


肉の周りに盛りつけられた野菜も、どれも青々とした新鮮な色を放ち見た目の彩りも楽しませてくれている。


その一皿一皿が、見事に上品さを漂わせている。手間暇をかけて調理されただあろう事は想像に難くない。


勿論、果物も満載だ。


(おぉ…。フルーツボールってやつか?こんな上品に見えるのは初めてだな)


今すぐにでもこれらの料理を頬張りたいのだが、まずはする事があるだろう。目移りする豪華料理をよそに、今日この会食を催してくれた人物に挨拶をする。


「えーと、本日はこの様な会食にお呼び?いや、お招きして貰って本当にありがとうございます。ディオニュース・カルヴァドスと申します」


慣れない言葉使いで、俺を招待してくれたマリーベルに挨拶する。飯を食わせて貰えるんだ。挨拶くらいは俺も礼儀としてするさ。


「うふふ。もう存じ上げておりますわ。ディオニュース様。ご丁寧なご挨拶、感謝致します」


そう言ってマリーベルはクスクスと笑う。


「あ~、そうだったね。俺の名前は昨日言ったもんな。どうもこういう場所も雰囲気も縁がなくてね。正直慣れていないんだ」


申し訳無さげな表情をしていたのだろうか、マリーベルが直様言葉を返す。


「いえいえ!お気になさらずに!私も堅い言葉に作法は苦手ですもの。ディニュース様のお話し易い様にして下さいませ」


そう言って、可愛らしい笑顔を見せてくれた。


ただ、彼女の傍で控えている先程の人物、ラモンド氏が、マリーベルの発言をやれやれとでも言う様に、小さく首を横に振っていた事は彼女は気付いてはいない。


「では、お嬢様。挨拶もそれくらいにして、ご会食の方を。ディオ様をあまりお待たせしてはいけません」


ラモンドがそう言って、食事の催促をしてくれた。


気の回る爺さんだ。道中、俺の腹の音でも聞こえていたのだろうか?もしそうなら結構恥ずかしいな。しかしご好意はありがたく頂戴する。


「そうですね、じいやの言う通りですね。では早速ご会食の準備を…!?」


マリーベルが言いかけて、突然ラモンドに詰め寄った。


「じいや!どう言う事なの!?ディオニュース様の事を今『ディオ様』って!?」


あぁ、そう言えばさっきラモンドに『ディオ』で良い。って言ってたな。

結局呼び捨てでも良いと言ったのに、断られたが。


マリーベルの慌てふためく『あわあわ』した様子をなだめながらラモンドは先程までの経緯を丁寧に伝えた。


「…で御座います。お嬢様」


「そう…。わかりました。ディオニュース様がそう仰った事でしたら何も言いません。じいや、大きい声を出してごめんなさい」


「勿体無きお言葉にございます」


ラモンドが深々と頭を下げる。


と言うかラモンドの爺さん、『じいや』なのか。使用人ではなくて。執事や使用人の様な仕事も『じいや』と言う仕事の中の1つなのだろうか?まぁ雰囲気からして警護も兼ねているとも思うが。じいやの仕事の定義がいまいちわからん。


「あのぉ・・ディオニュース様…」


「ん?どうしたの?」


向き直ったマリーベルが、今度は身体をモジモジさせながら俺に何か言おうとしている。


「あの!じいやが言った様に私もディオニュース様の事をディオ様とお呼びさせて頂いてもよろしいでしょうか!」


「あぁ、なんだそんな事か。良いよ。そっちの方が俺も慣れ親しんでいるから」


「本当ですか!ありがとうございます!」


「あ、あぁ…」


思った以上に喜ぶマリーベルに少し圧倒されてしまう。


話かける度に『ディオニュース様』では俺も正直堅っ苦しい。

気軽に呼んで貰える方が俺としても気楽である。


「ディオって呼び捨てでも良いよ?」


「そんな事言える訳ありません!」


ふむ。顔を真っ赤にして怒られてしまった。


その後ラモンドが、また『あわあわ』するマリーベルを落ち着かせ「そろそろご会食の方を…」と再び仕切り直し、ようやく食事にありついたのだった。



「ディオ様どうでしょうか?これはお口に合いますでしょうか?」


「とてつもなく美味い!美味すぎる!なんだこれ。全て100点満点とか俺の幸福度がどんどん上がってる」


「まぁ。それは良かったです!」


マリーベルが先程から味が合うかどうか、皿を変える度に訊いてくる。


俺1人が頬張っているだけで、マリーベルはあまり料理に手を出していない。


あの皿のクヌトト牛肉を食べる。


「お口に合いますか?」


「美味い!美味すぎる!幸せだ!」


そっちの皿のコロコロ鳥の照り焼きにかぶりつく。


「お口に合いますか?」


「美味い!美味すぎる!やっぱり幸せだ!」


この繰り返しである。


その間ずっと向かいの席で、にこにこと笑顔を見せながら俺の無作法な食事模様を眺めている。


今日一日餓えた野獣をご馳走のある館に招き入れてしまったのだ。


作法よりも満腹感優先である。多少の無作法も許してもらいたい。


食える時に食えるだけ食う。


俺の中で大事にしている言葉の1つだ。


「ふぅ~。食べた食べた。ちょっと休憩。そう言えばさっきから君は全然食べてないけど、良いの?俺だけががっついているけど?」


さっきから思っていた事を訊いてみる。


「ディオ様!?私の事はマリーとお呼び下さい!そんな『君』だなんて…よそよそしいではありませんか!他人行儀過ぎるのはいけないと思います!」


斜め上の返答だった。


いや、昨日会ったばかりだし、他人行儀だろ。普通は。


食事中にさっきの様に『あわあわ』されても困る。

素直にマリーベルの言葉に従う事にした。


「あぁ、ごめんね。じゃあ今からマリーっと呼ばせて貰うよ」


今日一番かと言うぐらいの、満面の笑顔でマリーは喜んだ。

その笑顔を見ていると、俺も頬が緩む。


何度も言うが、マリーは笑うと、とても可愛らしいのだ。

太陽の花の様に明るい笑顔に、綺麗な瞳。


そしてお嬢様なのに、どこか人懐っこい『子犬』の様な雰囲気がある。


貴族のお嬢様に例え話だとしても『犬』呼ばわりした事がラモンド辺りに知られたらまぁ無事では済まないだろう。


表情がころころと変わったり、嬉しい時と悲しい時の表情が


「すぐにわかる子なんだろうな~…」


等と小声で呟いていたら、マリーは料理のおかわりを勧めてくれた。


「ディオ様?まだまだお料理のご用意がございますが、お食べになられますか?」


「あぁ、勿論食べるよ。まだまだ腹に余裕があるしね」


「まぁ!そうですか!それは良かったです。じいや。お願いします」


ラモンドが小さく頷くと扉の奥へと消えて行った。

別の料理を持って来てくれるのだろう。楽しみだ。


「この会食が終わってからなのですが、美味しい紅茶を飲みながら少しお話を致しませんか?」


ラモンドが離れ、次の料理を待っている間にマリーが話しかけてきた。


「あぁ、いいよ。満腹になった後の少し甘い紅茶は格別だしね」


「ディオ様は甘口の紅茶がお好きなのですか?」


「ん~…。そうだね、割と甘口が好きかな」


「うふふ、まるで子供みたいですねディオ様」


「子供に子供と言われてしまった…」


つい思った事を言ってしまった。

マリーがそれを聞き逃す筈も無く、すぐに反論する。


「あら、少し心外ですわ。私はもう子供ではありません。もうすぐ15歳になりますもの」


「え!?俺と2つしか違わないのか。失礼な事を言ってしまったかな?」


クスクスと口元に手を添えて上品に笑ってはいるがその表情はいたずら好きの子供にしか見えないのだが?


昨日の帰り『マリー誘拐事件?』に巻き込まれてまだ1日しか経っていないのに何か変な感じだな。


コンコン…


「失礼致します」


扉を叩く音が聞こえた後、ラモンドがワゴンを押して戻ってきた。

ワゴンの上にはクロッシュ(ぎんのふた)が置かれている。

あの中に本日最後になるであろう料理が入っているのか。


「普段はあまりご用意したりはしない物で御座いますが…お嬢様たってのご要望との事で、特別にご用意した物に御座います」


ラモンドがそう言ってテーブルに大きな皿を置いてくれた。

薄らとクロッシュの隙間から匂いが香ってくるのだが


(ん?これは肉とかではない…よな?なんだ?)


「じいや、ありがとう。ディオ様!昨日助けて頂いたご恩。食事だけでお返し出来たものだとは思っておりません。ですが、今日ディオ様に召し上がって欲しく、ご用意致しました。どうぞ!召し上がってくださいませ!」


自信満々の笑顔のマリーは、自ら勢いよくクロッシュの取っ手を持ち上げ本日最後になるであろう料理と俺を引き合わせてくれたのだった。


この匂い。


(俺はよく知っている…)


この見た目と質感。


(忘れる訳ないじゃないか…)


「さぁ!存分に召し上がって下さいませ!!」


マリーの好意に身体が打ち震え、涙が出そうになる。



こうして皿一杯に綺麗に盛りつけられ、一流の料理人に調理されたであろう


『しなびた芋』と『廃棄寸前のパン』


を目の前に、身体を震わすのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。