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62.脱出

ジンスケとリフィアが閉じ込められている部屋の扉の下からいきなり煙が吹き出してきた。


ジンスケが驚いた様子もなく呟いた。


「毒か眠り薬の類でしょうか?」


リフィアが頷いた。


「まずいですね、こちらの自由を奪うつもりのようだ。どうしますか?」


ジンスケは仕方なさそうに言った。


「なるべく事を荒立てたくはなかったのですが、こうなってはそうも言っていられませんね」


「拙者が扉を破りますが、相手がどう出てくるかわからないので、リフィアさんは外にでないでここにいてください」


リフィアは黙って頷いた。


戦いになったらジンスケの判断に従うのが一番間違いがないのだと既に理解していた。


ジンスケは扉の前に立って愛剣の鬼丸を抜いた。


扉は外側からカンヌキを掛けられていて開かないので壊して出るしかない。


ジンスケは頭の上に真っすぐに鬼丸を振り上げた。上段の構えだ。


それから音もなく静かに、けれども一気に振り下ろした。


扉に一直線に切れ目の跡がつく、完全に真っ二つになっているが扉の形はそのままだった。


そこにジンスケが肩口から真っすぐに突っ込んで行った。


バリッという音とともに扉が二つに割れて、ジンスケが部屋から飛び出してきた。


扉の下に転がっていた昏睡香の筒を蹴り飛ばす。


厚い扉にカンヌキを掛けて油断していた騎士たちが慌てて剣を抜こうとする。


ジンスケの鬼丸が空を煌めき、三人の騎士が剣を抜く間もなく斬られてバタリと倒れる。


残りの騎士たちがやっと剣を抜いた瞬間にはジンスケがそこに突っ込んできていた。


剣を振っている速度があまりにも速すぎて騎士たちにはジンスケの剣の軌跡が全く見えなかった。


ましてや騎士たちの持つのは重たいミスリルの両刃剣だ。


勝負にもならなかった。


ジンスケがひらりひらりと舞うように騎士たちの間をすり抜けた時にはソフィアを含めて全ての騎士が斬られてその場に倒れていた。


その後ろ、離れたところでは慌てて魔導士たちが呪文の詠唱を始めていたが、騎士たちがあまりにも一瞬でジンスケに倒されてしまった為に詠唱はまったく間に合っていなかった。


ジンスケはその距離を一歩の跳躍で魔導士たちの真ん中に飛びこんできていた。


跳ぶというよりは飛ぶ、という感覚に近いような大きな跳躍だった。


魔導士の一人が「ひっ」と一声あげただけで、他の者は声をあげるまでもなく切り伏せられていた。


最後に残ったのは最奥にいたカリーネだけだった。


「化け物め!!」


カリーネは咄嗟の判断でジンスケに向けて無詠唱の魔法を放った。


無詠唱の魔法、それは最高難度の魔法だ。 王宮魔法師団でも使える者は3人しかいない。


しかもカリーネが発したのは普通の魔法ではなかった。


カリーネしか使えない古代魔法。 その一つのパラライズの魔法を無詠唱で放ったのだ。


パラライズは避けることが困難な広域魔法で、殺傷力はないが相手を20秒ほど麻痺させてしまう。


それ自体で敵を倒すことはできないが、その時間があれば後は武器での攻撃で倒すことは容易だ。


カリーネのパラライズにジンスケは構わず真っすぐに突っ込んでくる。


カリーネがニヤリと悪意の籠った邪悪な笑みを浮かべた。


その笑みが次の瞬間に驚愕の表情へと変わった。


ジンスケがまったく物ともしないように真っすぐに向かってきたからだ。


(馬鹿な。。。私のパラライズが効かない?)


ワイトの魅了が効かなかったというダリル・フォーランスの話が頭をよぎった時には既にジンスケは目の前に迫っていた。


次の瞬間に腹のあたりに鋭い痛みを感じてカリーネの意識は闇へと落ちていったのだった。


全ての敵が周囲に倒れていて、その場はまるで大きな合戦のあとのような有様だった。


その中にジンスケだけが一人で立っていた。


静かになったのを確認してリフィアが部屋から出てきた。


リフィアはまったく心配してはいなかった。


ワイトやサラマンダーと戦っていたジンスケが人間相手であれば敵が何十人いようと負けるわけがないと判っていたからだ。


しかし、実際に床が見えないほどに倒れている大人数の騎士や魔導士を見ると、今更ながらジンスケを恐ろしくも感じるのだった。


「ジンスケ様、急ぎましょう。これだけの騎士や魔導士を殺したとなってはただではすみませんでしょう」


ジンスケは小さく首を振った。


「殺してはいませんよ、峰打ちです」


「『峰打ち』とはなんですか?」


ジンスケは鬼丸を抜いて見せた。


「鬼丸は片刃なのです、裏側の刃のないほうで切りました。みんな気絶して倒れているだけです」


リフィアはあきれてしまった。


王宮の騎士団や魔導士といえば、この国でも最も強い兵士なのだ。


それを何十人も一度に相手して、尚且つ手加減する余裕まであるとは……


リフィアは呟いた。


「それでオニマールは片刃なのですね……そんな使い方のためだったとは……」


ジンスケは小さく頷いた。


「そういう訳なので、もうじき目を覚ますでしょうからさっさと逃げましょう」


リフィアは不安そうな顔で訊いた。


「塩は探さなくてよろしいのですか?」


ジンスケはチラリと残念そうな表情を浮かべたが、すぐに真顔に戻って言った。


「残念ですが仕方ないでしょう、これ以上拘っても増々ややこしくなるばかりと悟りました」


それを聞いてリフィアも大きく頷いた。


ジンスケたちの閉じ込められていた部屋は舞踏会場の2階の奥のほうの部屋だった。


もう廊下を通り一階に下り正面入り口から出て行くというような普通の退出の仕方などは到底許してもらえそうもなかった。


ジンスケとリフィアは廊下の窓を開けると二階の窓から庭へとヒラリと飛び降りた。



マドリナとネティルが話し込んでいるところに一人の騎士が飛びこんできた。


「ご歓談中のところ申し訳ありません」


マドリナがギロリと目を剥いた。


「今はネティル閣下と会談中だ、後にしなさい」


「それが近衛騎士15名ほどがレイラ姫所縁の例の『男』を二階の牢部屋へ軟禁、そこにカリーネ副師団長以下の魔導士10名ほどが駆けつけたところで『男』と争いになり、全員が倒され『男』は逃走中です。」


ネティルが呆然として呟いた。


「馬鹿な。何も聞いていないぞ。それに……騎士・魔導士25名がそんな一瞬で殺されたというのか?」


「いえ、命は無事とのことです全員、どうやら刃のない刀で切られた模様」


マドリナが呟いた。


「奴の剣は片刃だ。手加減されたということか。命が助かったのはいいが何という恥さらしだ」


「それにしても拙いことをしでかしてくれたな。絶対に敵には回せない相手だというのに……」


ネティルがマドリナを見て言った。


「どうします? とにかく見つけ出して謝罪しますか?」


マドリナが苦虫を嚙み潰したような顔で言った。


「身の丈の2倍、3倍も跳べる男なんだぞ、塀などあってもないようなものだ」


「もう既に逃延びている可能性が高い。」


「それよりもこの国から出さないようにインフルアとの交易に使われている全ての川港を封鎖しよう」


ネティルは小さく頷いた。


「そうしましょう、ただあの緑髪の女も一緒なら、女のほうは塀を飛び越えたりもできはしないでしょう」


「念のため舞踏会場の敷地内もくまなく探させようと思います」


マドリナは頷いた。


「もう手遅れかもしれないが何とか関係修復が必要だ、見つけても絶対に手を出さないように厳命してくれ」


「しかし、何だってそんな事をしでかしたんだ。いったい誰だそんなバカなことをしたのは……」


ネティルも同感だった、しかし既に起きてしまったことはどうにもならない。


兎に角、二人を見つけない事にはどうしようもないことだけは明らかだった。



ジンスケとリフィアは二階から庭に飛び降りた後、外壁のあたりまでやってきた。


外壁の高さは4~5mほどもあった。


リフィアが思案顔で言った。


「正面入り口には騎士の大軍が待ち構えていそうですね、どうしましょうか?」


ジンスケは外壁を見ながら言った。


「この外はどうなっているかリフィアさんは知っていますか?」


「いえ判りません、でも城ではないので濠とかいうことはないでしょう、普通に通りなのではないかと思いますが……」


ジンスケは頷いた。


「そうですか、それではここから外に出ましょう」


そう言ってジンスケは鬼丸を鞘から抜いた。


リフィアが呆れた顔をして言う。


「こちら側からだけなので分かりませんが、たぶんこの壁って30㎝くらいは厚さがあると思いますよ」


ジンスケはにっこりと笑って言った。


「そうですね、でも壁の材料は土や石ころみたいな物でしょうから、大丈夫でしょう」


「リフィアさんはそこで周囲を見張っていてください。」


リフィアが周囲を見張りながら見ているとジンスケが鬼丸を何度か壁に向けて振っていた。


(あれだけ厚くて頑丈そうな壁なのにジンスケ様にかかると豆腐のようだな……)


外壁の地面から少し上のあたりに四角い切れ目がはいっていた。


ジンスケが片足でそこを蹴ると子供のようにか細い華奢な足で蹴ったとは思えない「ドンッ」という重たい音がして、ところ天でも押し出すように土壁が四角く切り抜かれて向こう側に落ちた。


外壁にはぽっかりと四角い大きな穴が空いている。 人間が通るのに十分な大きさだった。


「リフィアさん、さあ行きましょう」


ジンスケに急かされてリフィアも穴をくぐって向こう側に出た。


そこは舞踏会場からグランネール市街に向かう馬車道だった。


二人が穴の向こうに出ると、一台の立派な馬車が停まっていて、その横に一人の大柄な貴婦人が立っていた。


二人が穴から出てくるなり、その大柄な女が話しかけてきた。


「正門ではなくて舞踏会場の外壁をくり貫いて出てくるなんて、貴方しかいないと思いましたよジンスケさん」


「おっと警戒はご無用です、私はお味方ですよ。バルナートでは一緒に魔物と戦った仲ではないですか」


フォルティアのリゼリア王女だった。





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