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104.思いがけない再会

ギンシャー食堂を後にしたジンスケとアイリーンは、店主が教えてくれたレンジーブルーが昔使っていたという倉庫へ向かった。


路地裏を抜けた先にポツリと一軒だけ離れて佇む木造の平屋は、倉庫というより簡易的な住居のように見えた。


「人が住んでいないにしては綺麗ですね」


アイリーンが鍵のかかっていない扉を開けると埃っぽい空気が流れた。


内部はほぼがらんどうで、古びた粗末なテーブルと椅子、壁際に何も入っていない大きな本棚らしき棚が1個残るのみ。


「確かに生活感はありませんね……料理のために道具や素材を保管していた場所だったのでしょうか」


部屋を見回して、ふとジンスケが壁際に設置されている本棚に目をとめた。


その様子にアイリーンが気づいて声をかけた。


「ジンスケ様、あの本棚に何か気になることでも?」


ジンスケは小さく頷いた。


「ええ、ちょっと……気になる気配というか……」


ジンスケは本棚の前まで進んで行き、立ち止まって大きな本棚を見上げた。


「この後ろか?……」


ジンスケは小さく呟くとアイリーンの方へと向き直った。


「アイリーン殿、ちょっと手を貸してはいただけまいか?」


アイリーンは怪訝な顔で訊き返した。


「なんでしょう? 本棚がどうかしましたか?」


ジンスケは曖昧に頷いて言った。


「いえ、本棚は別に……、ちょっとこの本棚を動かしたいのですが手伝っていただけますか?」


アイリーンは大きく頷いた。


ジンスケはたぶん、この本棚の裏に何かあると考えたのだろう。


それにしても本棚は小屋の奥の壁にぴったりとくっついていて何かが隠せるような隙間は全く見当たらないけど。


そう思いながらもアイリーンは本棚の側面にとりつくとジンスケと声をかけあって大きな本棚をズリズリと横にずらしていった。


すっかり本棚が移動すると、そこには壁に扉がついていた。


アイリーンが首を捻った。


「これは出口でしょうか? こんな小さな小屋に入り口と出口と二つも戸があるなんて変わっていますね」


そう言ってドアノブに手をかけ戸を開けようとしたが、まったく動かなかった。


どうやら鍵がかかっているらしい。


どうしようかとアイリーンがジンスケを振り返ると、ジンスケは異様に真剣な眼差しでそのドアを凝視している。


ジンスケが言った。


「アイリーン殿、拙者はこの扉に見覚えがあるような気がします」


「もしそうたどするなら、この扉は普通の扉ではないはず、一度外に出て向こう側から確認してみましょう」


アイリーンはジンスケが何を考えているのか判らなかったが、言葉に従って入ってきたドアから小屋の外に出てみた。


二人で小屋の周りをグルッと回るように歩いて、小屋の裏側に出る。


「あれっ?」 思わずアイリーンが声をあげた。


そこにはただの壁があるだけだった。


そこにあるはずのドアは痕跡すらも見当たらなかった。


「これは一体どういうことなのでしょう?」


アイリーンが当惑してジンスケを振り返った。


ジンスケは大きく頷いて言った。


「もう一度、小屋の中に戻りましょう」


小屋の中へ入って見ると、確かに動かされた本棚のあった壁に扉が取り付けられている。


アイリーンは間近でよく確認してみた。


扉と見せかけて、壁に描かれた絵なのではないかと思ったのだ。


けれども絵ではなかった。 そこに確かに扉は存在している。


アイリーンが言った。


「そうしてみると、この扉は壁に埋め込まれているということでしょうか?」


ジンスケは首を振った。


「いえ違います。この扉は魔法によってここにあるように見えているだけです」


「そして、この扉は壁の向こう側に繋がっているのではなくて、ここではないどこか全く別の場所につながっているはずです」


アイリーンは眉をしかめた。


「そんな馬鹿な。だって確かにここにドアがあるじゃないですか? 見えているだけって…」


「それにこんな辺鄙な横丁の誰も使っていない小屋、しかも本棚の後ろとかに魔法まで使ってそんな仕掛けをするとか、何の意味があります?」


ジンスケは真剣な表情で言った。


「隠れているのです。私の考えに間違いがなければ、この扉の向こうには拙者の知っている人物がいるはずです」


アイリーンは半信半疑の顔で聞いていたが、ジンスケの真剣な顔を見て考え直した。


「どうします? 扉は鍵がかかっているようですが。その人物とやらにお会いになりたいのですか?」


「ええ是非」ジンスケは頷いた。


それを聞いてアイリーンはコンコンとドアをノックしてみるが返事はまったくない。


今度は拳でドンドンと大きな音をたてて荒っぽくドアを叩いてみる。


全く反応はなかった。


アイリーンはジンスケに訊いた。


「無理矢理にでも入りますか?」


ジンスケは呟いた。


「魔法でそこにあるように見せられているだけなので、それは無理だと思います」


アイリーンは首を振った。


「そんなことはありませんよ、こんな木戸くらいすぐに壊れます」


そう言って腰からミスリルの両刃剣を引き抜くと、振りかぶって木戸に突き立てた。


カキッという音がしたが木戸には傷ひとつつかなかった。


初めてアイリーンの顔に驚きが広がった。


「いったいどうなってるんだ? こんなヘナチョコに見える木戸なのに…」


二歩三歩下がると、今度は勢いをつけて肩口から全体重をかけて体当たりしてみた。


ガンっという音で木戸に衝突したが、扉はビクともしなかった。


ジンスケは黙ってその様子を見ていたが、大きく頷いて言った。


「やはり拙者が思った通りのようです」


「これは別世界へとつながる魔法の扉、これを作った者にしか通れないのかもしれません」


ただ一つだけ試してみたいことがジンスケにはあった。


この扉を作ったと思える人物から教わった方法だ。


ジンスケは瞑想をするように精神を集中した。


自分の身体全体に思い切り最大の魔力を巡らせてみる。


魔力がはちきれそうなほどに全身を包むのが感じられる。


そのままジンスケは右手を扉につけられているドアノブへと延ばした。


けれどもジンスケの右手がドアノブを掴むことはなかった。


右手は扉が水面か何かでもあるかのように、スッと扉の中へとめり込んでいった。


ジンスケはゆっくりと右手を引き抜いて戻した。


アイリーンの方を振り返る。


「どうやら、扉の向こう側の人物に会うことができそうです」


アイリーンが訊き返した。


「いったい誰なんです? その人物って」


ジンスケは今度はもったいをつけるでもなく直ぐに答えた。


「エルフの大魔導士。アポフィス殿です」


アイリーンが驚いて言った。


「アポフィス殿って、あのゼブレの大魔導士ですか? いったいなんでこんなところに?」


ジンスケは小さく首を傾げた。


「さあ? それは拙者にもわかりませんが、もしアポフィス殿に再会できたらどうしても訊いてみたいと思っていたことがあるのです」


「たぶん、この扉は拙者にしか通れません」


「申し訳ないがアイリーン殿は司祭殿の教会に先に戻られて待っていてくだされ。もしかすると長い時間がかかるやもしれませんので」


アイリーンは首を振った。


「いえ、ジンスケ様わこんな見知らぬ土地でお一人にするわけにはいきません」


「時間がかかっても構いません、私はここでお待ちします」


ジンスケは小さく礼をした。


「お心遣いかたじけない、しかしエルフは時間の感覚が我々とは違うようです」


「何千年と生きる人ですから」


「ですからアポフィス殿の作られた世界とでは時間の流れが違うやもしれぬのです、もしかすると何日、何か月ということにもならないとは限りません」


「お願いしますアイリーン殿、教会でお待ちくだされ。その方が私も安心してアポフィス殿と話せるというもの」


そう言われてしまってはアイリーンにもこれ以上言えることはなかった。


アイリーンが納得すると、ジンスケは扉の前に立った。


そのまま歩を進める。


扉にぶつかる…アイリーンがそう思ったとき、ジンスケの身体は吸い込まれるように扉の中へと消えていった。


アイリーンは扉に駆け寄りドンドンと叩いてみる。 


やはり扉はびくともしなかったし、中からはなんの反応もなかった。



いつもご愛読ありがとうございます。

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