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浮気されたので婚約破棄して、義弟と気ままに暮らしています。元婚約者が女性関係で困っているようですが、私には関係ありません。  作者: 木山楽斗
afterstory

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4.謙遜するなら

 ラガンデ侯爵家を継ぐイルディンは、お父様から仕事を割り振られることがある。私は彼の妻となる者として、それを補助しなければならない。

 といっても、イルディンは優秀だ。彼はお父様から回された書類を、的確に処理した。その手腕は、見事であるとしか言いようがない。流石は、私の自慢の弟だ。


「イルディン、流石ね? お父様から割り振られた仕事をこれ程早く、それも的確に処理するなんて、中々できることではないわ」

「いや、それは褒めすぎじゃないかな? そんな大したことはしていないと思うけど……」


 イルディンは、私の言葉に首を横に振った。

 どうやら彼は、謙遜しているようだ。そういった謙虚さも、イルディンの魅力だといえる。

 だからこそ、私が褒めてあげなければならないだろう。それは姉として、また妻になる者として、果たさなければならない役目だ。


「さて、イルディン、少し休みましょうか? 紅茶とお菓子を頼んでおいたのよ」

「ああ、それはありがたいね」


 私とイルディンは、部屋の隅にあるソファの方に視線を向けた。

 現在私達がいる部屋は、執務を行うための部屋だ。当主が使う部屋とは別に、ラガンデ侯爵家の屋敷にはこういった部屋がある。

 そこにあるソファは、人と話すためなどに設置されている場所だ。私とイルディンにとってそこは、ほぼ休憩するためのスペースであるのだが。


「さあ、イルディン、ここに座りなさい」

「……うん? 姉さん、隣に座るのかい?」

「ええ、何か不満かしら? あなたと私は、そういう風に座るものだと思うけれど? 私達は姉弟であり、また夫婦となるのだから」

「それはそうかもしれない。でも、それは他の誰かがいる時の布陣だろう? 今は二人きりだ。隣に座ると喋りにくいんじゃないかな?」


 私が隣に座ることを勧めると、イルディンが反論してきた。

 それは確かに、もっともなことを言っているように思える。

 ただ私にも私なりの考えというものがある。この弟には、まずそれをわかってもらわなければならない。


「いざという時のために、慣れておく必要があるでしょう?」

「……いや、いつもそうしているじゃないか」

「……」


 イルディンは、私の理論を一瞬で崩してきた。

 流石は私の自慢の弟だ。口が上手いというか、頭が切れる。これは将来も期待できそうだ。


「……それなら、ただ戯れとして隣に座ってもらえないかしら?」

「戯れ? そ、そうかい。なるほど、それなら失礼させてもらおうかな……」


 結局私は、普通にお願いすることにした。

 変に理論なんて組み立てようと思ったのだが、間違いだったといえる。イルディンはこう言えば隣に座ってくれるのだから、最初からそうすれば良かった。


「でも姉さん、どうして僕を隣に?」

「少しあなたを褒めてあげようと思ってね……」

「褒める? それは、どうして?」

「もちろん、あなたが頑張ったからよ?」

「いや、だから僕は当然のことをしたまでで……む?」


 私は、隣に座ったイルディンの頭に手を伸ばした。

 それからゆっくりと、彼の頭を撫でる。よく頑張ったと。


「姉さん、これは流石に子供っぽすぎないかい?」

「そうかしらね?」

「僕ももう、子供ではないから、こういったことは……」

「嫌かしら?」

「……嫌、という訳でもないけれど」


 私の言葉に、イルディンは苦笑いを浮かべていた。

 年頃であるため、恥ずかしいなどという気持ちが、この弟にはあるのかもしれない。でも、嬉しくないという訳ではないようだ。


「まあ、これも一つの戯れということで、許してもらえないかしら?」

「それはやぶさかではないけれど、これは姉と弟としての戯れじゃないかな? 朝にしていた宣言とは違う気がするけれど?」

「あら? これは姉として、妻となる者としての戯れのつもりよ?」

「何が違うのか、僕にはよくわからないけれど……まあ、意識の違いと言っていたし、そんなものなのかな?」

「まあ、そうね」


 イルディンの頭を撫でながら、私は考える。両親はどうして、あの宣言に過敏に反応したのだろうかと。

 もしかしたら、二人は私が変なことをすると思ったのかもしれない。もしもそうなら、失礼な話である。もう少し娘のことを信頼して欲しいものだ。


「お父様もお母様も、変に心配し過ぎよね? 私のことを何だと思っているのかしら?」

「うん? ああ、朝食の時の話かい? あれは……」

「……イルディンは、私のことをわかってくれているわよね? 私が変なことなんてしないと。昔から私は、あなたに対して真っ当に姉として接してきた訳だし」

「……まあ、そうかな?」


 私の言葉に対するイルディンの返答は、なんとも歯切れが悪いものだった。

 なんというか、家族からの信頼がないような気がする。どうしてこんなことになってしまったのだろうか。それがよくわからない。

 やはりガルビム様と婚約破棄したことが、未だに尾を引いているということだろうか。家族からの信頼を取り戻すには、まだまだ時間がかかるということかもしれない。

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