第35話 逆の考え方
私は、イルディンに膝枕しながら、色々と言っていた。
責任感が強すぎる弟の考え方を、なんとかいい方向に導きたい。そのための説明を、私は思いついていた。
それに、イルディンが納得してくれるかはわからない。しかし、私がどう考えているかをわかってもらい、それを頭の片隅にでも入れてくれるだけで少し変わることもあるだろう。
という訳で、私は自身の考え方をイルディンに伝えることにする。
「イルディン、仕事が減ったら喜ぶべきよ。あなたが今思うべきなのは、姉さんに申し訳ないという気持ちではないわ。私に持つというなら、それは感謝の気持ちであるべきよ」
「感謝の気持ち?」
「姉さんのおかげで仕事が減ってありがとう。そういう風に言って、喜んでもらえた方が、私も嬉しいわ。ごめんなさいじゃなくて、ありがとうの方がイルディンも言われて嬉しいでしょう?」
「ごめんなさいじゃなくて……ありがとう」
私の言葉に、イルディンは目を丸くしていた。
そのような考え方を、イルディンはしてこなかったのだろう。
だが、私はそういう考え方の方がいいと思っている。イルディンが申し訳ないと思っているのは、お互いの精神衛生上良くない。謝る方も謝れる方も気持ちが沈んでしまうからだ。
しかし、イルディンが感謝の気持ちを持っているとそれは大きく変わる。私は、弟を助けられて嬉しくなれるし、イルディンは仕事を減ったことを喜べるだろう。そうすると、お互いにいい気持になれるはずだ。
「……確かに、そうかもしれないね。僕は、自分のことしか考えていなかったけど、僕が謝ると姉さんも辛いんだよね?」
「……ええ、そうね。私も辛くなってしまうわ」
「そうだよね……簡単なことだった。僕が謝って、姉さんが悲しむなら、それは僕にとって意味がないことだ。うん、姉さんの言いたいこと、なんとなくわかったよ」
賢い弟は、私が述べた論に納得してくれていた。
それなら、後はイルディンなら自分の中で解決できるだろう。
私の考え方と自分の考え方、その他の考え方も、冷静になった弟なら処理できるはずだ。
「姉さん……今の僕が言いたことは一つだよ」
「聞かせてもらえる?」
「仕事を手伝ってくれて、ありがとう。おかげで、今日の仕事は早く終わりそうだよ」
「ええ、どういたしまして」
優しい弟が出した結論は、私に感謝の気持ちを伝えることだった。
その結論は、私にとって嬉しいものだった。これで、お互いに気持ち良く仕事を始めることができるだろう。




