達成感よりも疲労感が勝ることはよくある。
《ウェーブ・スリー》
赤々と燃える文字と共に現れたのは剣を持ったゴブリンだった。
ゴブリンソルジャー。
先ほど戦ったゴブリンよりも体躯が大きく、鉄の剣は脅威に感じる。
俺のHPバーは残り二割と少し。
幸いなことにゴブリンソルジャーだけで取り巻きは存在しなかった。もし三匹とか現れていたら確実に負けている。
まだ……勝てるかもしれない。
「ギャギャッ!」
先にダイスが現れたのはゴブリンソルジャーだった。先ほどまで自分の方が早く攻撃できていたのに、俺よりも強いということだろうか。
草原を短い脚で走ってくるゴブリンソルジャーは近づくなり横薙ぎに剣を振るう。
俺は覚悟を決めて歯を食いしばった。
「いっ!」
なかなかの速度で迫った鉄の塊を俺は左手を盾の代わりにすることで防ぐ。肉を抉る痛みと金属が骨を擦る音に頭がどうにかなりそうになった。
それでも血が出ることはなく、怪我になることもない。
痛みも次第に引いてくれる。
一瞬だけ我慢すればいいんだ。
ビビるな。逃げ出そうとしたら死ぬ。
ダイスは俺が二、ゴブリンソルジャーが四だった。
俺のゲージは残り二割を下回る。
「おらっ!」
ゴブリンソルジャーからダイスが消えてすぐに蹴りを撃ち込んだ。
ダイスは俺が五、ゴブリンソルジャーが二。
体の中心を狙った蹴りは横へ避けようとしていたゴブリンソルジャーの腹部を強打する。
ゴブリンソルジャーのHPバーは一気に三割以上も削れた。この調子なら勝てるかもしれない。
そう思った矢先にダイスの神様はそっぽを向く。
「グギャ!」
ゴブリンソルジャーの上段からの斬りかかりに俺は左手を盾にガードした。
ダイスは俺が一、ゴブリンソルジャーが四。
「ぐああああああ!」
先ほどの倍の痛みが俺を襲う。
HPバーは一割以上も削れ、今にも無くなってしまいそうだ。
やはりダイスの目で喰らう痛みもHPバーの削れ方も変わっている。
ゴブリンソルジャーの目は四で最初の攻撃と変わらないが、俺の目は最初は二で次が一だった。たった一しか変わらないのにダメージが倍ほど変わるなんて訳がわからない。
俺は痛みが引いて息が整うのを待つ前に攻撃に移った。
いつか余裕が出来たらどのくらいまでダイスが出続けるのかも調べたいが、今下手に休みすぎてダイスの権利が敵に移行したら完全に勝ち目がなくなる。
「うらっ!」
敵が剣を横にして蹴りを防ごうとしてきたので俺は先ほどのようにお腹を目掛けて前蹴りをするのではなく、ボールを蹴るようにゴブリンソルジャーの股を蹴り上げた。
「ぐぎゃあ!」
いつもとは違う声音の悲鳴をあげるゴブリンソルジャーに好感触を確信する。
ダイスは俺が四、ゴブリンソルジャーは二。
俺の頭の上からダイスが消えるとゴブリンソルジャーはすぐに剣を振るった。
「ギギッ!」
先ほどの攻撃がよほど頭に来たのか高く飛び跳ねてからの振り下ろしだ。
ダイスは俺が二、ゴブリンソルジャーが六。
ヤバイっ。と、感じる前に体が動いていた。
剣を振り下ろすために前に出ているゴブリンソルジャーの剣の柄を握りしめた両手を抑える。そしてそのまま横へと投げ飛ばした。
「ギャ!」
地面へと転がるゴブリンソルジャー。
慌てて自分のHPバーを確認すると何のダメージもない。
「あ、危なかった」
敵の攻撃に当たりさえしなければどんなに高いダイスの目が出てもダメージは喰らわないらしい。
良かった。
今のが当たっていたら負けていた気がする。
「これで終われ!」
完全に流れはこちらに来ていた。
俺は立ち上がったばかりのゴブリンソルジャーへと蹴りを撃ち込む。
「ギッ!」
慌てて剣を前へ出してガードするゴブリンソルジャーだったが、ガードごと蹴った。
ダイスは俺が三、ゴブリンソルジャーも三。
「なっ!」
ゴブリンソルジャーはまだ倒れなかった。
「ギャウッ!」
俺が文句を言う間も無くゴブリンソルジャーが攻撃をしてくる。
「くそ!」
俺は咄嗟に左腕を盾にして防いだ。
ゴブリンソルジャーの鉄の剣が俺の左腕に当たる。
「っ! ……あれ?」
襲ってくるであろう痛みを待っていたのだが、軽い衝撃だけで痛みは来なかった。
左腕にぶつかったゴブリンソルジャーの剣はダメージを与えずにそのまま遠ざかっていく。
ダイスの目は俺が五、ゴブリンソルジャーが二だった。
なんだ……今の?
分かるのは俺の方がダイスの目が大きかったことぐらいだが、これ以上考えても仕方がない。
訪れた絶好の機会を逃してはダメだ。
「おらああああああ!」
走り出した勢いをそのままに俺は飛び蹴りをした。
まさか顔を狙ってくるとは思っていなかったのか、驚愕に見舞われたゴブリンソルジャーの顔面へ俺の右脚が強打する。
ダイスは俺が六、ゴブリンソルジャーが四。
ダイスの目はお互いに高めだったがゴブリンソルジャーのHPバーは勢いよく削れていき、やがて無くなった。
「あでっ」
光の泡となって消えていくゴブリンソルジャーに気を取られたせいで着地に失敗して尻餅をつく。
「か、勝った?」
空へと昇っていく光を見ながら呟くも答えてくれる声はない。
だが、頷くように蠢く炎が渦巻いた。
《クエストクリア》