⑯
完っ全にまだ完結してないことを忘れてました
「面白くなってきたなぁ。おい!!」
晃は神速で自分に近づいてくる刀の刀身に靴の底をかち当てる。
脚に雷が疾る。その雷は今まで晃が放っていた雷とは少し違った。その雷は今までのような金色ではなく紺碧だった。
「・・・・・・ッ!」
その碧い雷をまとった脚に当たった刀が弾き飛ばされる。
その衝撃の余波によって砂煙は払われた。目を開けるとアメノハバキリがずいぶんと遠い位置にいた。
「おいおい。どんだけビビってんだよぉ」
酷薄な笑みを顔に張り付けた晃が凄惨に笑う。
鬼の面をつけていたときのような落ち着いた雰囲気はどこにいってしまったのだろうか。
アメノハバキリは晃の豹変具合に息を飲んだ。それは梅にも言えたことだ。
離れた位置から戦闘を見ている梅はあれが晃であるとは信じられなかった。
普段の晃は常に眠そうにしていて、ヘラヘラと笑っていた。極力面倒なことには首を突っ込もうとはしなかった。
「・・・・・・あれが先輩の本性?」
そう呟き一つのことを思い出した。今日寝ている先輩を起こそうとしたときに先輩が思いっきり壁を殴ったときのことを。今思えばあれは眠くて気が立っていたのではなく本性が顔を出していたのかもしれない。
梅が晃について思考している間にも晃たちは戦闘を繰り広げている。
面がとれる前とはうってかわって晃が圧倒的に優勢のようだ。
「避けろよ〜。避けなきゃ死ぬぜ〜」
そう言いながらさっきのように地面を踏み鳴らす。今度はさっきとは比べ物にならないほど大きな雷雲が生まれる。その雷雲から生まれた雷もさっきとは比べ物にならないほど極大だった。
「くっ・・・・・・」
アメノハバキリはさっきのように刀で反らすことはせず、回避に回る。この戦闘中でアメノハバキリが回避したのははじめてのことだった。
一瞬前までアメノハバキリがたっていた位置に極大の雷が落ち、黒々とした焦げを地面に生む。
「次々いくぜ〜。休めるなんて思うなよ〜」
晃は一瞬でアメノハバキリの前まで接近すると回し蹴りを放つ。その脚は薄く紺碧の雷が包んでいる。アメノハバキリはそれを刀で受けようとしたが、刀はまた脚に弾かれる。
刀を弾かれることで体制が崩れたアメノハバキリに晃はすかさず回し蹴りの勢いを利用した裏拳を放つ。
アメノハバキリは避けることもできずに左の脇腹に裏拳を貰い、弾き飛ばされ、地面を転がる。
「・・・・・・ぐっ」
今の裏拳で肋骨が持っていかれたらしい。脇腹から鈍痛が体に伝播する。
「はぁ、んだよ。この様かよ。つまらん。もっと面白いかと思っていたんだがな」
晃はゆっくりとアメノハバキリに近づくとその髪を掴み持ち上げながら呟いた。その顔には色濃い失望が描かれている。
「ま、いいや。お前を倒したんなら次はもっと強いやつきてくれるよね」
「いえ、そうはなりませんよ」
晃は背後からの声を聞いた。背後から聞こえてきた声はいつぞや公園で聞いた声と全く同じだった。
「なに? んじゃあ、今ここであんたが相手してくれんの? 俺はそれでもいいけど」
「それは無理ですね。私が非戦闘員だということはあなたが一番よく知っていると思います」
「火の神だの水の神だの言われてるくせにな」
晃はめんどくさげにアメノハバキリの頭を離すと、寝転がり空を眺めた。
戦闘を始める前には所々にあった雲もすっかり鳴りを潜め、空には月が一人で浮かんでいる。
「あなたの今回の行動は不問とします」
「そうけ」
「あの娘に関しては黙認することにします」
「そりゃありがとよ。だが、どんなかぜの吹き回しだ?」
この女は一に規則二に規則と規則に厳しかったと記憶している。その女が規則を破った晃を不問にするどころかその晃の行動を黙認するとは理解しがたかった。
「他の部署は知りませんが、うちは実力があれば何も言いません。あなたは今回アメノハバキリを倒すことで実力を示しました。それにたいしての報奨といったところです」
「そうかい」
「はい。それでは私から伝えることは伝えました」
そう言うと女の気配が薄くなっていった。それと同時にアメノハバキリの姿も消えている。たぶんあの女がついでに持っていったのだろう。
晃はゆっくりと起き上がると体の感触を確かめる。戦闘が終わったので思考はやっと冷えた。
イヤー。はっちゃけちゃったね。超疲れたぜ。
頭をかきながら梅が隠れているところまで歩く。
「終わったぜ」
そう声をかけると梅はビクッと体を震わせた。
「おいおい。その反応は傷つくぜ?」
「・・・・・・せ、先輩は」
「ん? なんだ?」
「先輩は何者なんですか?」
梅は晃の顔を見上げながら震える声でそう質問してきた。
晃はヘラヘラと笑うと梅の頭に手を置き、乱雑に撫でる。
「お前の一個上の先輩だよ。ちょっとした化け物で色々と秘密のあるな」
晃の口調は梅に対してではなく自分に言い聞かせているような感じがあった。
その言葉を聞いた梅はそれ以上追求するのをやめた。見上げた晃の顔には軽い笑顔の奥に底知れない悲しみの色が見えた気がした。
「帰るか」
「そうですね」
晃は梅の頭から手を離すと歩き出し、梅はそれに追従した。
ゆっくりと歩く二人のことを空の上の月だけが見守っていた。




