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僕の麗しき箱庭  作者: まくのゆうき


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自宅の補修

仕事が忙しくなったのと同時期、僕は親方に頼んで使い道のなくなってしまった板や端材を譲ってもらっていた。

真ん中から割れて素材としては使えない板でも、倒壊寸前で穴だらけのうちの壁を補強には充分だ。

隙間のない板を一枚、壁に立てかけるだけで隙間風や吹き込む雨の量が全然違うはずだ。

少しだけ内側の面積が少なくなってしまうのは難点だが、一か所試してみた時、その部分の壁から朝日が差し込まなかったことで、この板には本当に隙間がないんだと実感できたし、両親にその話をしたら納得してくれて、家が多少狭くなっても構わないから、またそういうものがあったら譲ってもらってほしいと頼みこまれてしまった。



前の世界でなら簡単に手に入った釘のようなものは僕の手には入らない。

この世界、とにかく金属は高価なのだ。

だから壁に割れている板を壁に置いて、その前に家具を移動させ位置を固定させることにした。

いくつかそういう場所ができて思ったのだが、これならば次からこの板に布をひっかければ身を縮めなくてもいいくらいの高さで布を張ることができるのではないかと思って、晴れている日に一度試してみることにした。

僕は家にある大きな布の端を、壁と補強に使った板の間に挟み、それをもう一度家具で押さえこんで固定した。

家具を緩めたり、引っ張ったりすれば取れる状態で試してみたのだが、なんだかどこかのリゾート地のような雰囲気になった。

過去の世界で言うところの天蓋付きベッドのようになってしまったのだ。

天蓋付きベッドと表現したものの、大した高級感はない。

元のベッドは使い古しだし、その上に乗っている布団だってつぎはぎだらけのボロボロ、もちろん上にある布もつぎはぎがある。

けれど、こうして完成したベッドの一角だけは何か違う空気を放っていた。



仮設置した布の位置がベッドの上になったことで、程よく窓からの日差しを遮って、パラソルの下にでもいるような感じだ。

そして試しにと挟んでみただけなので、布がベッドの中央付近に向かって少し低くなっており、それもまた情緒ある風景のようになっていた。

当日はもっとしっかりと張って、中央がたるまないようにして、水がベッドの上に落ちてこないようにしなければならない。

そして水が落ちてもよいように、床の方に向かって傾斜を付ける必要がある。

板に挟んだだけの状態で水の重みに耐えられるかどうかは分からないが、とてもいい感じになったので、それを見た両親はとても喜んでくれた。

雰囲気が良いということを褒められたのだと感じた僕は、布はもっとしっかりと張らないといけないから、雰囲気は変わってしまうと思うということを説明したが、父親は雨の日当日に支柱になるものを立てる必要がなくなることと、前よりも布を張る位置が高くなるので、その下に入ってからずっと身をかがめて小さくなっている必要がなくなることを喜んでいた。



予想外にもこの光景を気に入ったのが母親だった。

父と違って普段は住宅になど興味はなく、実用性重視の意見しか言わない母が嬉しそうにしている。


「何だかここだけ素敵な感じね。家じゃないみたいだわ。ずっとこのままでもいいくらいよ」


ベッドに腰をかけて天井を見上げた母親が言った。

天井の隙間から入ってくる日の光が和らいで眩しさが軽減されているため、明るいがそこだけ雰囲気が柔らかいのだ。

それにたゆんだ状態の布が天井にかかっている光景は何となく贅沢な雰囲気を生んでいる。

けれどこれが完成形ではないので僕は喜んでいる母に申し訳なく思いながら言った。


「壁はともかく、布はしっかりと張らないとこのままじゃ当日ベッドの上が水たまりになっちゃうよ。この布ベッドの上に敷いてたやつだから、長さを確認してすぐ外さないと困るかなって思ったんだけど……」

「確かにこの布があった方がいいけれど、別になくても構わないわよ。それにこれならこの状態のままにしていても邪魔にならないでしょう?雨が降ってくる時に慌てて作るより、このままにしておいて、雨が降ったらここに移動するだけでいいなんて便利でいいと思うわ」


外す前提で設置した僕に、母親はあっさりと常設すればいいと言った。

それならばと僕はその言葉に甘えようと決める。


「まだ雨が降ってないからどうなるか分からないよ。初日は周囲に今まで通り支柱になる簾を準備して様子見なきゃいけないかも。でも母さんがいいって言うなら、しっかりと布を張ってみる」

「そうしてちょうだい」


母親の言葉に父親も賛同してくれた。

僕はそんな父親の手を借りて、今度はちゃんと布が落ちてこないように固定していくことにした。

こうして一緒に作業をしていると、ちゃんと親子だなと感じる。

父親は台に乗っても僕では身長の足りないところを作業する時にそれとなく肩車してくれた。

まだ小学生くらいの年齢とはいえ、仕事をするくらいの年齢なのに肩車をされるのはちょっと気が引けたのだが、脚立のようなものはないし、お言葉に甘えることにしたのだ。

どうやって設置するか分からないし、肩車をした僕の作業を見ながら、もし外れてしまった時、僕がいなくても自分も直せる方がいいから、作業しながら教えてくれと父親は言った。

板は自分が持って帰っていたので、すぐに配置する予定の壁に立てかけられたし、家具の移動も板が揃ってからしかしていなかった。

つまりここまでの作業は今まで一人で行っていたのだ。

僕は自分が快適に過ごしたいと考えて勝手にしたことだからと、むしろ自由にさせてもらっていることに感謝していたが、この家では購入できないような材料を持ち帰って家を補修する子供を見て不甲斐なさを感じさせてしまったのだろう。

それでも自分たちは応援するし、できることは何でも協力すると両親は僕のことを否定せずにいてくれた。

複雑な感情を持っていたはずなのに、いつもそれを前向きにとらえてくれる両親に僕は感謝しなければならないと思った。

貧乏だし、生活は豊かではないけれど、今の僕はとても良い両親に恵まれたのだ。

少し気持に余裕ができて、そのことに気が付いた僕は、これが少しでも親孝行になっていればと心の底から願った。



こうして忙しい毎日を送りながら帰ってからは家を少しだけ修繕したりしていたが、これは親方の好意だ。

僕に対するお詫びと言う意味もあるだろうが、できれば廃棄せざるを得ない材料をうまく使った商品になりそうなアイデアを提供するとか、仕事を円滑に進められるようなものとか、そういうものを考え出して恩を返したい。

親方は工房の代表だからと嫌がらせに対する責任を感じているようだが、倉庫の出来事は僕に対する嫌がらせだったとしても、僕のいないところで起こったことだから怪我をしたわけでもないし、歓迎はされなかったかもしれないが直接攻撃をされたけではない。

それに彼らは若いとはいえ、ここではもう大人として扱われている存在だ。

だから僕は親方が責任を感じるのは違うと思うのだが、僕がそう伝えても親方は僕の聞きわけが良すぎるというだけなので、この好意をありがたく受け取っているのだ。

とにかくこの時の僕は、仕事の忙しさと、自分にできることの多さが嬉しくて、とにかく充実感を覚えていたのだった。

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