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僕の麗しき箱庭  作者: まくのゆうき


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スタンプと文字の反転

家の補修ができるような板がなくなり、とりあえずできるところまで家の補修を終えた僕は、補修に使えない木材を見ながら色々考えていた。

徐々に残業が減り、工房から帰る時間が元の時間に近くなってきていたので、ちょうど工房でも受注していた仕事が落ち着いてきたと感じていたが、ついに親方に書類仕事を依頼されるまでに戻った。

正直に言えば残業した後、薄いとはいえ、それなりに高さのある板を抱えて家まで運ぶのは大変だったが、こんな形で親孝行をさせてくれた親方に、何とか感謝を形にして伝えたい。



そんなわけで時間ができたので、どうすればいいのかと考え始めることにしたのだが、なかなかいいアイデアは浮かばない。

考えるだけでは何も浮かばなかったので、何をするにも使いものにならなそうな手のひらサイズの木材で細かいものを切る練習をしながら、僕は頭を働かせることにした。

実際に作業をしたり、加工するものに触れたりしていれば何かアイデアが浮かぶかもしれないと思ったのだ。

そうして練習を重ねるうちに手に取ることになった木材のひとつ、このサイズ……。

親指一本分くらいになった木材を見ながら、僕はふと思い出して一面を平らに削ると試しに細かいデザインを彫ってみることにした。

そして出来上がったものは、前のところでハンコとか呼ばれていたようなものになった。

ただし、彫ったものは花のデザインなのでスタンプと言うのが正しいのかもしれない。



何となくこの木材を手にした時、前の人生で幼い頃、消しゴムを削って面白がってこんなものを作っていたという記憶が蘇った。

そして木材を彫り進めながら、その時、それをどんなことに使っていたのかを考えた。

消しゴムを削るのが楽しかった、そして年末、こうして削って作ったものを紙にたくさん押して年賀状を作っていたことを思い出した。

大人になってからは引きこもりだった僕だが、小学生くらいの時はまだ学校にも通っていたし、義理かもしれないが年賀状のやり取りをするような友達もいた。

そのうちデジタル化して紙でのやり取りなどはあまりしなくなったし、過去に郵便でやり取りをしていたような人たちとは、その後疎遠になっていったので、僕が大きくなってから彼らがどういう生活を送るようになっていたかは分からない。

きっと社交的な奴らは良い人生を歩んでいっただろう。

そのうち日陰者だった僕と彼ら、本来住む世界が違ったんだろうとか、どうでもいいことまで考えてしまった。

そうして過去のことを思い出したり、その後の人生を考えてちょっと感傷的になったりしているうちに、僕はとあることを思いついた。

もしうまくいけば、少しは親方の役に立てるかもしれない。

元は使用不能となった端材だし、練習用にも使っている。

だったら少し冒険してもいいだろう。

僕は思いついたものを形にしようと心に決めた。



早速僕は思いついたものを形にすべく持ち帰った板と角材に向かい合った。

僕は書類に自分が書いた文字の大きさを思い出して、その大きさの彫れそうなものを選ぶ。

親方に譲ってもらったものの中から、折れて短くなってしまった角材を選んで文字を彫ることにしたのだ。

まず僕は側面を彫っても崩れにくそうな角材を寄せ集めた。

その中から一番小さいものを手にとって適当なものを彫ってみることにした。

試してみてわかったことは、同じ大きさ、同じ高さの木材でも、種類によってスタンプとして加工するのには向き不向きがあるということだ。

木の種類や目の方向によっては削るのが難しかったり、削った後に欠けやすくなったりする。

何度も利用できることに価値のあるものだから、インクを付けて何度か押したら使えなくなりました、では困るので材料として使用する木材を慎重に選ぶ必要があるだろう。

それに僕が持っている道具で彫れる硬さにも限度がある。

色々試したことでそれが分かってきたので、そういう観点から木の端を少しずつ削って、使う角材を吟味するところから始めることになった。



材料となる角材を選び終えた僕は、その角材を一行分ずつのサイズになるよう切り分けた。

本当は一文字ずつ別々の文字で作ってはめ込む台を作ることも考えた。

その方が部分的にかけてしまったり紛失してしまったりした時、その文字の部分だけを作り直してはめることができるようになるからだ。

しかし、文字が読めない人間がバラバラの文字を指定された文章に並べることはできないし、フォーマットとして同じ文字を書かなければならないところは少ない。

それならば、はめ込み直す作業をさせるより、文章単位で管理した方が楽だろうと判断したのだ。

今後のために、自分用には余ったもので文字をはめ込んで使えるスタンプの試作品を作ってみようと思っているが、今回は仕事の書類作成を誰でも簡単にできるようにするのが優先だ。

なのでまず作成しているのは定型文のところだけで、見積もりの詳細など、内容が異なる部分についてはまだ作成していない。

これだけでもうまく使えれば書類作成が早くなるし、手書きの部分を減らして誤字が減れば紙を無駄にすることも減るだろう。

最初に押すスタンプの内容を間違えても、押すところと順番と向きを間違えなければ、その紙を今手書きしている雛形のストックにすればいいだけだ。

だがそれもすべてうまくいけばの話である。

まずはきちんと使えるスタンプを作らなければならない。



こうしてアイデアは固まった。

そこでまず困ったのは文字の反転である。

ようやく普通の文字を覚えたばかりの僕がその文字を反転させながら彫るという器用なことはできない。

本当ならば紙に一度書いたものを反転するように張り付けて透かし、それを見ながら彫るのがいいのだが、この世界ではとにかく紙が高いのだ。

何か代わりになるものはないかと考えた末、僕は下書きに幅が広く若い青葉を使うことにした。

まず葉の裏面に木の枝などで文字を書いて一文字ずつ切り抜いた。

それから文字を掘る木の上にその葉を裏返しに置いて、置かれた葉の周りに色がつくように、つぶした葉や花をその葉の周りに擦り付ける。

これで反転文字の転写は完成だ。

色のついているところを削り、色のついていないところを残して彫れば反転した文字が出っ張る。

もちろん、そのまま削れば文字の形がいびつになるので、そこは僕が書いたようななめらかさが出るように削らなければならない。

契約書に使用する紙サイズの葉はさすがに手に入らないので、文字の大きさにバラツキがでないよう文字の大きさに気をつけながら作成し、板にどんどん転写していくことになった。

同じ文字が何回か出てくる場合でも葉は数回で使い捨てだ。

僕はたくさんの葉の切り抜きを一行ごとに並べては、逆からひっくり返して角材の上に置いては色を付ける作業を繰り返した。

こうして僕は何とか角材への反転文字の転写を進めたのだった。


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