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僕の麗しき箱庭  作者: まくのゆうき


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アピールの準備

父親に細かいことをする仕事がしたいと説明してから僕は色々と考えた。

僕の周囲に文字の読み書きができる人があまりいない。

おそらく読めても書けない人が大半だ。

そして、この世界の就職活動に履歴書がない。

文字を書けない人が大半なのだから、経歴を書いた紙を出して判断してもらうなどという概念がないのだろう。

それに紙もインクも高級品だから、何枚も使い捨てるわけにはいかない。

不合格になったら相手に渡してはい終わり、という無駄な紙の使い方はできないのだ。

初めてこの世界で就職活動を行うが、おそらく自分を売り込む方法は面談を取りつけてから対面で、言葉で説明をしなければならないのだ。

前世で少し経験があるとはいえ、引きこもりの僕は真剣に考えた。

この世界でも、僕より話すことに長けている人はたくさんいる。

むしろ話ができなければ生活が困難なのだから、話せる人の方が多い。

子供同士でという中でもすでにそうなのだから、間違いなくなんの心構えもなく大人に混ざったら負けてしまうだろう。

それならば僕は自分をどう売り込めばいいのか、そこで行きついたのは作品そのものを持っていくことだった。

そこまではよかったが、今度は何を作ったらいいのか真剣に悩むことになった。

職人のところに足を運んで面接をするなら持ち運べなければならない。

運べるといっても街中に巨大なオブジェを担いで行くわけにはいかないし、そもそも材料や工具など、使えるものが少ない。

もともとカバンに入る小さなものということは考えていた。

だが、僕は父に伝えてしまったのだ、細かい作業を得意とする職人のところに行きたいと。

それならばそれをアピールしなければ意味がないのだ。

僕に使えるのは、森で手に入るもの、そして父がくれた破片で作ったナイフしかない。

これで細かい細工を作るのは困難だ。



そして文字も勉強したいとか口にしてみたものの、こちらは教材になるようなものが少ない。

これは仕事を始めてからしか対応できないだろう。

市場に行って習得できるのはせいぜいそこに売られているものの名前か数を示す表現。

それが分かるようになっただけでも生活するのに随分と楽になったが、皆ができることができても就職に有利になるわけではない。

周囲に確認をしたわけではないが、店が看板や値札を出しているということは、皆が読めるということだと推測される。

ただ、情報を多く取り入れるため、やはり文字については勉強を進めたいと僕は思っている。

もし、親方が良い人で文字を教えてくれるような人だったら、僕はしっかり学びたい。

単語ではなく文章を書けるようになるのが目標だ。

前世の自分がもし、今くらい積極的に外国語を学ぼうとしていたら、もしかしたら引きこもりになどなっていなかったのかもしれないが、生活がかかっているのと、かかっていないのでは、気合の入り方が変わる。

それは仕方のないことだ。

前世はネットで何でも検索できたし、引きこもっていても物の売買はできた。

僕はその境地に至らなかったが、もし知識と資金があったら、デイトレーダーとしてでも稼ぐことができたはずだ。

荷物を家まで運んでもらうことになるので、どうしても玄関を出て荷物を受け取る必要はあるが、対面で働くことに比べたら全然苦痛ではない。

だが、ここにはそのような職業は知る限り存在していないし、そんなやり取りができるほど文明が発達している様子はない。

新築物件が空から降りてくるような世界だけど、特別な技術や■が必要そうだったし、領主様しかできないような感じだった。

だが領主様に通信技術やらそんなものを求めるのも違うだろう。

父の話では職人が領主になることが多いということだった。

やはり期待しても仕方がない。



そうしていきついたのは食べ物のミニチュアを作ることだった。

接着剤や釘、塗料は手に入らないので、木彫りで色がなくても相手が見てわかるものにしようと考えたのである。

前世では木彫りのクマというものをお土産屋で見かけたことがある、そんな気がする。

あれは確か真っ黒だ。

それでもクマがサケを咥えているとわかる。

そんな物が頭に浮かんだのだ。

同じようなものを作れたら楽しそうだが、それを作るには材料も道具も足りない。

それに完成させて持っていったとしても、なぜそれを作ったのかと聞かれた時、困ってしまう。

今のところ僕は森で熊には出会っていないし、鮭という魚も見ていない。

そしてふと、ぼんやりと覚えているイベントで、小さいお菓子を再現したミニチュアや、料理を再現した見本が人気で、わりと手軽に作れるからか、素人が自分で作ったり加工したりしていたことを思い出したのだ。

先日夢に出てきたことが関係しているかもしれないが、夢も記憶もぼんやりとしている。

けれどいいアイデアだとは思ったのだ。

これが仮に本物のお菓子で、食べることができるのなら作る価値はあるのだろうが、生憎僕にお菓子作りの知識はほとんどないし、前世でも自分で一から作ったことはない。

取り寄せたり、買ってきたりして食べる専門だ。

細かい細工はできないし、そもそも再現して喜ばれるようなお菓子に出会ったことはない。

お菓子のミニチュアは見た目はかわいいものになるが、食べたことのない人には想像の産物になってしまう。

やはり見たことないものでは相手の心をひきつけることはできないだろう。

そこで最初に目をつけたのが果物だ。

これなら動物より細工も少なくて済むし、種類も豊富だ。

単純な形で馴染みのあるものだから、ひと目見て、何を作ったか理解されやすいに違いない。

時間と材料があれば色々な種類を作ってもいいし、ミニチュアの見栄えをよくするためにかごに見立てたものをツルで編んでその中に入れたり、お皿やパンを作ってもいいかもしれない。



こうしてアイデアは固まった。

とりあえず材料を森で集めなければならない。

最近、僕が簾作りを広めたせいか、子供の移動範囲に落ちている木や枝が少なくなって、掃除されたようにキレイになってしまっていた。

少し行動範囲を広げて奥まで進んでもいいが、獣が出た時に門まで走れる自信はない。

悩んだ末、僕は次の採集日に材料を探すことにした。

材料の木のサイズでどのくらいのサイズになるか、何をいくつ作るのか、以降、どのような材料を揃えればよいのかが決まる。

接着できないのだから、材料より大きいものは作れないのだ。

こうして採集日、僕は果物と太く折れた木を探すことを決意するのだった。


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