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僕の麗しき箱庭  作者: まくのゆうき


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文字と就職活動

僕はお告げのような夢を見てから、改めて就職というものがどういうものなのかを考えることにした。

夢に見たようなジオラマはいつか作ってみたいと思うが、今すぐにとは思わない。

あくまであれは趣味の延長だったのだ。

たまたま趣味が収入につながっただけで、僕は部屋に引きこもっているだけだったし、その家を維持していたのはおそらく両親だ。

僕は生活の心配をしたことがない。

だからこそ、好きなものを作って、部屋から出たくなければ出ない、そういう生活ができたのだ。

だがここでは違う。

確かに今の生活は父親が支えているが、僕も含め小学生くらいの年齢になれば森へ行き、荷物を抱え、親の手伝いをするようになる。

働けるものは一年でも早く働きに出て生活を支える。

それが当り前なのだ。

だからまず僕がしなければならないのは、安定した収入を得て、家に少しでも貢献することだ。



ここでは学校に通うという制度はないようだ。

もしかしたら裕福な層ではそういうところに通うものがいるのかもしれないが、貧困層の僕たちには関係なさそうである。

学校がないということは、前世のような新卒の一斉採用なども存在しない。

そして全ては親や周囲の大人から学ばなければならないらしい。

そのため、とても習得するのに苦労しているものがある。

文字である。

言葉を話すことはできるようになったが、文字の読み書き、これをできるようになる機会がない。


「父さんは文字を読んだり書いたりできる?」

「なんだ、どうした?」


僕が文字のことを聞くと、父親は眉間にしわを寄せて僕に言った。

この反応、おそらくそんなこと意識したこともないという感じだ。


「いやさ、お店とかに書いてあることがわかるようになったらいいなって思ったんだけど、どうしたら覚えられるかなぁ?」

「文字か。ほとんど使わないからなぁ。なんだ、興味あるのか?」


ほとんど使わない、そう言われて僕はやっぱりという感想しか持てなかった。

分かればたくさんの情報が得られて便利なのに、なぜ覚えようとしないのか分からないが、それは前世で文字から多くの情報を得ていたからそう思うだけかもしれない。

実生活ではさほど困っていないのも事実だ。

でもせっかく興味があるのかと聞いてくれたので僕は勉強したいと言ってみることにした。

そこにもっともらしい理由をつけることも忘れない。


「うん。そういうことができたら、同じ職人としても収入のいいところに入れるのかなって。だから就職する前に身に着けておきたいなって思ったんだ。人よりいろんなことができた方が、早く一人前になれるし、親孝行になるよね」

「お前、そんなふうに思ってたのか……。そうかそうか……」


父親は上を目指したいと言い出した僕の言葉にえらく感動しているが、僕が知りたいのはそこではない。

父親の感動より、勉強できる場所があるのかどうか、そう言いたかったが、せっかく僕の言葉通り親孝行をしようとしている息子を喜んでくれているのだ。

その感動を壊してしまうのは忍びない。

僕はこの日、父親から情報を聞き出すことを諦めた。



僕には前世の知識があるのだ。

前世では読み書きができただけに、できないことをとても不便に感じている。

自分だけがわかればいいのなら前世の言葉で書いてもいいが、それでは相手に見せることができない。

そして文字が関わる仕事はできないままになってしまう。

前世でも、人に関わることは好まずに生きてきた。

僕はどちらかと言うと引きこもり体質なので、就職の時、できれば接客業は外したい。

仮に職人の道に進むとしても、見習いになったら何をさせられるか分からない。

店番など任されたらものづくりを覚える前に脱落してしまう可能性がある。

そうならないよう接客を避けるためには、事務仕事がより多くこなせないといけないと考えている。

それに求人だ。

父親頼みにしているとどうしても口伝えになってしまう。

もし求人票などが張り出されるようなら、条件を自分でも確認して、興味があればこっそり職人街に下見に行くこともできるだろうが、今の状態ではそれはできない。

もちろん父親が自分に紹介する話は伝手があるのだから、面接にこぎつければ採用率は上がるのかもしれないが、選択肢は減ってしまうだろう。



僕が求人の方法について聞いてみると、不定期、少人数の採用がほとんどで、やはりどこかの国のように期間を決めて一括の採用などはあまりしていないそうだ。

職人が必要な時に見習いの募集をかけて、新人を迎えて鍛えるらしい。

一括採用は訓練が必要な騎士やメイドなど、位の高い人のところに仕える仕事では行われているらしいが、市民にとっては一般的ではない。

職人も店も、必要な分の人しか雇えないので、欠員補充しかしないのだ。

ちなみにどの職でも研修期間というものがあり、その間に能力が認められなければ正式に採用されることはない。

研修期間も賃金は発生するらしく、たくさんの研修生を採用すると、その給金をまかなうことが個人の店では難しいという。

だから不採用が決まってから次の人間を募集する。

仮に一度不採用になったとしても諦めの悪い人は、募集がかかるたびに同じ職人のところへ何度も研修にいくのだという。

何度目かで認められて採用される人もいるというのだから、夢を諦めず追いかけてみるのもいいだろう。



「前に家を作れるようになりたいと言っていたが、お前はどんな仕事をしたいんだ?」


父親に尋ねられて僕は悩んだ。

家を作れるようになるためには職人になるのが必須だが、職人も毎日家を作っているわけではなく、普段は売り物になる家具や日用品などを作っているらしい。

仕事にするなら商品を量産するような仕事もしなければならないのだが、何を作っているところがいいのかなどは考えたことがなかった。

できればだが、仕事を覚えたら内職ができるような商品を作っているところがいい。

もし可能ならば将来は家に材料を持ち帰って、家でコツコツと商品を作って納品するような仕事の仕方が理想だ。

まずは仕事を覚えなければならないので、そういう仕事の方法を提案するのは先のことになるかもしれないが、もしこの世界で人間関係をうまく構築できたのなら、その時は交渉してみようと思う。

僕の知る限り、この世界で内職という持ち帰りの仕事は、女性の針仕事くらいしかない。

僕も針仕事ができないわけではないが、数少ない女性の仕事を奪うようなことはしたくない。

うちは裕福ではないのだから、母親ができる仕事は母親に任せ、家族総出で働いて生活費を稼ぎたいところだ。


「そうだなぁ。ものを作る仕事がしたいかな。できれば大きくないもので……」

「大きくないものか。細かいものを作る職人をあたってみるか」

「うん。頼むよ」


少し求職先が具体的になったところで、僕は再びどう活動をするのかを考え直すことにしたのだった。

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