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31.本当にすまないという気持ちで


 初めてのダンジョン攻略で手数の少なさを痛感した俺は、威力や有効性を度外視してとにかく魔道具の種類を増やした。


 ミニフレア魔法銃と対になるウォーターレーザーの魔法銃は元より、攻撃能力はほとんどない岩生成の魔道具が崩落した道の代わりをしたり、魔物の出入り口を塞いだりと意外な性能を発揮したりと、かなり手札が増やせたと思う。


 魔王に送り込まれるダンジョンは過酷さを増して、ダンジョン内で数日過ごす事も珍しくなくなって来た。


 流石にダンジョンの難易度も上がっているのか、最初の廃城ダンジョンのように魔王ゼザが先回りして色々お節介を焼くというような余裕はなくなったようだ。


 途中で全ての道が閉ざされていて最奥まで到達できなかったり、既にダンジョンボスがいなかったりと外れのダンジョンもあった。


 今回は地下に伸びる洞窟ダンジョンで、最奥には巨大な蛇の魔物が待ち構えていた。


 道中にも眷属なのか子供なのか、多数の蛇の魔物が生息していて、魔法銃が当たれば倒せる相手ではあったのだけど、何処からともなく魔物が忍び寄るダンジョンの探索には時間がかかり、攻略には数日かかってしまった。


 ようやく洞窟の先から自然の光が差し込む場所まで来ると、数日ぶりの空に解放感もひとしおだ。


「やった! 外だ!」


 そう喜び勇んで飛び出した、そこは。


 一面雪景色だった。


 周りを見渡してみても、雪原か雪山ばかりだった。


 あれ? 出るとこ間違えたかな?


 俺たちが入った洞窟は、緑豊かな山間にあった岩場のはずだ。一体何が?


 足元から湧き上がる寒気にブルリと震える、と。


 バサリと頭の上から重たいモコモコした何かを掛けられた。


「わぷっ」


「もうそんな季節だったか」


 モコモコをどけると、いつの間にか暖かそうな毛皮のマントを羽織ったミゼさんがいた。


「ミゼさん、季節って何言ってるんですか?」


「何って。雪が降っているんだから、冬だろう?」


 「何を当然の事を聞くんだこのバカは?」という表情で首を傾げるミゼさん。


 え? 俺がおかしいのか?


 ゾワリと全身を寒気が襲う。


 うん、そりゃ寒いよ。長袖シャツ一枚だもん。


 これでも洞窟に潜るということで、少しだけ暖かい恰好をしているのだ。洞窟に潜る前は、せいぜい秋口くらいの気候だったはずだ。


 こんなにいきなり季節が変わるなんて聞いてないよ。


 思わぬ異世界からの洗礼に憤っていると、「着ないのか?」と不思議そうなミゼさんの視線を向けてくる。そこで、ミゼさんが頭から被せてきたのがお揃いの毛皮のマントだったことに気付く。


 世界に対する不満をミゼさんにぶつけるわけにもいかないので、妙にモヤモヤしたままマントを羽織る。


 ふう。あったかい。でも、何か納得できない。


 「父さん――陛下が来るまで、焚き火をするぞ」とミゼさんが洞窟の入り口へと引き返す。


 長いダンジョン探索終わりで、重い毛皮のマントを羽織っているけれど、その足取りは軽やかだ。


 何かちょっとだけ浮かれてる、ような?


「何をしている。結界を張るから早く来い」


 キッと睨み付けられていつものように叱られてしまった。すいません。気のせいでした。




   ◇




 残念ながら微塵も禍々しくない毛皮のマントを羽織った魔王ゼザに迎えに来てもらい、俺たちが魔族の村に転移すると、やはりそこもすっかり雪化粧が施されていた。


「この雪はやっぱりおかしい!」


 「冬支度をするから」とミゼさんが忙しそうに魔王邸に戻ってしまった後、俺はそんなモヤモヤを魔王ゼザにぶつけると、


「少し散歩しようか」


 と珍しく魔王が俺を連れ出した。


 しんしんと舞い降る雪の中、魔王ゼザは雪を掻き分けるように歩いていく。


 畑や水路がどこにあるのか積もった雪で分からないので、魔王ゼザの後ろにぴったりとくっ付いていく。


 トゥタの村では、村人たちが総出で雪に埋まった作物を掘り出したり雪かきをしたりと忙しそうだ。すっかり仲良くなった最年少のネイルとカーラもその中に混じっている。


 「ゆきであそぼうねー」と楽しそうに手を振ってくれた二人に手を振り返し、とにかく魔王の後を追う。


 ダンジョン内でのことを俺に尋ねながら、歩き続けた魔王が立ち止まったのは、トゥタの村を一望できる丘の上だった。


「ここからだと村がよく見えるよね」


 この場所は、森でゴブリンやウェアウルフを相手に修行していた頃によくミゼさんとランチを食べていた丘の上だと思う。魔王親子のお気に入りの場所なのかもしれない。


 魔王ゼザの示すままにトゥタの村を振り返ると、すっかり見慣れた景色のはずなのに、まるで別世界のように白く染まっていた。 


「ユウゴ、君の故郷は雪が降ったかい?」


 唐突に、魔王がそんなことを聞いてきた。


「あまり降らなかったかな。積もるのなんて滅多になかったよ」


 大ニュースになっていたはずだ。電車もバスも止まってしまう。


 喜ぶのは子供ばかり。高校生になると……ちょっと微妙かな。


 でも嫌いじゃなかったな、と。


「あいつも、そんな事を言っていたな」


 あいつとは、誰のことだろうか。600年前の召喚勇者? それとも、もっと最近?


「それでも懐かしい、と感じたりするのかい?」


 魔王が時折語る誰かについて気になったけど、それを考える暇もなく次のお題が出されてしまった。


 懐かしい、か。


 確かに、何故だろうか。


 車も、電信柱もない。


 自分の見慣れた景色ではないはずなのに。


 雪に染まった村は、何故か見覚えがあるように思えてしまった。


 うーん。あっ。


「もしかして、日本昔話かな?」


「それは初めて聞く単語だな」 


 興味深そうにする魔王ゼザに、テレビアニメについて教えるのは大変そうなので、紙芝居として昔話を語り継ぐのだと伝える。


「なるほどね。見たことがないのに、懐かしいという理由の秘密は、それかな」


 少しだけ楽しそうに、魔王ゼザが苦笑する。


 一体なんだというのだろうか。


 俺が不審がっているのを察したのか、魔王ゼザが口を開いた。


「実はね、これは伝聞。言い伝えなのだけどね? 元々、この大陸にはほとんど雪が降らなかったんだそうだよ。今も冬以外は、北と南の端くらいかな。雪が見れるのは」


「うん」


「それでね。大昔に、この大陸に呪いを掛けた人がいたそうだよ。『雪をもっと降れ!』とね」


「それはまた……はた迷惑な。」


「そしてこうも言ったそうだよ? 『日本に帰してくれ!』とね」


 …………。


「うちのモンがご迷惑をおかけしました!」


 雪の上に土下座しようとするのを、魔王ゼザに止められる。


「伝聞だから。真偽の程は、長命種である私たちにも分からないよ」


 「でも納得出来ただろう?」と魔王がニヤリと微笑む。


 俺は言葉が出ず、こくりと頷くことしか出来なかった。


「さあ、私たちもミゼの手伝いをしに帰ろうか。冬は三ヶ月程続く。たっぷり堪能してくれ」


 いつものおどけた様子の魔王に背を押され、村へと踵を返した。


※誤字修正しました。

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